第19話 属性魔法

 オリバーと共にライリーに追い付いた龍巳は、どんどん先に行こうとするライリーを説得して普通の速度で魔法師団の訓練場に向かっていた。


「オリバーさん、なんでライリーさんはあんなに急ごうとしていたんですか?」


 共に行動をするべきであろう龍巳とオリバーを置いて行こうとしたライリーにさすがに疑問を禁じ得なかった龍巳がオリバーに質問する。......まあ今もライリーは龍巳たちよりも数メートルほど先行しているが。


「あー、あいつが元々魔法師団に入ったのは、ガキの頃に見たソフィアさんの魔法に魅了されたからだからなぁ......。いつもはソフィアさんとうちの団長のケンカ、っていうか小競り合いを諌めてるんだけど、それも多分ソフィアさんが団長と仲良さそうにしてるのが気に入らないって言うのがあるんだろうな」


その言葉に龍巳は新たな疑問が浮かび、再びオリバーに質問する。


「もしかして、オリバーさんとライリーさんって昔からの知り合いだったりします?」

「ん、まあな。俺もライリーも田舎の村の出身でよ。まだ平の団員だったソフィアさんがうちの村にパトロールに来たときに村が魔物に襲われちまって、それを救ってくれたのが......」


その言葉の先を龍巳が予想する。


「ソフィアさんだったんですね?」

「おう、その通りだ。で、ライリーは魔法の才能があったから魔法師団に入って、それに付き合うことになった俺は騎士団員になったってわけだ」


つまりオリバーとライリーは幼馴染みであり、同時期に副団長になれるほどの才能を持ち合わせていたと言うことだ。


「奇跡ですね......」


ふと漏らした龍巳の言葉にオリバーが顔を赤くして反応する。


「バッ!お、お前なに変なこと言ってんだ!?俺はただ村の連中に頼まれたからあいつを見張ってるだけで......」

「はいはい、分かってますよ」


ニヤニヤしながら龍巳が返した言葉に、オリバーがさらに反応する。そしてまた龍巳がニヤニヤして......というスパイラルを続けたまま、一行は魔法師団の訓練場に向かう。

 ......前で龍巳とオリバーのやり取り聞こえていたライリーの耳が赤くなっていることは、この場にいる男連中にばれることはなかった。


 そして三人がついた訓練場では、魔法師団の団員たちが魔法を放っているところであった。


「ファイアー・ボール!」

「アクア・ランス!」


 炎の球と水の槍が激突する。炎の球は小さくなっていくが、同時に水の槍も煙をあげながら蒸発していく。結果、二つの魔法はほぼ同時に消え失せた。

 その光景に見入っていた龍巳は、オリバーに声をかけられて我に変える。


「どうだ?あれが魔法だ」

「は、はい、すごいですね......。火と水が両方とも形を保ったまま飛んでいくなんて、俺たちの世界じゃ考えられないことです」


そんな感想を口に出していると、美奈(と一緒にいるソフィア)を見つけたライリーが龍巳たちに声をかけた。


「あんたたち!団長のところにいくわよ!きっと知の勇者と一緒に魔法について色々教えてもらえるわ」


 龍巳も魔法について教えてもらえるのならその方がいいと思い、ライリーの言葉に従って美奈の方へ向かう。

 すると龍巳に気づいた美奈が控えめに手を振って龍巳に挨拶をする。龍巳も手を上げてそれに応えたとき、ライリーがソフィアに話しかけた。


「団長!今いいですか?」

「あら、ライリー。今ミナに団員の魔法を見せながら魔法について説明しようとしているから後に......ってああ、そういうこと。タツミも一緒に聞かせてくれということね?」

「はい!話が早くて助かります!ほらタツミももっとこっちに来なさい」


 そしてソフィアの魔法講座が始まった。


「二人とも『治癒魔法』は会得したらしいけど、その時に気づいたことはある?」


そう言われて、二人は美奈が魔力を変換しただけではスキルを得られず、宗太に魔力を流した時にスキルを得られたことを思い出した。そして美奈が発言する。


「ええと、魔力を変換するだけじゃなくて、それを人に流さないとスキルを得られませんでした」


その言葉に、ソフィアは我が意を得たり、と言わんばかりに笑みを浮かべて答える。


「そうよ。魔法とは『魔力を変換し、それを操ることで起こる現象』のこと。治癒魔法の場合は魔力を変換して流せばそれなりの効果を得られるけど、もっといい方法があるの」


今度は龍巳がソフィアに聞き返す。


「いい方法?」

「ええ。もっと具体的なイメージをもって魔力を流すのよ。『この怪我がこうやって治る』って感じでね。そうすると少ない魔力で大きな効果が得られるわ」

「具体的なイメージ、ですか......」


 そしてソフィアの話は、団員の使う『属性魔法』へと移った。


「じゃあ次に『属性魔法』の話をするわよ」


その単語に聞き覚えのあった龍巳は、トッマーソから聞いたことを復唱する。


「たしか、火・水・土・風の四元素とそこから派生した属性があるんでしたっけ?」

「そうよ。トッマーソに聞いたのよね?」

「ええ、まあ」

「じゃあそこの説明は省くわね。それで属性魔法だけど、これにもイメージが大事なのよ」

「またですか?」


美奈が聞くが、それにソフィアは嫌な顔ひとつせず答える。


「ええ、またよ。というか、魔法はほとんどイメージしか大事なものはないわ。あとは魔力ぐらいね。例えばさっき見ていた『ファイアー・ボール』だけど、あれも火の球をイメージして作った魔法なのよ」


そう言われて美奈が驚く。ファンタジー系の物語も読んでいた彼女にとって、魔法とは呪文によって発動するものだという先入観を持っていたためだ。


「じゃあ、さっき『ファイアー・ボール』って魔法の名前を唱えていたのって何か理由があるわけじゃあないんですか?」

「ああ、あれは名前を唱えて魔法をイメージしやすくしているのよ。使える魔法が増えれば増えるほどイメージが混濁しちゃうから、名前を唱えてイメージを鮮明にしているの」

「な、なるほど」


美奈が納得したのを見て、ソフィアは話を次に進める。


「そんな感じで、属性魔法は魔力を火だとか水だとかの属性に変換させてから、それを生み出して操ることで発動するの。魔力を属性に変換するのには、”色”で魔力をイメージするとやり易いわよ。火なら”赤”、水なら”青”って具合にね」


 そこまで話すと、ソフィアは美奈と龍巳を訓練場の端から少し中央寄りに移動させてからこんなことを言い放った。


「じゃあ解説はこんなところにして、ひとまずやってみましょうか。まずは簡単な火魔法がいいわね」


突然のソフィアの提案に一瞬呆然とした龍巳と美奈であったが、すぐに持ち直すとそれぞれ魔力を変換させ始めた。それぞれの中で魔力が赤色の熱いものに変わったと感じた瞬間、二人とも先程の炎の球を思い出しつつ手を前に突きだし、その名前を口にする。


「「ファイアー・ボール!」」


ーーボオォォォ!!ーー


彼らの目の前には想像した通りの火球が出現し、それと同時に


ーー魔法スキル『火魔法』を会得しましたーー


と頭の中に声が響く。

 異世界人二人が、始めて属性魔法を使った瞬間であった。



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