第18話 期待
「じゃあ全員が無事回復スキルを会得したところで、三人にはそれぞれ担当をつけて別々に訓練してもらう」
午前に回復スキルを手に入れた三人とトッマーソは、軽い昼食をはさんでから新たな修行に入ろうとしていた。
トッマーソが次に何をするのかを言うと、訓練場に三人の男女が入ってきた。そのうちの二人が女性で、一人が男性のようだ。男性はトッマーソと同じく騎士然とした鎧に身を包んでおり、女性二人は軽装だ。しかしその二人の腰には三、四十センチほどの杖が下げられており、夏の金曜日によく特集が組まれる某魔法学園の魔法使いたちが使うもののように龍巳には見えた。
そして三人がトッマーソの横に並び立つと、トッマーソが彼らの紹介をする。
「じゃあ紹介するぜ。この緑髪の女が王国魔法師団の団長サマのソフィア・エーデルト。この人が”知”の嬢ちゃんの担当だ。で、俺がソウタの担当。残りの二人は騎士団と魔法師団の副団長で、金髪の野郎が俺の部下でオリバー・センス。青髪の女が魔法師団副団長、ライリー・ムーアだ。二人ともタツミの担当に入る」
「「「よろしく(ね)」」」
この紹介に疑問が生まれた龍巳が、トッマーソに質問する。
「あの、なんで俺に二人も担当をつけるんですか?勇者には一人ずつなのに......」
「ん?ああ、勇者に一人ずつつけるのは元々決まってたんだ。お前たちが謁見の間で称号の説明をしたときからな」
「それはどういう......」
すると魔法師団長のソフィアが会話に参加する。
「スキル構成が近い者の方が効率的な修行ができるだろうってことで、この構成になったのよ。ミナは魔法特化型のスキル構成になる予定なんでしょ?なら魔法師団長の私が担当に入るのが妥当ってことね」
「そういうこと。でソウタはその逆で身体強化系と戦闘系だっけか?その二つは俺の専門分野だ。さすがに貴族どもが騒ぐからってんで俺らをタツミの担当にするわけにはいかなかったらしい。アルのおっさんも結構悔しがってたぜ」
そう、実は龍巳が城に戻ってアルフォードと話したあと、アルフォードは龍巳の担当にトッマーソとソフィアの二人を勇者から外してつけようとしていたのだが、それを側近である大臣に止められたのだ。
『そこまでタツミ殿に傾倒しては、どんな反感が生まれるか分かりません!』
とのこと。それで結局、二つの団の副団長が龍巳につけられることになったのだった。
その経緯をトッマーソから聞いた龍巳は......
「そう、ですか......」
アルフォードにそこまで期待してもらっていることに喜びを隠せていなかった。
「はっはっは!タツミは随分とおっさんに気に入られてんだな!どうやったんだよ、おい!」
その言葉に龍巳は、声にできる限りの誠実さを込めてこう答えた。
「いえ、特になにも。ただ......」
「ただ?」
「友人になりました」
龍巳の言葉に、トッマーソだけでなく宗太や美奈、ソフィアなどこの場にいる全員が呆気にとられた表情をする。
そして最初に我に戻ったトッマーソは、
「んくっ、はっ、ははははは!!!!」
盛大に笑い始めた。
「そうか!ダチになったか!そりゃあ期待もするわな!いや、お前面白いやつだなぁ!俺ともダチになってくれねえか?」
その言葉に龍巳はテンプレのようにこう返す。
「俺は、もう友達だと思ってましたよ、トッマーソさん?」
そしてトッマーソはさらに大きな声で笑い始め、周りのソフィアとオリバー、ライリーもクスクスと笑い始める。
「はっはっは!!こりゃ一本取られたぜ!」
「そうね、あんたがここまで気に入るなんて何年ぶりよ、トッマーソ」
「いや、そういうソフィアさんも笑ってるじゃないですか!?」
「オリバーもね」
そして訓練場が笑いの渦に巻き込まれた数分後、ようやく落ち着いたトッマーソが気を取り直して異世界組三人に声をかける。
「いやぁ、取り乱して悪かったな」
「ほんとよね」
「うるせーぞ、ソフィア!お前だって笑ってたじゃねえか!」
「団長!また脱線してますよ!早く話を進めてください!」
「ソフィア様もいちいち茶化さないでください」
「「うっ、すまない(かったわね)......」」
話が脱線しかけたところで、修正をかける二人の副団長。このやり取りのタイムラグのなさは、龍巳たちがこれがいつもの事だと察するには十分であった。
三人が呆れた目で見ていることに気づいたのか、トッマーソが咳払いをしてから話を続ける。
「んっん!とにかく、これから三組に分かれて修行をすることにする。それぞれの戦い方に合わせたスキル構成が、この世界での勝敗を分けると言っても過言ではない。何か分からないことがあったら担当に聞きに行け。以上!」
そう言ったトッマーソは宗太を連れて訓練場の端に移動する。
するとソフィアが美奈に声をかけた。
「じゃあ私たちは魔法師団の訓練場に行きましょうか。今ごろ他の団員たちも訓練しているだろうから、どんな魔法があるのかも見られるしね」
「は、はい!分かりました!」
そして、龍巳はオリバーに声をかけられる。
「よし、じゃあタツミ!お前はどうする?」
「どうするって、どういうことですか?」
「お前は何のスキルでも得られるんだろ?ならここで戦闘系のスキルを覚えるか、それとも魔法師団の訓練場に行って魔法を見るか選ばせようと思ってよ」
するとライリーが龍巳に言う。
「あなたがどう戦っていくのかはあなたが決めることよ。私たちはそれを手伝うだけ」
その言葉を聞いた龍巳は少し考えた後、二人にどうするのかを伝えた。
「じゃあ、まずは魔法がどういう物か見てみたいです」
「よし!そうと決まれば魔法師団の訓練場に行くか!」
「早く行けば団長の話も聞けるかもしれないわね......。タツミ!急ぐわよ!」
「あ!おい、待てって!タツミ急げ!あの魔法バカに置いてかれるぞ」
かくして、龍巳は魔法師団副団長、ライリー・ムーアを追いかけて魔法師団の訓練場に向かうのだった。
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