第17話 スキルと魔力
「ん?んん......」
現在、異世界組三人はイグニス王国の騎士団長トッマーソの指導のもと、回復系のスキルを会得するために頑張っているのだが......
「っか~、ダメだ!全然スキルを覚えられる気がしねえ!」
まず宗太が音をあげた。他の二人も宗太に内心同意しているのか、宗太の愚痴に文句を言う様子はない。
そんな三人にトッマーソは疑問の声をあげた。
「う~ん、勇者なら『このスキルが欲しい!』と思えばいけると思ったんだけどな......」
「そもそも、この世界の人はどうやってスキルを会得しているんですか?」
龍巳が思ったことを聞く。
「基本的には訓練していたらいつのまにか会得していたって感じだな。なんで得られるのかて言うのは実際のところ、あまり分かっていないんだ」
そう言われた龍巳は、どうすればスキルを得られるのかを改めて考え始める。
「とりあえず、今持っているスキルについて考える所から考えてみない?」
「そうだな、このままだと何もないまま一日を過ごしちまいそうだ」
龍巳の提案に宗太が同意する。美奈も反対する気もないようで、横でうんうんと頷いている。
「まず、謁見の間で鑑定スキルを使ったときのことを思い出してみよう。俺は『このスキルでこれについて知りたい』ってイメージしたらできたけど、二人は?」
「俺も似たようなものだな」
「私も」
鑑定スキルの確認を行ったあとは、他のスキルの確認を始める三人。
「俺は今のところ他にスキルを持っていないんだけど、二人は鑑定スキルの他にもスキルを持ってるんだっけ?」
「おう。俺は『拳闘術Lv.5』と『柔術Lv.5』だな」
「私は『記憶保管Lv.5』と『思考加速Lv.5』ね」
「じゃあ何でもいいから一つ使ってみてくれないか?数をこなせば何かヒントが得られるかもしれないし」
「「分かった(わ)」」
まず美奈が『思考加速』を使おうとする。『記憶保管』は名前からして今使ってみても意味がないと判断したためだ。
「使ってみたわよ」
「え、今使ってる状態?」
「違うわよ。解いてから会話してるわ。使ってみたけど、周りがスローモーションに見えたわね。体感的には二倍ぐらいかしら?レベルが五のわりには大したことないわね」
そこまで聞いたところで、龍巳は鑑定スキルにスキルの詳細を知る能力もあることを思い出した。
「なあ美奈、一度ステータスを開いて、『思考加速』に鑑定をしてみてくれないか?たぶんそれで『思考加速』について詳細がわかるはずだ」
「スキルに鑑定を......?分かったわ」
美奈が『思考加速』に鑑定スキルを使った結果がこれだ。
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<思考加速Lv.5>
思考する速度を速くする。本人には周りがスローモーションに見えるが、あくまで脳の処理速度をあげた結果なので眼球ぐらいしか動かせない。
Lv.5では最大千倍まで加速できる。
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地球のオタクが見たら「どこのBBだ!」となりそうな内容であったが、幸か不幸かそのラノベを知っているものはこの場にはいなかった。
それはともかくとして、その内容を聞いた龍巳はなぜ先程は二倍ほどしか加速しなかったのかを考えようとし、美奈にもう一度使ってみるように頼んだ。
「いいわよ。......すごいわね、これ!周りが完全に止まっていたわよ!」
(今度は千倍までできたってことかな。つまり、千倍までいけると知らなかったからできた?でもそれだと、鑑定スキルを持たない人にはスキルの真価を発揮できないということに......。あ、宗太は?)
ここで宗太にもスキルを使うように頼んだことを思い出した龍巳は、宗太がいる方に向き直った。そして龍巳が見たのは......
「やっぱ騎士団長さんはスゲーな!結構いい線いってると思ったんだけどな!」
「そういうソウタもさすがは勇者だな!スキルのない世界にいながらここまでスキルを使いこなすとは!」
トッマーソと戦っている宗太の姿であった。スキルを使っているのか、すさまじい速度でお互いの拳を打ち出しあっているさまは龍巳が呆然とするには十分な光景であった。
少しして気を取り直した龍巳は、このままでは話を聞くどころではないと思い二人に声をかけて止める。
「ちょっと!なにしてんの、あんたら!」
その声に、二人がお互いの顔に向けて突き出していた拳を止める。
「お?ああ、悪い悪い。スキルを試すには戦うのが一番だと思ってよ。トッマートに組手を頼んだんだ」
「そうそう。てかこいつすげえな!この世界に来たばっかだってのにあっという間に順応しやがったぞ!さすがは勇者様ってか?はっはっは!」
「へ~、そこまでスキルを使いこなせたってことは鑑定スキルでもう見たのか?」
その龍巳の質問に不思議そうな顔をする宗太。
「見るって、何を見るんだ?」
「え?いや、何を使ったのかは知らないけど、スキルを鑑定しただろ?」
「そんなことしてねえよ。でもそんなことができるんだな......。やってみるか。『ステータス』、『鑑定』」
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<拳闘術>
魔力により拳による戦闘を補助する。
Lv.5では常人どころか達人ですら追い付けない『人外』の域での戦闘が可能。
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この鑑定結果を聞いた龍巳は一つの仮説を得た。
龍巳が注目したのは『魔力により補助する』という部分だ。
(『魔力』。そういえばスキルを使うときも魔力がトリガーだって話をしてたな......。もしかして、スキルを得るのにも魔力が大事なんじゃ?」
その仮説を実証すべく、ひとまずは鑑定スキルを使うことで魔力を感じようと試みる龍巳は何でもいいから鑑定スキルを使うことにする。
(じゃあ宗太でいいか。『鑑定』)
すると、想像もしていなかったことが起きた。
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ソウタ・カヤマ 17歳 男 Lv.1
称号:武の勇者、異世界人
体力:180
魔力:90
物攻:200
魔攻:100
物耐:200
魔耐:150
筋力:200
敏捷:200
器用:100
<スキル>
鑑定Lv.5、拳闘術Lv.5、柔術Lv.5
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なんと宗太のステータスを見ることができてしまったのだ。
これは恐らく大変なことだと分かってはいるものの、そうそう人に言えることでもないと理解しているために今は頭の隅に置いておくことにした龍巳は、スキルを使った時の感覚を思いだし、魔力の感覚をつかむ。
(今スキルを使ったとき、胸の奥から頭の方に何かが移動するような感覚があった。つまり胸の奥に魔力があると考えられるから、”これ”を治癒するために使うとイメージして......)
龍巳が魔力を少しずつ治癒を行うためのものに変換していると......
ーースキル『治癒力上昇』を会得しましたーー
突然頭の中に声が響いた。その事に驚いて体がビクッ、となってしまった龍巳に気づいた美奈が、後ろから声をかける。
「龍巳、どうしたの?変な動きしちゃって」
「あ、ああ。どうやらスキルを会得したらしい......」
「え、ほんと!?どうやったのよ?」
「スキルを使ったときに胸の奥から何かが移動する感覚があったから、それを治癒できるものに変えるイメージを思い浮かべたら『治癒力上昇』ってスキルを手に入れた」
「なるほど、胸の奥の何かね......。んっ」
その事を聞いた美奈は龍巳の言う通りに魔力を感じることができ、それを変換しようとするのだが頭のなかに声は響いてこなかった。
「あれ?その”何か”っていうのは感じられたけど、スキルは得られないわよ?」
「え、ほんと?おかしいな。俺はそれでできたんだけど......」
その時、いつのまにかまたトッマーソと組手をしていたソウタがこちらに吹き飛んできた。
「うおおおお!!??」
「うわっ!?」
「きゃあ!?」
とっさにそれを避ける龍巳と美奈。しかし吹き飛んできた宗太は、体のあちらこちらに擦り傷を作っていた。それをみた美奈は無意識に変換したままの魔力を宗太に流す。すると宗太の擦り傷がみるみる治っていくではないか!とその時......
ーー魔法スキル『治癒魔法』を会得しましたーー
美奈の頭のなかに声が響いた。
「やった!『治癒魔法』ってスキルを手に入れたみたい!」
「あ~なるほど。美奈が覚えられるのは魔法スキルだから、治癒の魔力を操らないと得られなかったのか......」
龍巳はそのように考察すると、ついでと言わんばかりに自分も治癒の魔力を宗太に流す。
ーー魔法スキル『治癒魔法』を会得しましたーー
予想通り『治癒魔法』も得た龍巳は、宗太を起こしてスキルの会得方法を教える。
宗太も無事に『治癒力上昇』スキルを手に入れると、もうお昼時になっていたことに気づいたトッマーソに言われて午前の修行はここで終えることにしたのだった。
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