第16話 修行開始

「龍巳君!?戻ってきてたんだ!探しに行きたかったんだけど、アルセリアさんにずっと止められて行けなかったんだ......」


 龍巳がアルフォードと話した翌日、龍巳は昨夜言われた通りこの日から鍛えてもらうために、城の内部にある騎士団の訓練場に来ていた。その場には当然、勇者の二人も来ていたが、そのうちの一人、”知の勇者”伊敷美奈は龍巳の姿を視界に捉えると龍巳の方に走り寄り、龍巳の無事を喜んでいた。

 しかしこの台詞に恋愛感情は含まれておらず、純粋に同郷の者を心配するがゆえに出てきた言葉であった。


「心配をかけてごめん。まあ仮にも勇者を、不用意に外出させるわけにもいかないってことなんだろうね」


その時、美奈に遅れて龍巳に合流した宗太も会話に参加してきた。


「そうだな。ところで、この三人の中で一人だけ城の外に出たやつがいるわけなんだが、話を聞かせてくれるよな?」


宗太はニヤニヤしながら龍巳に問いかける。龍巳も、仕方ないかと思いながら答えることにした。


「いいけど、あまり気持ちのいい話じゃ無いぞ?まず、この城から離れることに気をとられ過ぎて、城下町の様子はほとんど見てなかったからな」


そして龍巳は、二人に二日間のことを話した。アルフォードに話したときよりも様々な部分を省いて伝えたが、子供たちと魔物のことについてはしっかりと話した。

 子供たちの親が魔物に殺されたことを聞いた二人の勇者は、顔を歪めながら更に龍巳に問いかける。


「そんなことが......」

「それで、お前はなんでまた戻ってきたんだ?その子供たちの親の仇をとろうってか?」

「まあそれも無くはないけど、あの子たちを見捨ててこの国が滅びるのを黙って見ているわけには行かなくなったんだよ。でもこのままじゃなにもできないから、アルフォードに強くしてくれって頼んだんだ」


 ちなみに、龍巳が今アルフォードのことを「アルフォード」と砕けた呼び方になっているのはアルフォードに頼まれていたからだ。昨夜、龍巳が挑戦的な言葉で返事をしたあと、アルフォードは


『ここまで腹を割って話しておいて「国王陛下」と呼ばれるのは気持ち悪いな。これからは「陛下」はなしで頼む。敬語もなしでいいぞ』


と龍巳に言った。貴族の前でそのような態度ではまた何を言われるか分かったものではないので、貴族のいないプライベートな場では敬語は使わず、「アルフォード」と呼ぶことを約束したのだ。そこには、年齢を超えた繋がりがあった。

 龍巳の国王への呼び方が変わっていることに気づいた宗太と美奈であったが、特に触れることもなく話を次に進める。


「なるほどね。それでここに戻ってきたって訳か」

「じゃあ頑張って強くならなくちゃね!」

「ああ、そうだな」


 そこまで話したとき、三人しかいなかった訓練場にもう一人の姿が入ってきた。

 その格好はいかにも「騎士」というものであり、白銀の鎧を身に付け、おそらく両手剣だと思われる大きさの西洋剣を腰に下げている。顔から男であると言うこともわかり、まっすぐに龍巳たちの方へと歩いてくる。

 その時、宗太が笑みを浮かべて龍巳と美奈に声をかける。


「あいつ......強いな。正直今の俺じゃ全く相手にならないくらいには強いみたいだな」


龍巳と美奈は「”武の勇者”の宗太でさえ全く相手にならないって、どれだけ強いのだろう?」と若干の恐怖を感じながらもそんなことを思った。

 そして龍巳たちの前に来たその騎士は、三人に目配せをしたあとに口を開いた。


「よう、お前さんらが異世界から召喚されたってやつだな?俺はトッマーソ。この国の騎士団長なんてものをやっている。自己紹介はしなくていいぜ。アルのおっさんからお前らのことは聞いてるからな」


突然の自己紹介とその内容に呆然とする三人。とりあえず龍巳が気になったことを質問する。


「えっと、アルのおっさんってもしかして、国王陛下のことですか?」

「ああそうそう、その通り。いつもはこれで通じるから、ついな。で、俺がこの場にいる理由なんだが、それはお前さんらも分かってるんだろ?」


その言葉に三人ともうなずく。アルフォードに話を聞いていて、この訓練場に三人の異世界人がいることを知って来たということは......


「そうだ。俺はお前らを鍛えるためにここに来た。といっても本格的に鍛えるのはもう少ししてからで、まずは基礎と今後の方針を話すだけなんだけどな」


そう言って「ニカッ」と笑う騎士団長、トッマーソの勇者である二人を無駄に持ち上げようともしない様子に、三人とも「この人は信用できそうだ」と思った。




 そしてトッマーソは、三人にこの世界の基礎を教え始める。


「じゃあまずは、この世界におけるスキルについて教えてやろう。おっさんに聞いたけど、お前らの世界にはスキルはなかったんだって?魔力はあったか?」


 なぜアルフォードが龍巳たちの世界にスキルがないことを知っているかと言うと、昨夜のうちに修行の方針を決めるためにアルフォードが龍巳に色々と聞いていたからだ。

 龍巳がトッマーソの質問に答える。


「ないです」

「それならスキルがないのも納得だな。スキルは『魔法スキル』とそれ以外の『一般スキル』に分けられるんだが、そのどちらも魔力が必要になるんだ」

「魔法スキルに魔力が必要なのは何となく分かりますが、他のものにもですか?」


美奈が龍巳に続いて質問する。ファンタジーもよく読んでいた美奈は何となく魔力というものを理解しているらしい。


 トッマーソ曰く、一般スキルとは魔力をトリガーとしてスキルを発動させるものらしい。スキルを使うと人間の身体構造的に不可能な動きができるようになるのだとか。

 それに対して魔法スキルは、そのスキルに関係するものを生み出したり操るものだと言う。”火魔法”なら火を生み出して操る、というように。

 魔法には属性魔法と非属性魔法の二種類がある。前者は火・水・土・風の四元素とそこから派生した属性のスキルであり、後者はそれ以外のものを指す。

 魔法スキルにはスキル名の末尾に「〇〇魔法」とステータスに書かれるので、それで一般スキルかどうかを見分けるのだとか。


「それで、魔法スキルはイメージ次第で様々な効果を得られると言うわけだ。つまり、魔法スキルは汎用性が高いってことだな」


 スキルの説明を受けた美奈が、トッマーソに質問をする。


「ということは、一般スキルよりも魔法スキルの方が色々なことができて優れているってことですか?」

「いや、それは違う。一般スキルはできることが限られている分、発動にタイムラグがほとんどないし、魔力効率もいいからな。どちらが優れているかは一概には決められない」


 そしてスキルについての説明を終え、三人の修行が開始された。


「まず、お前らには回復系のスキルを会得してもらう」


 トッマーソの言葉に宗太が唖然とする。


「ちょ、ちょっと待てよ。強くなるために修行するんだろう?なのになんで回復系なんだ?攻撃とか防御とか、そういう直接的なやつでいいじゃないか」

「いや、回復系を覚えるのは強くなるための基礎とも言える重要なものだ」


すると宗太に続いて龍巳がトッマーソに問う。


「なんで回復系が基礎なんですか?」

「回復系のスキルをとっておけば、少しぐらい無茶をしても大丈夫だからな。強くなる下地としては十分だろ?」


その言葉は少しの無茶は普通にさせると言っているようなもので、美奈は嫌そうな顔をした。しかし龍巳と宗太の男二人は笑みを浮かべてどれだけ強くなれるかに思いを馳せるのであった。

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