第13話 五人目
朝になり龍巳が目を覚ますと、ちょうど他の部屋の子供たちも起きたようでドアの向こう側が少し騒がしくなっていた。その音に急かされるように城から持ってきた服に着替えると、ドアを開けて昨夜夕食を食べた場所に向かう。廊下に出るとエリーサがリックの部屋のドアを叩いて起こしているところだった。
「ほらリック!朝ごはんだよ!さっさと起きて顔洗ってきな!エレナたちは先に顔洗いに行っててくれ。いいところにタツミお兄さんもいるし、お兄さんを洗面所に案内してやっておくれ」
龍巳が部屋から出てきたことに気づいたエリーサは、子供たちにそう指示をしてリックの部屋に入っていった。どうやらしびれを切らして直接起こすことにしたらしい。
エリーサに案内するよう言われた子供たち三人は龍巳の背中を押して「早く早く!」と急かしながら階段を上がり、洗面所へ向かう。龍巳も、寝起きでよく働かない頭を頑張って動かしながら子供たちに転ばされないように足を前に出す。
そして洗面台についた龍巳は、顔を洗って他の子供たちが顔を洗い終わるのを待ってから朝食に向かった。
椅子に座った龍巳は金髪の少女エレナに促され、リックとエリーサが来ていないにも関わらず朝ごはんを食べはじめる。他の子も何の疑問も抱かずに一緒に食べていることから、リックとエリーサが遅れるのはいつものことなのだろうと判断して朝食を口に運ぶ龍巳であった。
朝食を少し食べた辺りでリックとエリーサが朝食に参加した。リックの頭には小さなたんこぶが見え、龍巳は、そういえばさっき洗面所からここに来るときに後ろで何かがぶつかる音がしていた事を思い出した。しかしそれには触れずに今日の予定をエリーサと相談する。
「エリーサさん、今日は何か予定ってありますか?」
「そうだねぇ......もともと今日の午前中は剣術をこの子達に教える予定だったから、午後から遊んであげてくれるかい?早めに終わったら午前中から頼むかもしれないけど......」
「わかりました。じゃあ俺は遊びの準備をしていますね。ところで、子供たちが持っているナイフを使っておもちゃを皆で作って遊ぼうと思うんですけど、いいですか?」
「ああ、構わないよ。ナイフとかの武器は慣れるのが一番だからね。訓練にもなって一石二鳥さ」
ここまでの会話で龍巳はある疑問を持ち、エリーサに尋ねる。
「エリーサさんって子供たちに剣術を教えているんですよね?武器に関しての知識もあるみたいだし、教会のシスター以外に何かやっているんですか?」
その質問にエリーサは一瞬不意を突かれたような顔をするが、すぐに答える。
「ああ、私は昔”冒険者”をやっていたんだよ」
「冒険者、ですか......。旅でもしていたんですか?」
「なんだいあんた、冒険者を知らないのかい?冒険者って言うのはね......」
エリーサ
「なるほど。それで自分の身を守るために剣術や武器の扱いを学んだ、と」
「そういうこと。そして今では冒険者時代の貯金を使ってこの子達の面倒を見ているというわけさ。教会には冒険者を引退してから入ったんだ」
彼女の言葉には今までの苦労や努力を思い出す響きが含まれており、龍巳は彼女が常に危険と隣り合った職業であった事を知って「これからは子供たちと平和に過ごしてほしい」と願った。が、その未来を守る事を放棄したのを思い出して罪悪感から顔を歪めた。
「どうした?冒険者に何か苦い思い出でもあったかい?」
「いえ、そういうわけではないです。心配してくださってありがとうございます」
「まあ、元気だしなよ。子供たちと遊ぶのに暗い顔してちゃ身が持たないよ?」
そういって軽く微笑みながら龍巳を励ますエリーサの様子は、龍巳にとって罪悪感を増すものであると同時に城に戻る事を考えはじめるきっかけになったのだった。
そしてエリーサが子供たちに剣術を教え始めると、龍巳は広場を歩いて生えている木から既に離れた枯れ木を拾っていた。生の木だとナイフで削るのが難しいからだ。
(なんだか落ちている木が意外と多いな。子供たちが遊んでいる間に折れたってところか)
そんな風に考察していると、広場の中心で訓練をしている子供たちと目が合い手を振る。
子供たちの内、エリーサと剣の打ち合い(もちろん危険のない木剣だが)をしていないエレナとジャックは手を振り返し、打ち合っているリックは特に何の反応もできず、ルイはリックとエリーサの打ち合いを熱心に見ている。
(やっぱり剣術バカなのかな?)
ルイの様子を見て昨夜に続きそう思う龍巳であったが、エレナがエリーサに呼ばれたのを見て、また木を拾い始めたのだった。
剣術の指導が終わり、まだ昼食までは時間があるということで先に遊びを始めることにした龍巳たち。何をやるかと言うと......
「じゃあ今日は竹トンボならぬ木トンボを作ってみようか」
「きとんぼ?なにそれ」
ジャックの質問に龍巳は説明を始める。
「簡単に言えば飛ぶおもちゃだね。手で回すと空を飛ぶんだ」
「風魔法でも使っているの?」
「いや?魔法は一切使わないよ。これが見本ね」
そう言って龍巳が取り出したのは、剣術の時間にエリーサのナイフを借りて作っておいた木トンボ。言ってしまえば竹トンボもどきである。
(器用さのステータスが高いせいか、地球にいた頃よりも思った通りに削れるから簡単にできたんだよなぁ)
そんなことを思っているが、地球にいた頃から物の作成は早い方でありいつも孤児院の子供たちから感心されていたのを本人は知らない。
「ひとまずは、この棒の部分を作ってみよう。ある
そして子供たち四人は龍巳に言われた通り棒を削り始める。
するとそばに立っていたエリーサが龍巳に視線を向けて声をかけた。
「タツミ、私は昼食の準備をしてくるから席を外すよ。できたら呼ぶから、このまま遊んでやっておくれ」
「分かりました」
龍巳の了承を得ると、エリーサはそそくさと台所に歩いていった。龍巳は子供たちが度々する質問に答えながら、彼らの木トンボがより良いものになるように注意深く見ているのだった。
それからしばらくして子供たちの棒が完成に近づいて来ると、キリのいいところでやめた方がいいと思った龍巳はエリーサにあとどれくらいで昼食ができるかを聞くことにした。
おもちゃ作りをしていた広場から建物の中に入ると、台所に向かう龍巳。その途中で階下に降りていくエリーサを見かけた。その手には料理の入った小皿が見える。
(何をしに行くんだろう?)
既に階段を降りていってしまったため、龍巳は声をかけられずに追いかけることにした。
エリーサは龍巳の部屋の向かいの部屋の前に立っていた。
そこには誰もいないはずで、少なくとも龍巳は紹介されていない。疑問に思った龍巳はそのまま様子を見ることにした。
するとエリーサがドアに向かって声をかけ始める。
「昼食を持ってきたよ。今ね、タツミっていう優しいお兄さんが来て他の子と遊んでくれてるんだ。あんたもそのうち出てきて一緒に遊んだらどうだい?」
しかしその部屋から帰ってくるのは沈黙のみ。その沈黙にため息をついたエリーサは昼食を床におき、そのまま龍巳のいる方に向かって歩いてきた。隠れる場所もないため、龍巳とエリーサは鉢合わせする形になってしまった。
「っ!あんた、どうしてこんな所に?」
「いえ、ちょっとエリーサさんに話があって探してたんですけど台所にいなくて......」
その龍巳の言葉にため息をつくエリーサ。
「はぁ......。で、どこから聞いてたんだい?」
「ええと、『昼食を持ってきたよ』の所から......?」
「最初からじゃないか。まあいいさ、とりあえず上に言って話そうか」
そうしてエリーサに連れられ階段を上がった龍巳は、我慢できずに質問を口にする。
「それで......あの部屋には誰かいるんですか?」
その言葉にいつもハキハキと受け答えするエリーサにしては珍しく逡巡した様子を見せると、仕方ない、と言いたげにため息を吐いてから説明し始める。
「あの部屋にいるのは女の子で、名前はシル。魔物に両親を目の前で殺された子さ」
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