第12話 二日目の終わり

 今夜はエリーサの教会兼孤児院に泊まることになった龍巳は、まずリックたち男子に連れられて風呂場に来ていた。龍巳を含めた四人は風呂に入るために服を脱いでいる最中だ。


「お、すげー!アニキ、ムキムキだな!」

「確かにすごいな。これならあのケイドロでの動きも納得だな」


リックとルイの言葉も当然で、龍巳は身長が一七五センチほどだが体重は七〇キロ弱あるという筋肉質な体をしていた。

 龍巳は召喚される前、親がいない事から小学生の頃はよくいじめの被害に遭っていた。基本は無視をしていたのだが、孤児院の下の子にまで被害が出た時に堪忍袋の尾が切れ反撃をした。しかしそれまで喧嘩もしたことのような子供が自分よりも多い人数に敵うわけもなく、手痛いしっぺ返しを食らった。なんとかその巻き込んでしまった(と龍巳は思っている)子から標的を自分に戻すことには成功したものの、もっと早く反撃して完全に沈黙させておけばよかったと後悔した。

 それからというもの、龍巳は体を鍛えて独学で格闘技を学ぶようになった。龍巳が召喚される直前、宗太の試合の動画を見ようとしていた理由はここにある。


「はは、ありがとう。じゃあお風呂に入ろうか」

「よっしゃあ、俺一番!」

「あ、待て!」

「二人とも、走っちゃダメだよ!」


 風呂場の戸を開いて走って脱衣所を出ていったリックを追いかけるルイと、その二人を注意するジャック。どうやらこの中の良心的存在はジャックらしい。リックとルイを注意するタイミングを失った龍巳は、笑いながら風呂場に足を踏み入れた。

 男子二人が走っていったことから察していたが、風呂場は広く、四人が入ってもまだ少し余裕があるくらいであった。


(ここって一応教会だよな?この大きさになるとお金も結構かかると思うんだけど、何で稼いでるんだろう)

「アニキ、何してんだよ?早く入ろうぜ」

「ん?ああはいはい、まずは体を流してからな」


お金の出所に興味を持った龍巳であったが、子供たちの呼ぶ声に答えているうちにその思考は頭の奥に消えていった。

 風呂から上がると、入れ違いにエリーサとエレナが風呂場に向かい、龍巳は翌日はどうするかを三人と相談し始めた。


「三人とも、明日は何をする?」

「え!龍巳さん、明日も遊んでくれるの?」


聞き返してきたジャックに答える龍巳。


「まだエリーサさんに許可はもらってないけど、そのつもりだよ」


するとリックがまず案を出す。


「明日もケイドロやろうぜ!」

「いや、明日はチャンバラをやろう」

「え~、体を動かすのはいいよ......。タツミさん、何かいいのない?」


ルイの提案とこれまでの言動から、「剣術バカなのかな?」という感想を抱いた龍巳であったがジャックに聞かれていいものがないか思案しはじめる。そして思い付いたのは......


「じゃあ竹......はないから木でおもちゃでも作ろうか。あ、でもナイフがいるよなぁ。エリーサさんがナイフ使うのを許してくれるかな?」


それを聞いた三人は少し考えたあと思い出したようにルイが言う。


「たぶん大丈夫だと思うよ。いざという時の護身用とかで一人一本ナイフを持たされてるから」


龍巳はその言葉に驚いた。これぐらいの子供がナイフを持たされる世の中だと知ったからだ。

 その時ちょうどエリーサとエレナが風呂から上がって話に参加してきた。


「なになに?何の話?」

「あ、エレナちゃん。明日はどんな遊びをしようかって話だよ。あ、エリーサさん、また明日も子供たちと遊んでもいいですか?」


先程の動揺を顔に出さない様にしながらそう言う龍巳に、エリーサは快諾する。


「もちろんさ。そっちから頼まなければ私から言っていたよ。というか、しばらくここに泊まるかい?ご飯も作ってあげるからさ」

「ほんとですか?ありがとうございます!あ、持ってきた荷物に食べ物が入ってるんで、それ渡しちゃいますね」


このときまで自分の荷物に食べ物を入れたことなど忘れていた龍巳である。それだけ子供たちと過ごす時間が楽しかったということでもあるのだろうが。


 そして三人で翌日にすることを決めた後、それぞれの部屋で寝ることになった。教会の礼拝堂と昼に遊んだ場所の間に居住施設があり、そこの地下一階に子供たちとエリーサの部屋があり、その他にも数部屋空いているものがあるらしくそのうちの一室を借りて龍巳は寝ることになった。

 エリーサや子供たちと一緒に階下へ降りてきた龍巳は、まず子供たち一人一人をそれぞれの部屋へとエリーサと共に連れていった後、エリーサを部屋へと送ることにした。


「今日はありがとうね。あそこまで興奮している子供たちはあまり......いや、結構見るけど、でもあんたがいてくれたお陰で私の仕事も減ったよ」

「いえ、俺も楽しかったです。また明日もよろしくお願いします」

「ああ、よろしく。私の部屋の隣を使っていいから、明日に向けてしっかり寝ておくれ」

「はい、おやすみなさい」

「おやすみ」


この世界にも寝る前の挨拶はあるようで、エリーサは何の違和感も感じずに返した。まあ寝る前の挨拶があるのは子供たちを部屋に連れていった時から分かっていたが。

 そしてエリーサが扉を閉め、龍巳が自分の部屋に向かおうとしたとき......


ーーパタンーー


龍巳は後ろからそんな音が聞こえた気がした。振り返っても特に変な所は見当たらない。


(なんだ?まるでみたいだったような......。まあ気のせいか。今日は昨日ほどではないにしろ疲れたし早く寝よう......)


そうして自分の部屋に入っていく龍巳であった。




 そして龍巳が扉を閉めた後、エリーサの部屋の向かいの扉が、少し開いていた。



 

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