第11話 教会の子供たち
城からずいぶん離れた場所で見つけた、教会らしき建物の扉を開けると、地球にある教会のように最奥には神様とおぼしき像が飾られており、扉からその像の前まではカーペットが敷かれ、両脇には長椅子が並べられていた。
龍巳が扉をあけてすぐ、像に向かって右にある扉から人が現れた。見た目は大体五十才前後の女性で、いわゆるシスター服を着ており優しそうな雰囲気をまとっていた。
「おやおや、お客さんなんて珍しい。この教会に何かご用でも?」
その声は慈愛に満ちており、初対面の龍巳への思いやりを感じさせた。
「いえ、少し子供の声が聞こえたもので気になっただけです」
「あら、うるさかったかい?」
「そんなことは思っていないですよ。ずいぶんと楽しそうな声だったので、何をしているのかなと思い、伺ってみようかなと思いまして」
その言葉を聞いたシスター服の女性は龍巳の顔をじっと見た後、にっこりと笑みを浮かべ龍巳にこんな提案をした。
「どうやら悪い人じゃなさそうだね。よかったらうちのチビたちと遊んでいってみないかい?あんたは楽しそうと言ったけど、実はあの子達もすることがなくて飽き始めていてねぇ。できればあんたみたいな若い人に遊び相手になってもらいたいのさ」
その言葉に驚く龍巳であったが、「飽き始める」という言葉に地球の孤児院で自分がおもちゃをつくってあげるまでの子供たちの様子を思いだし、
「いいですよ」
二つ返事で受けてしまった。
(まあ城からは十分に離れたし、ここいらで一息つくのも悪くはないだろう)
自分に言い訳をしながらも、提案を受けたこと自体は全く後悔していない龍巳であった。
「そうかい!ありがとうよ、お兄さん。私の名前はエリーサだ。あんたは?」
「やさ......いえ、タツミです。よろしくお願いします、エリーサさん」
「よろしくね。じゃあ早速で悪いけど、私についてきてくれるかい?」
エリーサはそう言って自分が入ってきた扉を戻っていき、龍巳はそのあとをついて行くのであった。
子供たちが遊んで場所には十秒もしないうちに着いた。どうやら鬼ごっこのようなものをしているらしい。
その様子に龍巳は、はじめは地球で孤児院の子供たちと毎日のように遊んでいたことを思い出し少し暗い表情をするが、子供と遊ぶのにこれではダメだと気持ちを切り替えて広場の状況を確認する。
広場は意外と広いのだが、龍巳が先程外から見ていた壁に沿ったところには草が生えており、子供たちもそこでは遊んでいない。草の生えていない土の部分は直径八メートル程の円状になっており、その外周に今龍巳の出てきた扉がある。
龍巳が観察していると、子供の一人がエリーサがいることに気づき、声をあげた。
「あ!エリーサ先生がきた!」
その声に他の子供たちもエリーサのいる方に注目し、龍巳の存在にも気づいた。
「ほんとだ!」
「横の人は誰だろう?」
「さあ?」
子供たちが龍巳が誰なのかを考えていると、エリーサが子供たちを呼び寄せた。
「あんたたち!この人を紹介するからこっちに来な!」
「「「「はーい!」」」」
元気よく返事をした子供たち四人が、「このひとだれー?」と聞きたそうな表情をその顔に貼り付けたままエリーサの元へ走り寄った。
そしてエリーサが龍巳を子供たちに紹介する。
「この人はタツミ。今日はあんたたちと遊んでくれるってさ」
その言葉に子供たちは一気に盛り上がった。
「まじで!?」
「じゃあ早く遊ぼう!」
しかしその子供たちをエリーサが抑える。
「待ちな!初対面の人にはまず自己紹介だって言ってるだろう?」
そして子供たちの自己紹介が始まった。まずは赤髪の活発そうな少年からだった。
「俺はリック!他のやつより走るのが得意なんだ!」
次に肩までの金髪を揺らす少女が自己紹介をする。
「私はエレナ!他の子よりも頭がいいのよ?」
ふふん!とでも言いそうなそのどや顔に龍巳は苦笑を禁じ得なかった。
気を取り直して、三番目にエリナと同じく金髪の利発そうな少年が話し始めた。
「僕はルイ。この中で剣術が一番強いんだ」
ここの子供たちは剣術を習っているのか、と思った龍巳であったが異世界の子供たちはそういうものなのだろうと納得した。
そして茶髪の少年が自己紹介をする。
「僕はジャック。この中では一番手先が器用なんだよ」
最後に龍巳が自己紹介をすればこの場の全員が自己紹介を終えたことになる。
「俺はタツミ。よろし「じゃあ遊ぼうぜ!」」
もう待ちきれなかったのか、龍巳が名前を言うとすぐに龍巳の手を引いて広場の中央に移動するリックとその後を追う他の三人。
その子供たちの強引さに、地球の孤児院の子供たちもそうだった事を思い出して懐かしい気持ちになる龍巳であった。
そして子供たちは何をして遊ぶかを相談し始めた。
「で、何やる?」
「また鬼ごっこでもやる?」
「それは少し飽きてきたな」
「昨日はかくれんぼやったしね」
この世界の言葉が自動的に翻訳される、称号「異世界人」の効果で同じような遊びは知っている名前に変換されるのか、龍巳にとって馴染み深い名前が聞こえてきた。
悩んでいる子供たちに、龍巳が提案する。
「いい遊びがあるんだけど、やってみるかい?」
その言葉に子供たちは大きな反応を見せた。
「ほんと!?」
「やろうやろう!」
「どんな遊び?」
そして龍巳は子供たちの期待に応えて、その口を開いた。
「ケイドロって、知ってる?」
しばらく経って。
「だー!アニキ強すぎるぜ!」
「ほんとよね!」
「四対一なのに全然捕まえられない」
「タツミさんがケイサツでも、助けようとするとほとんど捕まっちゃうし......」
龍巳と子供たちは、龍巳が発案したケイドロをして遊んでいた。子供たちははじめ、二対三で遊ぼうと思っていたが、龍巳の提案で四対一で遊ぶことになった。子供たちは龍巳に勝つために奮闘していたが、地球で毎日のように子供たちの相手をしていた龍巳は彼らを圧倒していた。警察の時は適度に子供たちを逃がして飽きないようにし、泥棒の時は追い詰められた振りをして、フェイントで子供たちの間を抜けたりと余裕をもっていた。
すると教会の扉からエリーサの声が聞こえてきた。
「もう夕飯にするから戻ってきな!タツミもよかったら食っていきな」
その言葉に動き回ってお腹を空かせていた子供たちはすぐに教会の中へと入っていく。それを追う龍巳も、特に急ぎの用もないのでエリーサの言葉に甘えることにした。
そして食事中。
「いや~、アニキってすげえ身軽だよな」
龍巳の俊敏さに尊敬の念を覚えたリックは、いつの間にか龍巳の事をアニキと呼ぶようになっていた。
「確かにあの俊敏さと足の運び方は剣術の参考になるな」
「かっこよかったしね」
「また遊んでほしいね」
リックの後にルイ、エレナ、ジャックが続く。
その言葉にエリーサが感心したような目を龍巳に向ける。
「へえ、ずいぶんと気に入られてるじゃないかい。タツミ、あんた子供の扱いに慣れてるみたいだね」
「ええまあ。実は孤児院の出身でして、よく下の子と遊んでいたんですよ」
龍巳がそう言うと、エリーサが一度静かになった。そして子供たちが龍巳を話題にして四人だけで話に夢中になっているのを確認すると、龍巳に耳を貸すように合図をしてから話し始めた。
「実はここも孤児院なのさ。表向きは教会だけど、二年前くらいから親のいない子供たちを育ててんのさ」
龍巳は、本当は気づいていた。今はもう日も落ちて外は暗く、子供が帰るには遅すぎる。なのに子供たちは元気に夕食を食べていて、帰りの心配をしている様子もない。そしてなにより、全員が家族に接するように過ごしているのを龍巳は感じていた。
「そうですか......」
「おや、あんまり動揺しないね。気づいてたのかい?」
「はい。なんだかここは、家族のような空気というか、雰囲気があって暖かい場所ですから」
龍巳が感じたことを話すと、エリーサは子供たちの方を見て目を細めた。
「家族か......。あの子達もそう思ってくれたらいいんだけど」
そして夕飯が終わると、エリーサは龍巳にこう切り出した。
「タツミ、あんた今日は泊まっていきな。もう遅いし、子供たちも喜ぶからね」
するとエリーサの提案を聞き付けた子供たちが騒ぎだした。
「え!タツミさん泊まるの?」
「よっしゃ!じゃあアニキ、一緒に風呂いこうぜ!」
「タツミさんともっとお話ししたい!」
「タツミさんは剣術に興味ある?」
そして龍巳はその提案を快く受け入れるのであった。
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