第7話 龍巳が罵られた理由
異世界組がアルセリアに連れられて王城の中を歩き始めてしばらくしてから、アルセリアが龍巳に向かって謝罪の言葉を口にした。
「龍巳様。我が国の貴族が無礼を働き、誠に申し訳ありません。この国を治める王族の一人として深くお詫び申し上げます......」
美少女であるアルセリアに、歩きながらであっても謝られることに自分が申し訳ない気持ちになりながらも龍巳は返事を返す。
「気にしなくていいですよ。あの国王様もあなたもあの貴族たちの言うことが的はずれだと気づいていたようですし、国王様に至っては声を荒らげながら貴族たちを鎮めてくれました。これからどうするかはちょっと考えないといけないですが、あなた方二人に負うべき責はありません」
龍巳のその言葉に、アルセリアは幾分安堵した表情を見せる。
「ありがとうございます。そう言ってもらえると助かります。さて、あと数分で皆さまの個室につきますが、その前になにか質問しておくことはありますか?」
龍巳に感謝の言葉を伝えたあと、他の二人も含めた三人に質問がないかを確認するアルセリア。
やはりここでも、先陣を切るのは恐れ知らずの宗太であった。
「なあ、腹減ってんだけどメシって出るよな?」
「はい。今頃は我が王城お抱えのシェフたちが誠心誠意、真心をこめて最高の料理を作っている頃だと思います。皆様が食べやすいよう、城下町で人気の料理から選出して作っておりますので、心配はご無用です」
フランス料理のフルコースのような料理が出てくるのではないかと心配していた龍巳と美奈は、まるでその心配を先回りされたかのようなアルセリアの言葉に彼女の気配りの凄まじさに心底驚いていた。
その驚きから復帰した美奈が、次の質問をする。
「お着替えとかお風呂はどうすればいいのでしょうか?」
「お風呂は皆さんの個室に一つずつ備え付けられています。お着替えはこの国のメイドが皆さまの部屋に行き、寝巻きをお渡しいたします。いま着ている異世界の服は、そのとき生活魔法できれいにしますのでまとめて置いておいてください。メイドが訪ねるタイミングは、お料理をお持ちした一時間後ですのでそれまでお風呂は待っていてください」
「わ、分かりました」
まさに”抜かりない”といった答え方の王女に面食らう美奈は、少しどもったもののしっかり返事をした。
「それで、龍巳様は何かありますか?」
「そうですね、明日はいつ頃起きればいいでしょうか?」
「自由で構いませんが、朝の八時ごろに朝食を用意いたしますのでそれを目安にしていただければ。朝食は食べなくても問題ありませんので、お気になさらずゆっくりとお休みください」
「了解しました」
龍巳の質問に答え終わり、三人を視界に収めるように向き直ったアルセリアは、確認として異世界組に声をかける。
「では、他にご質問はありますか?」
その言葉に控えめに手をあげたのは美奈であった。あの謁見の間で気になったことを質問する。元々は翌日になってから聞こうと思っていたのだが、お風呂があると聞いて少し元気を取り戻したためこの場で聞くことにした。やはり女の子にとってお風呂というのは大事なようである。
「えっと、謁見の間でのことなんですけど、いいですか?」
その言葉に今度はアルセリアが面食らっていたが、すぐに笑顔に戻り答える。
「はい、構いませんよ」
「なんであの貴族たちは龍巳くんをあそこまで見下していたんですか?普通に考えればスキルをたくさん覚えられるだけでもすごいと思うんですけど......」
その言葉に龍巳は、はっと気づいたような顔をする。
そう、質で敵わないのなら数で対抗するのが世の常であり、この世界でもそんなことは当たり前だと思ったのだ。しかしアルセリアはそれを否定する。
「確かに多くのスキルを覚えられる者は少ないですが、こと戦闘となるとスキルの多いか少ないかというのは無意味なのです」
「無意味だと?それまたどうして?」
アルセリアの答えを聞いた宗太が質問する。
「スキルとは魔力によって本来の人間の身体能力や世界の法則を超えた現象を起こすもので、それを二つ以上使おうとすると激しい痛みが頭を走り、体を動かすことすら難しくなるのです」
それを聞いた龍巳と美奈はなるほど、と理解した。本来なら起こすのが不可能な現象を魔力によって起こすスキルは、とてつもない処理能力を必要とするため、脳への負担が大きくなるのだろうと。宗太はしっかりと理解できたわけではないが、そういうものなのだろうと納得して考えるのをやめた。
「スキルを同時に使うことができないから、結局はひとつのスキルを極めることが強くなる唯一の方法なんですね」
龍巳が自分なりの考察を語ると、アルセリアは柔和な笑みを浮かべて
「その通りです。やはり皆さまは理解が早い、というか適応するのが早いですね」
と言った。
そこまでやり取りが続いたところで、アルセリアは立ち止まり右の並んだ
「この三部屋が皆さまの個室です。存分にくつろいでくださいませ」
そう言われた三人はアルセリアにお礼をいいながらそれぞれ自分の部屋へと入っていく。
それを見届けたアルセリアは自分の寝室に戻りながら、どこにも目をくれずに誰かに話しかけ始めた。
「セバス?いますか?」
するとどこから現れたのか、アルセリアの隣にはいつのまにか執事服の老人が立っていた。オールバックの白髪に優しそうな顔立ち。背筋は年のわりにピシッとしており、その足取りも確かなものであった。
「はっ!ここに」
「......いつも思いますが、あなたはどこから現れてくるのですか?周りに隠れられそうなところなんてありませんが......」
そう言うアルセリアの顔は呆れたものになっており、もうずいぶん前からこのような登場の仕方をするのだろうと容易に想像できる。一方で、聞かれたセバスは全く動じずにこう答えた。
「執事ですから」
「またそれですか......。まあいいでしょう。ところで追加の部屋はちゃんと用意できたのですね?」
「はい、問題ありません。しかし姫様の遣わした兵士から聞いたときは驚きました。まさか三人も異世界の者が現れるとは......」
「ええ、私も驚きました。(まあ最初は泣いてしまいましたが......)それもなんの関係もない一般人を巻き込んでしまうとは。私たちの罪がいっそう重くなりましたね......」
アルセリアは暗い顔になり、それを聞いた執事も顔を歪めるがアルセリアに声をかけ励ます。
「それでも私たちは、勇者召喚を行わなければ滅びに向かって一直線だったでしょう。そこに希望の明かりを灯したのは姫様です。元気をお出しください」
「まだ勇者さまたちが救ってくれると決まったわけではないですし、やはり罪は罪です。きちんと償わなければ」
そう言って自分のしてしまったことと向き合う彼女の顔は、龍巳たちの見ていた柔和な笑顔はなく、決意を固めた者が浮かべる表情をしていた。
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