第6話 巻き込まれし者

「俺、勇者じゃないみたいです」


龍巳がその言葉を発した瞬間、それまで勇者二人を称えていた貴族たちが黙りこむ。そのまま数秒の沈黙が流れたあと、アルフォードが龍巳のステータスにかかれたとある称号に気づき、龍巳にそのことを聞くことにした。


「タツミ殿、この”巻き込まれし者”というのは......?」


まあそこから聞くだろうな、と思った龍巳は、美奈が召喚された時のことを思い出しながら説明し始めた。


「まず、俺がこの世界に来る直前、俺は勇者ミナ・イシキの近くにいました。そして突然ミナの足元にあなた方の言う魔方陣が現れ、私はそこからミナを出そうと魔方陣の外から手を伸ばし、ミナに触れた瞬間に召喚が始まりました。このとき私の足元に魔法陣が現れなかったことから、恐らく勇者ミナ・イシキの召喚に巻き込まれたのだと思います」


その龍巳の考察を聞いたアルフォードと、いつのまにか立っていたアルセリアは表情を歪め、申し訳なさそうな顔をした。宗太と美奈は勇者であることを通してこの世界と関係を持つことになったが、龍巳は巻き込まれただけでこの世界とはなんの関係もない一般人であったことに気づいたからだ。

 そのように王族二人は龍巳が巻き込まれたことに対して罪悪感を抱いていたのだが、周りの貴族たちはそうもいかなかった。宗太と美奈のステータスを知ったことによって龍巳への期待が高まっていたために、それを裏切られて平静さを失ってしまったのだ。


「なんということだ!勇者の中にまがい物がいたとは!」

「しかもミナ殿を魔法陣から出そうとしただと!この国を滅ぼすつもりか!」


彼らの言葉は明らかに理不尽なものであったが、彼らにその自覚はなく、ただ自分達の期待を裏切られたことによる不満をぶつけたいだけであった。しかし龍巳はその言葉に貴族たちの印象を悪くするだけで、特に反応を示さなかった。その態度が余計に貴族たちを苛つかせ罵倒を酷くしてしまい、それによって龍巳の彼らへの悪印象を深め......という悪循環が生まれていた。

 突然貴族が騒ぎだしたことに呆然としすぐに行動できなかったアルフォードであったが、彼らの主張が理不尽極まりないものであることに気づくと瞬時に行動を開始した。


「静まれ!タツミ殿を召喚に巻き込んでしまったことに責任を感じこそすれ、責めるとは何事か!」


王の言葉に黙り込む貴族たちであったが、龍巳に向けるその視線には明らかに勇者たちに向けるものとは違う負の感情が宿っていた。


「すまないな、タツミ殿」

「いや、あなたは悪くないですよ、アルフォード陛下。彼らの印象が急降下してしまったこと以外は問題ありません」

「まあそれは仕方な......。ところで君のステータスについてだが、この世界の一般人より軒並み高いのはやはり異世界人だからということだろう。器用さが他に比べて妙に高いのが気になるが、戦闘には関係ないし問題ないとして、この”器用貧乏”という称号はどういうものか教えてもらってもいいだろうか?」


やはり勇者のステータスにもなかった称号が気になるのか、遠慮しながらも龍巳に聞くアルフォード。龍巳は、これまでの彼の貴族を鎮めた手腕と、自分が巻き込まれたのだと知ったときの申し訳なさそうな表情から彼を信用できると判断し、鑑定の結果を知らせることにした。


「どうやら勇者の称号の下位互換みたいですね。全てのスキルを習得できますが、レベルは三が上限のようです」


すると龍巳の言葉が聞こえた貴族がまた騒ぎだし、またもや龍巳を罵倒し始めた。


「やはり紛い物は紛い物だな!」

「スキルレベルの上限が三だと!せめて四はないと戦力にはならんだろう!」

「......だから静まれと言ってるだろうが!いい加減にしろ!彼を罵るのは筋違いだ!恥を知れ!」


ついに我慢の限界を超えたのか、アルフォードがそれまでの王様らしい口調を崩しながら声を荒らげる。悪い見方をすれば自分の龍巳に対する罪悪感を貴族にぶつけたようなものだが、その言葉には今までとは別種の威厳があり、貴族たちは押し黙った。


「本当にすまないな、タツミ殿。称号の話はここではなく別の場所でするべきだった。配慮が足りなかったと反省している」

「いや、こちらも同じようなものですから。気にしないでください」

「そう言ってもらえると助かる。ひとまずこの場は解散にして、日を改めるとしよう。アルセリア、三人を部屋に案内してくれ。もちろん兵士を護衛につけてな」

「分かりました、お父様。では皆さん、こちらへ」


アルフォードは、さすがにこのまま話を続けるのは龍巳にとっても自分たち、特に貴族たちにとってもいいことはないだろうと判断し、勇者召喚を行うにあたって前もって用意しておいた部屋に三人を連れていってもらうことにした。

 龍巳たちも今までにないことが続いて起きたせいで疲れていたため、聞きたいことがまだ残っていたがそれでもその提案にのってアルセリアについていくのであった。

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