第8話 一日目の終わり
アルセリアが執事のセバスと話している頃、龍巳は自分に与えられた部屋で鑑定スキルを使いステータスの確認をしていた。
「とりあえず、もう一度”器用貧乏”の称号を鑑定してみようか。『鑑定』」
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<器用貧乏>
この称号を持つ者は肉体系、魔法系を問わず全てのスキルを習得できる。ただし習得したスキルのレベル上限は三まで。
また器用さのステータスにプラス二〇〇の補正。
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「やっぱり結果は変わんないよな。ステータスの補正も、戦闘には関係ないって言われた器用さだし......。ひとまず、次はスキルを鑑定してみようか。まあ鑑定スキルしかないけど......。あれ?鑑定スキルを鑑定ってできるのか?やってみるか。『鑑定』」
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<鑑定>
世界のあらゆる物の情報を引き出すことができる。Lv.5では引き出せる情報の量に制限がない。
ただし”隠蔽Lv.5”および”偽装Lv.5”によって正しく鑑定できないことがある。
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「......できた。まあこれなら偽物や不良品を掴まされることもないだろう。どうせスキルレベルが上がりにくいなら、隠蔽や偽装スキルのレベルをあげるよりもっといい時間の使い方があるだろうしな」
そう、実際この世界において隠蔽や偽装のスキルを習得するものは少ない。それらのスキルレベルを苦労して上げて犯罪に手を染めるくらいなら、鍛冶スキルや細工スキル、栽培スキルなどの生産系スキルを習得して、生産性を上げた方が有意義であるいう考えが根付いているからだ。
「他に鑑定するものってあるか?......ああ、”器用貧乏”以外の称号にはまだ使ってなかったな。まずは”異世界人”からか。『鑑定』」
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<異世界人>
異世界からやって来たものに与えられる称号。
話す言語をこの世界で話されている言葉に自動翻訳する。
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「なるほど。そりゃ国どころか世界が違うんだから話す言葉も違うよなぁ」
そんなことを言っている龍巳は、個室に向かう途中で宗太がアルセリアに質問していた時のことを思い出していた。
宗太はアルセリアに「メシはあるか?」と聞いていた。そのときアルセリアは何の疑問も浮かべずにその問いに答えていたが、王女である彼女には本来、「メシ」などという粗野な言葉遣いは通じないはずである。
「それなのに普通に答えていたってことは、この世界の人に伝わらない言葉は自動的に伝わる言葉に翻訳されるってことか?でも敬語を全く使わない宗太が突然「食事」なんて言ったら疑問に思うだろうし......。まあ違和感を与えないように翻訳される、称号の不思議効果ってところか」
このまま考え続けるとどツボにハマってしまうと感じた龍巳は、少し無理矢理であるが結論をだしてそれ以上考えるのをやめた。
「じゃあ次は”巻き込まれし者”だな。あまりいい効果があるとは思えないけど......。『鑑定』」
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<巻き込まれし者>
勇者召喚に巻き込まれたものの称号。
???????????????
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「はあ?」
もともとあまり期待していなかった”巻き込まれし者”の効果であったが、その予想を裏切り、まず効果が分からないという鑑定結果であった。
「おいおい、こいつはどういうことだ?偽装も隠蔽も持ってない俺のステータスの一部に鑑定Lv.5ですら分からない称号があるって......。考えられるのはまだ効果が決まっていないとかこの「??????」の中に偽装や隠蔽相当の効果があるとかか?」
そんなふうに龍巳が”巻き込まれし者”の効果について推測していると、
ーーーコンコンーーー
突然ドアがノックされ、ドアの外から声をかけられた。
「龍巳様、お食事をお持ちしました。部屋に入ってもよろしいでしょうか」
女性の声が聞こえ、思考の海に沈んでいた龍巳の意識が引き上げられる。突然の声に龍巳は少し焦ったものの、なんとか言葉を返す。
「ええ、大丈夫です。少しお待ちください」
ドアの前に何も置かれていないことを確認したあと、ドアを引いて外にいる人を確認する。
「メイドのニーナと申します。しばらくは龍巳さまの担当メイドとしてお世話をさせていただくことになりましたので、以後よろしくお願いします」
龍巳の前に立っている「ザ・できる女」といった雰囲気を持っている女性は、両手をからだの前で握って実に見事な礼をした。この世界に来たばかりの龍巳であったらあまりに綺麗な礼にすぐ反応できなかったであろうが、アルセリアの王女としての凄さに触れた今では特にあせることもなく普通に返事をする。
「はい、こちらこそよろしくお願いします。私はどうすればいいですか?」
「龍巳さまは部屋の椅子に座っていてもらえれば大丈夫です。召喚の直後で疲れているでしょうから、遠慮なさらないでください」
そう言われて、龍巳は自分が相当の疲労を溜め込んでいることに気づいた。確かにこの疲れようで何かしようとすれば失敗するのは目に見えている。
「すいません。ではお言葉に甘えて、よろしくお願いします」
「はい。今日のお夕食は簡単に食べられるようにサンドウィッチですので、たくさん食べて明日に備えてくださいね。また一時間後にお着替えを持ってきますで。それでは失礼します」
そう言って、椅子の前にサンドウィッチの入ったかごを置き、皿を何枚か並べて「こちらを使っても構いませんので」と言いつつフォークを皿の横に置いた後に部屋を出ていったニーナの後ろ姿を見送った龍巳は、すぐにサンドウィッチに手を伸ばす。
「う、うっま!!!!!!なにこれ!めちゃくちゃジューシーじゃねえか!何の肉を使っているんだ?味としては豚肉の上位互換って感じか......。こっちの野菜もうまいな。なんだか疲労がどんどんとれていく気がする」
そんな感じで次々とサンドウィッチを口に運んで頬張り、少しハイペース過ぎたことに気づいた龍巳はすぐにペースをおとしたが、それでも美味しすぎるサンドウィッチは龍巳の手を止めさせることはなく、三十分足らずで食べ終わってしまった。
時間が余った龍巳はまた称号の考察を始めるが、あっという間にメイドのニーナが来る時間となった。
「龍巳様、お着替えをお持ちしました。今のうちにお風呂に入ってしまってください。その間にその異世界の服を綺麗にしますので」
そんなふうにテキパキと仕事をするニーナに圧倒され、その言葉の通りにどんどん行動をしていくといつのまにか龍巳はベッドに横になっていた。そのベッドの横にはニーナが立っており、最後の確認を行っていた。
「では龍巳様。明日何時ごろに起きたいなどご要望はございますか?」
少し悩んだ龍巳は、とりあえず朝御飯は食べた方がいいよなと考え、朝食の三十分前に起きようとニーナに伝える。
「明日は七時半に起きたいですね。お願いしてもいいですか?」
「了解しました。明日の七時半にお迎えに上がりますね。朝食は食べるということで?」
「はい、よろしくお願いします」
その龍巳の言葉にうなずくと、ニーナは部屋を出ていった。
龍巳はすぐに寝る気はなかったが、サンドウィッチで肉体の疲労がとれても精神はそうはいかないのか、ニーナが出ていってすぐに寝息をたて始めた。
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