第4話 異世界
「それでは、お父様つまりこの国の王に皆様を紹介いたします。あまり礼儀などは気にしないでくださいね。先程も言った通り、お願いをするのは私たちの方ですから」
「分かりました」
「はい、了解です」
「おう、わかった」
謁見の間に入る前にアルセリアにそう言われた龍巳、美奈、宗太の三人は三者三様に返事を返す。アルセリアの言う”お願い”は王様に聞けば良いと、この場では質問しないことにした三人であった。
そして重苦しい音をたてながら開かれる扉は、謁見の間の扉というだけあって豪華な造りになっておりその隅々まで施された細工は華美さと神秘さを両立させた素晴らしいものであった。
アルセリアが入るとその周りにいた兵士たちは扉の脇に待機し、そのまま歩くアルセリアに続くようにして部屋に入った龍巳たち三人は、およそ四十メートル四方の広い部屋の両脇にいる人々の数に驚かされる。その全員の体型はまちまちであったが、豪華な服装をしているところは共通していた。
恐らく、先程アルセリアがちらっと言っていた貴族たちなのだろうと予測をたてた龍巳は、こちらを観察するような視線を向ける彼らから意識を外し、玉座に座る一人の男にその意識を向けた。
すると龍巳は一瞬、
(うおっ!なんて威圧感だ......。これが一国を背負う男の放つ威厳ってやつか......。しかし、そんな威圧感を放っているわりに若すぎないか?)
その龍巳の疑問も当然で、この国の王であろう人物の顔立ちは二十代半ばと言われても何の疑問もなく信じてしまいそうなものであった。
そして十数歩ほど歩くとアルセリアが王の前で跪き、それに合わせて龍巳たち三人も立ち止まる。前もって言われた通り立ったまま、若すぎる王を見ていた。
「お父様。こちらが今回の召喚の儀の成果であり、この国を救っていただく可能性を秘めた物たちです。一番前の青年がヤサカ・タツミ。その後ろの少女がイシキ・ミナで、隣の青年がカヤマ・ソウタと言うそうです。三人とも前が姓で後ろが名だということです」
アルセリアの報告を聞き、周りの貴族たちがざわざわと落ち着きを無くし始める。そしてそれまで沈黙を守っていた王が片手を上げ貴族たちを鎮めると、龍巳たちが部屋に入って初めて口を開いた。
「うむ、ご苦労であったなアルセリア。面を上げよ。そして異世界の者たちよ......、先に謝っておこう。すまない」
突然この国の最高権力者と思わしき人に謝罪され、困惑した三人であったが、いち早く動揺から回復した宗太が王に質問を投げ掛ける。
「なんで謝ってるのかは知らないけど、とりあえずそっちだけ俺らの名前を知っているのは不公平じゃないか?」
......質問と言うか不遜な提案だった。周りの貴族がまたざわめくが、それを再び片手で制し王が話始める。
「それはすまなかったな。私の名はアルフォード・メイルズ・フォン・イグニス。この国の王を勤めている。若く見えるがこれでも歳は六八だ。エルフの血が流れていてな、寿命が普通の人間とは違って長いのだ」
突然のカミングアウトにまた動揺する三人であったが、今度は美奈が他二人よりも早く復活し自分の記憶からとある情報を引き出していた。
「エルフって妖精のことですよね?その血が流れているというのはどう言うことですか?」
美奈は本が大好きないわゆる本の虫で、勉強に関係のある書物だけでなくファンタジー系の妖精や精霊が登場する物語なども読んでいたために浮かんだ疑問だった。
「そなたたちの世界ではエルフとは妖精を指す言葉なのか?まあいい。エルフとは私たち人族とはまた違った人類で、寿命がとても長いことで知られている。身体的特徴は、耳が人族よりも長いことと肌の色が薄いこと。そして美形が多いことだな」
その王の言葉のある箇所に龍巳が反応した。
「そこです。”そなたたちの世界”とはどういうことですか?先程も私たちを”異世界の者”と言っていましたね」
その言葉を聞いてアルフォード王の顔が歪んだ。
「そう、それが先の謝罪の理由であり、私たちが犯した罪でもある。私たちはそなたたち三人をこことは違う世界から呼び出した。呼び出したと言えば聞こえはいいが、つまりはさらったも同然。その上で私たちはそなたたち、いや君たちに頼みたいことがあるのだ」
異世界の人間に、”王”という肩書きを持ったまま話すのは筋が通っていないと感じたアルフォードは上からではなく、対等な立場で話そうと龍巳たちを指す言葉を変え、本題に入った。
「この国、そしてこの世界は魔物の驚異によって危機に瀕している。この状況を打破すべく私たちの国でも軍隊を魔物討伐に駆り出したが、一部の上位種が統率することによって本来ならバラバラに行動する魔物が比べ物にならない驚異となり、優秀な兵たちを死に追いやってしまった」
その事を話すアルフォードの表情は、王としての判断を誤ったことを本気で悔いていることを感じさせるものだった。そして彼の語りは続く。
「そして大きく兵力を失い、このままでは国が滅ぶと判断した私たちは王家に伝わる秘術、”勇者召喚の儀”によって勇者たちに救ってもらおうと考え、実行したのだ。必要なのは、王族の女性が触媒となって魔力を限界まで消費することだったが、アルセリアはこの国のためになるのならと率先して行動してくれた。本当に感謝しかない」
龍巳たちもそこまでの話であればまだ納得できるのだが、三人にとって重要なことを龍巳は聞いた。
「話は何となく理解しました。それで......私たちは元の世界に帰れるのですか?」
ここでアルフォード王の顔が今までで一番強張った。その様子に龍巳たちは嫌な予感を募らせる。
「それは......分からない。すまない」
その謝罪に、美奈が激しく動揺する。
「そんな!勝手に呼んでおいて帰れるか分からないなんて!」
「本当にすまない!しかしひとつだけヒントとなるかもしれない情報があるのだ」
その言葉に少し希望を目に宿らせた美奈が続きを待つ。
「勇者召喚はこれが初めてではない。約五〇〇年前にも勇者を召喚し、魔族の国のひとつとの戦争を終結させ、不可侵条約を結んだのだが勇者のその後の情報が全くないのだ」
「ただ情報がないのがヒントって、なんですかそれ!」
「ちょっと待って伊敷さん」
その言葉に美奈は噛みつくが、龍巳はそれを諫めてアルフォードの考えを予測し、その推測を伝える。
「そこまでの働きをした勇者たちが、何の注目もされずに過ごせたとは思えない。だとしたら情報がない理由は二つ考えられる」
それに宗太が続ける。
「姿を隠したか、元の世界に帰ったってことだな?」
「その通りだよ、宗太。前者はともかく、後者なら元の世界に帰る方法があるってことだ。そうですよね?アルフォード陛下」
「その通りだ。付け加えるなら、国がその勇者たちを探したという記録もない。つまり元の世界に帰った可能性が高いだろう」
美奈はその言葉を聞き、ようやく落ち着いたのか深呼吸をして言葉を発する。
「分かりました。勝手にこの世界に呼んだことはひとまず置いておいて、納得はしましょう。でも許した訳じゃありませんから」
「今はそれで十分だ。感謝する、ミナ殿」
「でも、私たちはまだ子供です。総合格闘技世界チャンピオンの宗太くんを除いて、戦う力なんて持っていません」
そう、たとえ召喚されたことに納得しても実際に救える力があるわけではないのだ。しかしアルフォードは笑みを浮かべて答えを口にする。
「それは大丈夫のはずだ。君たちのいた世界はこの世界よりも上位の世界で、そこに住む君たちの能力はこの世界の人々の能力を上回っている。そして君たちのステータスには”勇者”の称号が加えられているはずだ。この称号は持つ者の能力を大幅に上げるらしい」
「そのステータス、というのは何ですか?」
美奈がまた質問する。
「そうか。君たちの世界にはステータスというものが存在しないのか。では、ステータス、と心の中で念じてみてくれ」
そして龍巳たちはステータスを開こうとする。しかしこの時点ではまだ、あのような展開になるとは、この場にいる誰も思っていなかった。
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