第2話 プロローグ 後編
「ぅおわああああああああああ!!!!」
「きゃあああああああああああ!!!!」
目もあけられないような閃光に包まれたあと、視界は一瞬で回復した。そんな龍巳と伊敷美奈が見た景色は、奇妙なものだった。
あたりに広がるのは白と黄金のインクをぶちまけたようなマーブル模様でできた空間で、パッと見ただけでは上下も左右もわからない。しかし二人は上下の認識がしっかりとできていた。なぜなら、上に開いている光の穴から出たと思ったら、すさまじい勢いで落ちているのだから。
龍巳は何とか姿勢を安定させようともがくが、スカイダイビングの経験はさすがにないために共に落下している少女を引き寄せて抱きながら、落ちていく先を見ることしかできなかった。
落下開始から数秒後、ふと予感がした龍巳は首をひねって自分たちが出てきたであろう光の穴を見た。するとその穴の横に新たな穴が開き始め、自分と同じ歳くらいの青年が出てきたではないか!
龍巳はその青年の顔に見覚えがあった。最近はよくその人物の映像を見ていたような気がするのだ。
「あいつは……!?」
「おお!?なんだこりゃ!……ひぃやっほおおおおおおう!!!!」
彼も突然この事態に巻き込まれたのか、初めは疑問を抱いていたような表情をしたが、その直後にはこの状況を楽しんでいるかのように雄叫びを上げた。凄まじいとしか言いようのない適応力である。
少しの間そんな彼に目を奪われていた龍巳であったが、そんな場合ではないと思い直し落下先に視線を合わせた。
その数瞬後、視線の先には図書室で見たのと同じような光の円、魔法陣が現れた。が、今度は図書室のものとは違う現象も見てとれた。図書室で見た魔法陣は神々しい光を放っていて、視線の先にあるものも同種の光を放っているのだが、問題はその手前である。
明らかに禍々しい紫色の魔法陣が、黄金の光を放つ魔法陣の手前に出現したのだ。
龍巳は直感に従い、上で大の字に落下している青年に抱えていた伊敷美奈を投げ飛ばした。作用・反作用の原理により少し加速した龍巳は、そのまま禍々しい魔法陣に突っ込む。
すると胸の奥にすさまじい痛みが発生した。まるで自分の中の何かを無理やり抑え込まれているような感覚がした後、龍巳の通った紫色の魔法陣は消え、黄金の魔法陣を三人が順々に潜っていった。
気が付くと龍巳たち三人の前には一人の少女がたたずんでいた。
透き通るような金髪に、固く閉じられた瞼。その両手は祈るかのように組まれ、着ている純白のドレスは彼女の金髪との対比で際立ち、神々しささえ感じさせる。顔のパーツは素晴らしく整っており、目を開けば確実に美人だろうと悟ることができる。伊敷が和風の絶世の美女だとするなら、この少女はヨーロッパ風の美女であろう。
龍巳はしばらくその少女に見惚れていたが、あたりがざわざわとしていることに気付く。
龍巳は辺りを見渡し、魔方陣を潜った三人が今いるのは真っ白な部屋で、見るからに神々しい雰囲気を放っているのを確認した。そして周りの兵士らしき装備を身に着けた、おそらくは男たちが龍巳達三人に注目していることに気づいた。その兵士たちは視線をそのままに小声で会話しはじめる。
「やった、のか?」
「あ、ああ。あの奇妙な服装。おそらくは異世界人だろう」
「「「「「……」」」」」
小声で何かを確認したあと、兵士たちに沈黙が流れる。しかし次の瞬間、
「「「うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!勇者様が現れたぞおぉぉぉぉぉ!!!」」」
「しかも三人!理由は知らないが一人多いぞ!」
「姫様!姫様!勇者様です!成功しましたよ!世界の救世主が現れてくださいました!」
すさまじい大音量で雄叫びを上げ、姫様と呼ばれた先ほどの少女に語りかけ始めた。
少女は話しかけられるとゆっくりと目を開き、龍巳達三人を視界に入れた。すると、
「うっ……、ううう、グスッ……」
泣 き 出 し た。
突然のことに混乱した三人は何もできないまま兵士らしき者たちがお姫様(?)を泣き止ませるのを待った。あの不思議な空間で楽しそうな叫び声を放った謎の青年でさえそうなのだから、やはり少女の涙は偉大であるということなのだろうか。
王女が泣きはじめてからしばらくして冷静さを取り戻した龍巳は、横にいる青年の姿を確認する。あの白と黄金の不思議空間で落下している時にほぼ確信していたが、やはりその青年は総合格闘技世界最年少チャンピオンの香山宗太であった。
香山宗太。前述の通り最年少で総合格闘技の世界チャンピオンに昇り詰めた天才であり、その動きは人間技ではないと言われ、テレビでも度々取り上げられていた。
龍巳は彼の試合の動画を見て格闘技を独学で学ぼうとし、その動きを完璧にトレースすることはできなかったが彼の鮮やかな技の数々に魅了され、度々動画サイトで試合を観ていた。
閑話休題。
少ししてようやく泣き止んだお姫様(?)は、もう一度龍巳達に目を向けると高貴な雰囲気を醸しながら(泣いたせいで目元は赤いが)話し始めた。
「ようこそおいでくださいました。勇者様方。私の名はアルセリア・マグダート・フォン・イグニスと申します。突然のことに混乱していらっしゃるでしょうが、どうか王の間までついてきてくださいませ。詳しいことはそこで父上、ああ、この国の王を務めております私の父からお伝えさせていただきます。」
三人は目を見合わせ、アイコンタクトで意思疎通を行いついていくことに決めた。何も知らずにここで暴れても兵士たちに抑えられてしまうことが分かり切っていたからだ。いくら最年少の世界チャンピオンがこの場にいるとしても、大の大人に人数で向かってこられたらひとたまりもない。結局、選択肢は一つしかないのだった。
座り込んでいる位置が最もお姫様に近い龍巳が三人の総意を伝える。
「わかりました。王様の前に連れて行ってもらえますか?」
「はい!承知いたしましたわ、勇者様。ではこちらへ」
そう言ってアルセリアは自分の後ろにある廊下を指さした後、兵士を引き連れて歩き始めた。
それについて行くべく、三人は見知らぬ世界で初めて動き出したのだった。
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