第4話 ティアの剣

 街中に響き渡る鐘の音でちょうど目が覚めた。物資の往来が激しい街ならではの時間を示す鐘。

 意外にも昨晩はぐっすり眠れた。


「ティア、お前床でもしっかり眠れたか?」

「当たり前でしょ。私ぐらいの実力者になると野宿でも朝飯前よ」


 何の実力者だよ。


「ほら、今日はティアに刀買ってやるから。最初言ってたお前のとやらを俺に見せてくれよ」

「使い物にならない安っすい武器とか、買うんじゃないわよ」


 部屋の整理を軽くしたあと、急いで荷物をカバンにしまい、この部屋を後にした。

 しかし、宮殿以外で寝泊まりしたのは何時ぶりだったろうか。



 □



「ここいらで武具屋と言ってもそんな沢山は無いだろうな」

「そうかしら?ここは最前線でもあり、大国と大国の物資の中継地。戦争兵器なら周辺の大都市にも引けを取らないはずよ」


 まだ早朝だと言うのに昼間の様な賑わいを見せる街。


 ここの魔物からしか取れない貴重な資材なども多く行き来している。

 武具を買うにしても俺は最低限の装備は済まして来ている。今回はティアの物しか買わないだろう。しかし一言に刀と言っても様々ある。


「なぁティア、武器ってどんなのが良いんだ?」

「そんなの見てみないとわからないでしょ。取り敢えず刀と呼べるものならば、私は何でも使いこなしてみせる」

「お前、マジで奴隷商館にくる前何やってたんだよ.........」


 そんな会話をしている間に目の前に大きな武具屋があらわれた。

 店の外からでも鉄を打つ音がよく聞こえた。


 てっきり他国の武器を買い入れているだけだと思ったが、自作もしているのか。俺は今までそう言うのには無縁だったため詳しくは知らないが。

 店内に入ると工房独特の煙や土の匂いがした。




「らっしゃい、そこの机に腰掛けといてくざせい」


 店の奥からガタイのいいおじさんが出て来た。

 俺とティアはおじさんが指差した椅子に座る。どうやら店の応接スペースのようだった。てっきり無造作に並べられた武器を自分たちで勝手に選んで持っていくもんだと思っていたが。

 まぁ俺みたいに武器に詳しく無いお客さんも安心して買えるってことか。


 タタタタタッ〜!と先ほどのおじさんが駆け寄って来た。


「お待たせしましたお客さん。今日は何用で?」

「彼女に近接戦闘用の刀を買おうと思いましてね」


 おじさんは「うむ」と相槌を打ちティアの方を見た。「なるほど」とおじさんは何かに納得したようだった。俺はすかさず言葉を返す。


「やっぱり変ですかね。女に剣を持たせるなんて」

「いや変じゃねえぞ。むしろ逆だ」


 急におじさんは真剣な眼差しになる。


「逆?それはどう言う.....」

「いや、何でもねぇんだ。剣?だっけ。任しときな。ちょっとまってろ。きっと彼女さんの満足いく奴があるから!」


 そう言っておじさんは素早く店の奥に消えて言った。


「なぁ、ティア。さっきのどう言うことだと思う?」

「さあ?貴方に剣は無理ですよって言おうとしたら、私の剣を買いに来たことがわかってホッとしたんじゃ無いかしら?」

「一応俺も貴族育ちだから剣術は人を軽く凌駕してる自信はあるんだがな」




 □





「こいつなんかどうだい?」


 おじさんが店の奥から持って来たのは刃渡り百センチ程だろうか。

 漆のように真っ黒な鞘に紅いラインが入った刀だった。

 ティアはそれを手に取り色んな角度から凝視する。


「これは.........なかなか凝った作りね」


 ティアは一言、感想をこぼした。


「だろ?こいつぁ輸入品なんかじゃねぇぜ。俺が一から作り上げた最高作だ」


 ガハハッ!と自慢気に笑うおじさん。


「アラック、これでいいわ」


 取り出した刀を鞘にしまいながらティアが言う。


「即決だな。他のも見なくて大丈夫か?」

「いや、これで充分よ。少なくとも鍛冶屋の彼は、この店で一番の刀を持って来たわけだしね」

「嬢ちゃん、よくわかったな。さっきも言ったがそいつは俺の最高作だ。この店で一番の刀。それがそいつだ」

「いいんですか?そんなの大層なもの。俺たちなんかに」


 俺がそう尋ねると、おじさんは椅子から立ち上がった。


「いや、むしろお前達に買ってもらいたい。客さんも気づいてるだろうが、もう剣の時代は終わりに近づいて来てるんだ。だが、そこの彼女は、刀への思いが他の奴とは違う。長年の勘ってやつか。そんな気がしたんだ」


 ティアはその刀をどこか嬉しそうに握っていた。





 □






 そのあと会計を済ませた。するとおじさんが俺に小声で話しかけて来た。


「お前さん、彼女の剣の腕前、見た事あるか?」

「いや、ないですが」

「あいつは相当のバケモンだぞ。いい旅仲間を見つけたな」


 その時俺はあと数日後、ティアに殺される可能性があることを思い出して背筋が震えた。




 □




「ねぇアラック、このマーク見たことない?」


 ティアが先ほど買った刀の鞘を俺に見せて来た。


「そうか?俺は特に見覚えないが」

「戦争と無縁な貴方には聞くだけむだよね。ごめんなさい」


 今日は少しデレ気味だと思ったけど、どうやら気のせいのようだ。





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