第2話 名もなき小さな街
地図とコンパスを取り出して、これからの進路を決める。
「ここが、ここだから....そうだな。とりあえず西に向かうか」
「.....それよりさ、もう少しマシな服とかないの?」
「あ?そうだな。ほら、次の街で買ってやるから。てかさ、主従関係ってしってる?」
俺もそこまで偉そうにするつもりはないが、一応契約を結んでいる以上ある程度の距離関係を築かなければならない。
そうしないとこの安易な契約魔法は簡単に解かれてしまうからだ。
「これは失礼。貴方があまりにも私の主人が似合わないもので」
「あ〜ハイハイ。俺はそんな煽りには乗らないよ。これでも一応元貴族なんだがな!」
いくら自分に貴族意識がなかったにしても、流石に今のは傷つくぜ。
するとティアは驚きからかきょとんとしていた。
「ふーん。物好きな貴族もいたのもね。奴隷連れ回して旅するなんて。どうせその場の見切り発車で、飽きて帰ってくることになるのね」
「それはないよ。俺は自国に戻る気もないし戻っても殺される。旅の理由を付けるとするならあれだな。悪く言えば逃亡。かっこよく言えば生きるためかな」
「ふーん」
あら?てっきりまた煽られるのかと思ったが、彼女は俺の言葉を軽く受け流した。
「ところで、ティアは、なんで冒険者に買われようとしていたんだ?わざわざ奴隷商館までいったりさ」
「それは命令かしら?少なくとも今貴方に言うつもりは無いわ。いったらきっと、貴方は次の街で迷わず私を売るでしょうね」
「そうか」
「その前に、自分の心配をしたら?一週間後、貴方は私に殺されるかもしれないのよ。嫌なら今捨てるか、精々私の満足いく主人である事ね」
「お前な、金貨七枚払ってんだぞ。見捨てるかよ」
いい事言ってる風だが、良く良く聞くと最低なセリフである。
□
目の前に弓なりに高い石垣が築かれている街が現れた。
「あれは.....デカイ壁だな」
「ん、ちょっと地図見せなさい」
ティアはおもむろに俺のカバンから地図を引っ張り出した。
あれから俺たちは何時間も歩いた。すっかり空は赤みを増していた。
「この街は十八番街ね。たしか正式な名前があったはずだけれど」
うーん、と唸りながらティアが地図を折りたたむ。
「お前、詳しいな」
「やっぱり外を出歩かない貴族様は使えないわね」
と、ティアは鼻で笑った。
「いや、貴族以前にそんな普通の奴でも詳しい訳ないだろう」
「そうかしら?名前はないけど、この街は結構有名よ。この世界において十八番目に重要な地域。だから皆んなそっちの名前で呼んでるのよ」
「いや、世界で十八番なんて大げさだろ。この街、そんな重要なのか?さして大きくは見えないが」
「この街の北側には巨大森林があって魔物もウジャウジャいるのよ。この街がないと大都市の方に流れ込むわ」
ティアが指を指した先には漆のごとく暗い森があった。その不気味さは距離のあるここからでも充分伝わってきた。
「いわゆる最前線か。だからこんな巨大な壁が?」
「そうよ。この壁が街を完全に囲っているわ。あとこの街は大国との物資の中継地点でもあるから重要都市十八番ってわけよ」
壁の上にはよく見ると兵士が巡回していた。遠くまで監視をしているようだ。
無事通過証を受け取り、俺とティアは街を散策していた。
「早く私に真っ当な服を着せてくれないかしら」
「ちょっとまて。まずは宿泊先だ。観光はその後な」
むーっ!とティアはぷいっと顔を背けた。あれ?ティアって奴隷だったよな?
あまりの上からな態度に忘れそうになった。やべ、契約魔法が‼︎
「流石に部屋は分けないからな。二人分も払う金はないぞ」
「奴隷なんだからそれぐらいはわかってるわよ。かまわないわ」
だったらその態度もわきまえてくれよ。と、声に出そうとしたがその前に目的の場所を見つけた。
「やっと一軒目か。あそこにするぞ」
「やっぱり所詮は貴族様ね。これくらいで疲れないでくれる?奴隷として恥ずかしいわ」
俺はティアを無視して受付にむかった。
「とりあえず部屋は一つ、一泊だ」
「分かりました。銅貨三枚です」
□
部屋はまぁまぁの広さだったが、やはり今までの慣れのせいか、多少寂しくも感じる。
「ティア、買い物は明日にして今日は軽く街を歩くだけにするから。付いてくるか?」
「勿論よ。一応私がいるのは護身の為もあるでしょ?」
荷物を一通りベットの下に隠して俺たちは部屋を後にした。
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