この奴隷少女は俺の手に負えない

エテレイン

第1話 冒険を共にする奴隷

 俺は元々貴族だった。しかし、特に政治に興味がなかったし、王位継承者も俺以外にたくさんいた。だから、俺は冒険者として、新たな一歩を踏み出そうと決意した。



 □




 この国には、奴隷制度がある。

 聞こえはあまり良く無いが、奴隷自身も、自分の主人を見つけないと生きていくことすら難しい。


 そして俺は今回旅をするにあたって一人の奴隷を連れていくことを決めていた。



 俺が旅の最初に寄ったのはこの国一の奴隷商館だ。だが、別に無理して買うつもりもない。良いのがいなければ次の街で買う。

 そんなに旅の資金も豊富ではない。


 奴隷商館という名前に多少怯えながらも店の扉を開けた。

 奴隷商館といっても檻の中に人が入っているのがズラリと並べられているわけではない。中は程よく広く、小綺麗であった。


「いらっしゃいませ。どうぞごゆっくり。注文はあちらのカウンターで。お願いします」


 店員が一声かけた後どこかへ立ち去った。

 俺の他に五、六人ほどの客がいた。俺にとって見慣れた貴族服のやつ。他にも冒険者のような奴など。

 奴隷を必要とする人も様々だ。その使い道も。


 俺はそのままカウンターに向かった。


「すまない。一人......そうだな、最低限の知識、あとそれなりに力のある奴を頼む。旅は途中に死なれたらたまらん」


 最低限の知識とは、言葉が通じるかももちろん含まれる。


「わかりました。何人か用意いたします」

「頼む」


 俺の要望を紙に書き出し、店員はロビーの奥へとむかった。

 どうやらあの奥の扉の先に奴隷がいるようだ。


 店員が開けた扉の奥は薄暗く、俺のいる場所からはあまりよく見えなかった。

 まぁ、好き好んで見るようなところじゃないよな。


「こちらへどうぞ〜!」


 店の奥から店員が言った。あっ、これって俺も行くのね。

 てっきり此処まで連れてきてくれるのかとおもった。


 部屋の奥は薄暗かった。鉄格子が大量に並べられている。

 結局想像どうりの場所だ。


「ここにいる奴隷か?」

「いえ、ここの奴隷は下級ですよ。それなりの身体能力がある奴隷は別です。この奥です」

「ほう」


 そう言って店員はその扉を開けた。


「ここの奴隷は元々兵士や捕虜、山賊などをしていた奴らです。他のものとは力が違いますよ」


 俺は軽くそこを見渡した。そこには色々な奴がいて、俺の何倍も太い腕をもった男や、それなりに若い青年など様々だ。


「しかしあれだな。ここまでがっつりしていると、逆に俺がやられそうだな。あとよく食いそうだ」


 と、苦笑気味に口に出した。


「そうですね。もう一つ。数こそ少ないですが、女の奴隷はいかがです?」

「女か。見るだけ見て見るか」

「わかりました。こちらです。やはり女のほうが、値は高くつきますが」


 案内されたところを見渡す。これは参ったな。

 女といっても油断はできない。

 中には男よりもガタイのいい奴がいたりと、とても迂闊に手はだせない。

 しかも皆、敵意むき出しでこちらをみてくる。


 しかしあれだ。どうせ女の奴隷と旅をするなら、俺と年齢の近い奴の方がいいよな。あと可愛いのも旅をする上で大切なのでは?と、自問をくりかえした。


「すまない。もうちょい普通の女はいないのか?」


 やはりそれほどの身体能力をもつとなると限られるか。


「そうですねぇ......」


 と腕を組む店員の後ろに......。ん?あれは。


「なぁ、あいつはどうか?暗くて見えなかったが、そらそこの」

「あぁ、奴ですか」


 俺はその檻に近づいてしゃがみこむ。すると店員がくちを開いた。


「こいつはかなりの剣術を使いますし、顔立ちも良いので、仕入れたときはやってやったとおもったんですけど、正直処理に困ってまして......」


 その顔の美しさは貴族生まれの俺からしてもそれなりのものだった。


「何か彼女に問題が?」

「実は多少ひねくれていると言うか。前のお客もその顔立ちや実力から喜んで購入なされたのですが、次の日彼女だけここに戻ってきましてね。どうやら主人が気に入らなかったので殺したと」

「奴隷主狩りかよ」

「そうかもしれません。わざわざ戻ってきたのです。でも、彼女は定期的に買われるので、店の経営的にも戻ってこられると、他の商人に渡すわけにも行かなくて。でも、そのせいでこの店の評判も多少雲行きが怪しくて」


 なるほど。


「ちょっと奥の方も探してみます」


 そう言って店員は奥へと歩いていった。


 ガシャン。と、後ろで音がした。


「.....貴様、私を買え」


 振り返るとその声の主は先ほどの奴隷少女だった。その眼は鋭く紅。そして白くて

 腰ぐらいはある長い髪。


「いやでも、君を買ったら殺されちゃうでしょ、俺」

「......否定はできない」

「だろ。ならまだ、他の奴隷にするよ」

「じゃあ、じゃあさ、とりあえず一日、いや、一週間はさ、殺さないでおくから。アンタ冒険者でしょ?」

「まぁ、そうだけど。冒険者だと、殺さないのか?」

「わからない。少なくとも今まで私を買ったのは体目当ての貴族とかだったからね。私は旅をする奴に用があるの。あと、単に気持ちの悪い奴ばっかだったし。その点アンタは、今までのなかではまだマシな方よ」

「そうだな。じゃあ、お前のそのご自慢の剣技次第だ。どの程度だ?」

「少なくともこの国に私より強い奴はいない。とだけ言っとくわ」

 今思ったけどこいつ、奴隷なのにめっちゃ普通に喋ってくるな。

「面白い。なら、買ってやろうか」


 少なくとも一週間、殺さないという条件。その一週間で見極めよう。もし無理そうなら、次の街で売ればいい。この顔立ちだ。事情を知らない商人にでも売れば逆に儲かるかもしれない。


「お〜い。店員さん?俺、こいつ買うわ」

「本当ですか?ありがとうございます!」


 檻を開け少女と共にロビーへと戻る。

 そして最初のカウンターまで帰ってきた。


「しかし、本当によろしいのですか?もし何かあっても、こちらは責任を負い兼ねますが.....」

「大丈夫。あとは何かあっても、俺が処理するよ。で、いくらだ?」

「そうですね、本来は金貨十枚ほどですが、事情も事情ですし、金貨七枚でどうです?」

「悪くない。はい、これで」


 俺はキッチリ金貨七枚をカウンターに置いた。


「たしかに。では、主従契約を。血を一滴、奴隷の手の項に」

「あいよ」


 彼女の手をとり、右手を力強く握る。ポタッと、血が少女の手に落ちる。


「契約はこれにて完了です。あっ、サービスで服など新調いたしますが」

「よろしくたのむ」





 □







 装い新たに少女が奥の部屋から出て来た。


「ありがとうございました〜!」


 店員の見送りをうけて俺と少女はこの店を後にした。


「そういえばお前、名前なんて言うの?」

「ティアよ」


 ここから俺と奴隷少女の冒険がはじまった。



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