Ⅶ.そして幸せが訪れる。
……果たして、憎き魔王は此の剣に敗れた。
傍目には人型を模していたが、やはり魔王は所詮魔王。魔族であり、人間とは異なる生き物だ。
魔法の痩躯を貫いた剣を引き抜けば、其処は不愉快ではあるものの人間同様血を撒き散らし、其の場に糸が切れた人形の様に倒れた。
其の後はぴくりとも動かない。痙攣の1つさえする事なく、正に糸が切れた人形。電力を無くしたカラクリである。
しかし其の姿を見たからといって、人類が嬲られた事実は消えない。
同時に青年の中の恨みや怒りが治まる筈もなかった。
動かぬ、恐らくは骸と果てた其の身へと、更に剣を付き立てようと魔王の血で染まった剣を振り上げた時、魔王の姿は砕け散った。後に残るのは床を汚した、魔王の汚らわしい血のみ。
其の体を切り刻む事こそ叶わなかったが、少なくとも絶命したのは事実だろう。
青年は大きく息を吐き出し、自らの両の手を見下ろした。
無論自分1人の力で魔王を討ち取ったとは思えない。歴代冒険者が確かに魔王を弱らせ、其の結果止めを刺せたと考えた方が利口であり、正解だろう。
其れでも寧ろ恨めしい程あっさりと死に絶えた魔王に、此れ程弱い存在に脅かされ、命を何とも思わずに搾取されていたのかと考えるともっと早く自分が立ち上がるべきであったのでは?という怒り混じりの疑問さえ湧き上がる。
しかし結局其れは言っても仕方の無い、自惚れに過ぎない。
無意味で傲慢な感傷を振り払い、魔王城を後にした。
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