魔王城は門扉からして豪奢ごうしゃな造りだった。

 細工の一々が細かく、上品な美しさをしているのが、漸く長年の夢が叶うのだという興奮と緊張の最中、憎悪で渦巻く胸中、決戦を眼前に控えているといった状況であるにも関わらず嫌でも目に付いた。

 勿論細工の美しさに目を奪われる事はない。

 比較するのも罪深い、例え話で止めるにもおぞましい話ではあるが、こうした細工を成されているのが旅立った故郷の城であれば其の美しさに目を奪われ、溜息も漏れ出ただろう。しかし此処は何人もが何年にも渡り憎悪だけを向け、事実何人もの命を気安く奪ったモノの根城。魔王城なのだ。

 そうした敵地の城が豪奢であった所で感嘆等抱きはしない。


 しかし其の、否が応でも目を惹き付ける程の美しい装飾は、戦いに赴く青年に、抜群の効果を発揮した。


 青年の脳を幾つかの考えが過ぎる。

 此の装飾を造るのに犠牲になった村があるのではないか。たかだか些細な装飾の為だけに、冬を越す金品を奪われ、路頭に迷って凍えた人が居るのでは。

 いや、もしかしたらそんな遠回りな方法ではなく、もっと直接的且つ残忍な手法。


 装飾品の材料は、人間の骨や臓器なのではなかろうか。


 青年の思考は“妄想”と呼ぶにはあまりに鮮明に思い描ける。事実残忍な魔王、及びその王が率いている魔族であれば、其の程度の事、それこそ「其の程度」と簡単にやってしまうだろう。

 そうした様は容易且つ鮮明に思い描け、青年の心に新たな燃料を投下した。

 其れによって益々魔王への怒りは燃え上がる。

 恐怖など、とうにない。

 あるのは長年の恨みを晴らせる、夢を果たせる好機への興奮と、魔王への怒りのみ。


 青年は扉を、半ば乱暴に開け放った。

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