Ⅵ.青年の夢

 魔王は村を焼き、代々伝わる秘宝さえも躊躇無く奪った。

 それで何人が生活に困窮しようと、何人が悲嘆に暮れようと知った事ではないと言わんばかりに。兎に角、悪辣あくらつの限りを尽くした。

 何処其処の村が滅んだという話は常に流れてきたし、魔王の行いは子供の寝物語としても代々聞かされてきている。無論それは魔王という敵を幼少期から正しく見極めるためだ。


 青年も例に漏れず寝物語には魔王が成した悪逆と、勇敢に立ち向かい散っていった勇者候補の話を聞いてきた。

 幼少期より正義感が強かった事も手伝って、青年は何時しか魔王討伐を本気で夢見ていたのだ。だから伝説の剣がなくとも、魔王に立ち向かう覚悟は出来ていた。

 それがまさか、王直々のお達しで、件の剣さえ携えて魔王討伐に臨めるとは。


「必ずや悪しき魔王を倒して戻ります!」


 そう朗々と宣言し、魔王城に向けて歩き出した。

 実の所、易々と敵うとは思っていないし、負ける危険性さえ抱いている。それでも青年は、魔王を討たずに逃げ帰るという“情けない道”は端から見ていない。

 今までの冒険者同様に、倒せないのなら命全て使って魔王の体力及び魔力を削りきるだけである。


 とは言え、覚悟こそしているものの、真意としては「自分が倒してみせる」というのが事実だが、

 名声は要らない。

 此処で自分が倒さなければ、幾ら弱らせたところでまた、魔王による被害は増えるだろうから。

 それでも今迄の攻撃が蓄積しているのか、昨今では魔王の悪事も大分落ち着いているようではあるし、道中魔物に襲われる事さえなかった。


 だからと言って油断は禁物である。

 もっとも青年の気は、魔王城の門扉もんぴを前にしてわざわざ意識せずとも自然と引き締まったのだが。

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