魔王討伐に選ばれるには、王から任を受ける他、もう1つ重要な試練が用意されている。

 王に目を掛けてもらえる程の実力者になれば良いという話だけではなく、その“もう1つの試練”によって何人の実力者が心を折られたかと思うと、青年とて緊張を感じずにいられない。


 もっとも此処で試練に失敗したとしても、無駄死に覚悟と言われようが、単身魔王城に乗り込むだけの心積もりではあったが。


 試練の内容自体は簡単だ。

 王家保有の剣に触れれば良い。


 しかし、勿論と言うべきかその剣は普通の剣ではない。代々伝わる聖剣であり、選ばれた冒険者は其の剣を抱えて魔王城に向かい、しかし結果剣しか戻っては来なかった。

 それは使用者が死亡した場合、保有者の下に立ち返るという剣の性質が成している事で、つまりは。



 そんな数々の冒険者の決意と絶望、そして絶命さえ目にしてきたのだろう聖剣が、青年の了承を受けて即座に運び込まれる。

 魔王を唯一殺せるとされている聖剣。

 此れに触れる事が出来れば、青年は冒険者として正しく選ばれる。もし選ばれなかった場合どうなるか詳しくは知らないが、住人達の噂を思い出すに死ぬ事はないらしい。ただ“触れようとしても触れられないだけ”だと聞いた。


 自らの運命を左右するとも言えるだろう剣を前に、躊躇いこそないが緊張はする。かと言って何時いつまでもにらめっこをしているワケにもいかない。

 1度大きく息を吸い込んで、青年は剣へと手を伸ばした。


 代々伝わる聖剣は、まるで青年が日常的に使っている訓練用の量産品であるかの様に、やけにあっさりと青年が触れる事を許して。


 一瞬の静寂の後、謁見の間は大いに沸いた。



 こうして青年は魔王討伐の冒険者として、正式に任命されたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る