魔王の話は青年も聞いている。

 何年も魔王を倒そうと出向き、散っていった冒険者英雄達の話は、幼子に聞かせる物語として最適でもあり、青年自身幼い頃から数々の冒険者伝説を聞かされては、憧れを抱いてもいた。

 だから幼い頃から剣術も、体術も、魔法もと、欠かす事無く鍛錬に励んではいたのだが。


 まさか王直々に魔王討伐の任を言い渡されるとは、夢にも思っていなかった。


 一応姿勢だけは膝を着いた、敬礼の物を示しているものの、あまりの驚愕で今度こそ本当に硬直してしまう。

 王に逆らうなど許されない事ではあるし、そうでなくても青年に断るという選択肢は無かったが。いざ憧れ、志していた魔王討伐の道をこうも大々的に提示されてしまえば、硬直だってしてしまうというものだ。


 憧れ、志していたからこそ、かもしれないが。


 そんな青年の態度をどう勘違いしたのか、王は少し不安そうに首を傾げる。

 其れなりの高齢である為、目立つ目元の皺がその動きに伴って憂う様に刻まれた。


「引き受けてはくれぬか?お前が引き受けてくれれば、此の国は安泰すると思ったのだが」

「……やります」


 まだ硬直状態から完全に回復したワケではない。

 それでも、仮に王に逆らう事が許されていたとしても、青年には其の頼みを断るという選択肢はなかった。

 魔王を倒さなければと思い、心燃やしていたのは青年とて同じなのだから。


 途端、王の顔が明るくなった。

 まだ魔王を倒したワケでもないというのに、表情は輝き、外見から感じられる年齢もざっと5つ6つは若返ったようにさえ思える。


 期待、されているのだろうか。


 青年はふとそう思い、嬉しさよりも緊張を感じた。

 努力の甲斐あって青年の力は多くの人間が認めるところではあった。だからこそ、こうして王に呼び出された今、無視出来ない緊張が青年を支配しているのだ。

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