Ⅴ.選ばれし青年

「お前の実力は耳にしている。どうか魔王を討ち取ってきてくれまいか?」




 家に帰るなり、王宮の使者が自分を迎えた。其の時は咄嗟に過去の行いを思い返していた。何か役人達に厄介になる事をしただろうか。

 幸か不幸か、該当する様な事は思い付かず。それでも急に王宮の人間が来た不安と驚きからおそるおそる、何用かと訊ねるより先に、出迎えた使者が口を開いた事で其の必要はなくなった。

 なくなった、と言うよりも。


「王様がお呼びです。城までの同行をお願いします」


 心臓が飛び出るかと思った。

 目玉が零れ落ちるかと思った。

 そんな驚きの最中、何か言葉が出てくる筈も無い。頭は真っ白、口はぱくぱくと動くだけで言葉なんて出てこない。

 オレは何をしたんだと自問してみるものの、答えは見付からない。そんな目立つ行い、それも王から呼び出されるような悪行は働いていない筈だ。其の上驚きによるパニックを起こしていれば頭も働く筈がない。


「え、えっと、オレ何かしました、っけ……?」


 何とかそう訊ねれば、一瞬きょとんとした後、使者は慌てて頭を振った。曰く、“王様直々の頼みがある”との事。


 罪に問われる覚えも無いが、頼み事をされる覚えもない。

 不思議に思いつつ、王の呼び出しを無視するワケにもいかず王に謁見した結果が、上述の通りである。


 青年は今日何度目か。また目が零れるんじゃないかと思える衝撃を味わう羽目になった。

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