魔王という身分は吹っ飛んでいる発言だけど、彼に関して言えば、凄く“しっくるくる”身分だった。

 それなら彼が纏う威圧感も、“魔のモノかと思う程”整い過ぎている顔立ちも納得がいく。

 明らかにハタチ足らずの見た目であるクセに、「歳をとりたくない」とボヤいた事にだって十分過ぎる説明が付くだろう。確か不老不死ではないにせよ、魔のモノは大抵人間と流れる時間が異なっている上、丈夫で、桁外れに長生きだ。

 魔のモノの頂点たる魔王が、其の点でズバ抜けていたって何も不思議じゃない。


 ハタチ足らずの外見をしていても、実際何十年、何百年と生きていたところで、驚く事じゃないだろう。

 十分に有り得る事だ。


 そしてその魔王の手を取る事がどういう事なのか。そんなのは改めて考えるまでもない。

 彼自身が言っていた。「人の道を外れて、踏み潰し、奪う側にまわるか?」と。

 つまりは、その言葉のままの意味だ。


「ああ、此処で断られたからって口封じの為に殺したりはしねぇよ。お前を魔族として生かす事なんて容易いが、それは人間に牙剥く事も意味するからな。生きていた世界が相容れない物になる。元同族が天敵になる。それを忌避したいって思う気持ちは、まあ、分からなくもねぇしな」


 誰かが聞いていれば、妙に思うかもしれない。

 或いは、油断させる為の罠だと声高に訴えるんだろう。

 だっておかしな話だ。魔王が人間相手に勧誘の真似事をした上、人間の事を案じているなんて。

 ただそれが罠でもなんでもない、この魔王の本心だっていう事は、こうして向かいあっているオレにはよく分かる。


 オレは魔王だと分かってからも尚、綺麗に映る手を改めて見つめた。

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