人間について思う事。或いは、人間に関して抱いている記憶。


 実の両親はオレの事を「不気味だ」と語り、恐れて、避けた。大人達の中には声高に「殺せ!」「殺してしまえ!!」と訴えている人間が少なくなかった。


 さて、晴れて自由の身になって捨てられてからは如何だろう?


 自己満足の為だけに安い同情を寄越す通行人。

 汚いオレを露骨に厭んで唾を吐き捨てる者。

 慈善事業を謳う教会の連中だって、小汚い子供に触れる事を、露骨に拒んだ。


 まだ純粋だった2、3歳の頃だったらどうだろう。

 ただただ両親に愛されたくて、頑張れば愛されると思っていた幼いオレ愚か者は、そうした人間に媚売ってでも、人間の側で生きていたいと望んだかもしれない。


 でも、今のオレに如何してそんな気持ちが残っていよう。


 オレが生きる此の世界に牙剥く事。

 一応現状では同族と語れるであろう人間が、決して相容れない天敵に転じる事。


 そんな事、何で今更躊躇うというのだ。

 そもそも此の世界がオレを受け入れた事が1度でもあっただろうか?生まれた瞬間に、両親から恐怖の悲鳴をあげさせたらしい、オレを。

 そもそも人間がオレの味方だった瞬間が、一瞬たりともあっただろうか?殺してしまえと声高に訴えられてきた、オレの。


 ……違うな。

 そんなもっともらしい理由を挙げたところで、正解じゃない。オレの心だ。オレが自分で分かっている。

 実際はもっと単純なのだと。


 オレは此の青年に、此の居魔王に惹かれているのだ。


 親に捨てられたあの日から積極的に死のうとしてはいないものの、はっきり「生きている」とも言えない現状。

 捨てたも同じと言って過言でない此の命を、彼に仕える為に使えるのであれば、其れはどんなに幸せだろう!

 夢想しただけで震え上がるほどの興奮を、オレは確かに今、抱いている。


 だからオレの答えなんて、決まっていた。


「そんなの、本当はわざわざ聞かなくても分かってるんじゃないの?」

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