何でこの青年は路肩で蹲る小汚い少年オレに声を掛けたんだろう?



 今迄オレに声を掛けて来た人間には、腹に抱えた物が似通っていた。

 明らかに家も家族もない“可哀想な少年”であるオレに対する同情。

 そんな“可哀想な少年”に対して、整った服、あたたかな家、やさしい家族が居る事に対する優越感。

 “可哀想な少年”に声を掛ける事で、「私ってやさしい!」という自己満足に浸りたいという欲求。


 だけど青年からそうした企みは一切感じられない。


 慈善事業をうたう団体様にしつこく声を掛けられた事もあるけれど、そういうのとも違う。

 慈善事業の団体様だったら、もっと胡散臭い言葉を掛けてくるし、薄っぺらい笑顔を貼り付けている筈だ。


 だとしたら、何で?

 見ての通りオレが金なんて持っているワケもないし、わざわざ話し掛けるメリットなんてないだろうに。


「次はオレから質問。良いかな?」


 1度気になってしまっては、もう、無視出来なかった。

 一応質問の許可を取れば、青年は深いグリーンの両眼を軽く見開いて驚きを露わにした後、やれやれと言わんばかりに肩を竦める。

 呆れられたかな、と一瞬思ったけど、そうじゃなかった。


「へぇ。だんまりを決め込んでいたから寡黙かもくなヤツだと思ったんだが、案外饒舌じょうぜつだな。オレも見る目が曇ったって事か?……はっ、歳はとりたくないねぇ」


 何歳いくつだよ!?

 やだやだと言わんばかり調子で言い放つ青年に、オレは思わず内心でツッコんだ。声に出さなかっただけ褒めてもらっても良いと思う。

 だって此の青年、どこからどう見ても、少なくともはたから見る限りじゃオレとそんなに歳が離れている様には見えない。ハタチにだってなってないだろう。

 100歩譲って童顔なだけでハタチは迎えていたとしても、10歳以上離れているなんて事はなさそうだ。


 ……これ以上オレの頭上に疑問符を増やさないでほしい。


 とは言え黙り込んでいて疑問が解決するワケもないし、オレは青年から拒否の返事がなかったのを質問の許可と判断して、切り出す事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る