男の外見から察せる年齢は、オレより少しだけ年上だろうか、という程度。

 17か18くらいの青年。

 整っている顔立ちは、童顔と言う程ではないけど幼さが所々残っていて、笑った事でその幼い部分、青年に残る少年の部分が強調されていた。


 オレに声を掛けて来た大人達がこんな風に笑ったことも、勿論、今迄には無かった。

 今迄に見てきた笑顔と言えば、無邪気さや純粋さなんてとうの昔に置き去りにしてきた、打算や下心が透けて見える汚い物だったから。


「少しは話す気になったか?」

「……まあ、少しはね」


 努めて素っ気無く返した声は、思ったよりもスムーズに出てきた。

 此処最近一切声を出していなかった。

 でも、声を出すのに苦戦する事もなく、掠れた声が出る事もなく。大分だいぶ遠くに行ってしまったものの、記憶にあるオレの声とほとんど変わらない声。

 少しだけ驚いた。最後に声を出した日は、もう忘れてしまう位前だったのに。オレの体の機能は、少しばかり労働をサボっても錆び付かないみたいだ。


 とは言え今のオレの関心は眼前の青年。

 自分の体の事なんて2の次、3の次で、その驚きはすぐさま思考の隅へと追い遣られたけど。


 最初に強烈な印象を抱かされた双眸からオレは目を逸らして、青年の様子を窺う。

 と言っても、目の奥から窺える感情以外は、今迄に見てきた人間とそう大差がなかった。

 例えば、肌の色。凄く白くてオレより不健康そうに見えたり。

 そんな肌の色と対照的に、髪は夜闇に勝るかと思う程、黒々としていたり。

 身に付けている物の1つ1つが、素人目に見ても、過去に見たどんな物より抜きん出て上等だったり。


 そういった細かい違いは何個かあるけれど、他は全部一緒だ。

 額に目もない。背中に翼もない。骨は透けてないし、黒髪から獣耳が生えてもいない。

 極々普通の、人型だった。

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