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「香ちゃん・・・・・」

「どうしちゃったんですか、ご先祖さん。目がヘンな方、向いてますよ。」

「ああ、香ちゃん、どうして君は、香ちゃんなんだい・・・」

「どうしちゃったんです?」

「ふさふさ、がいいって言うんだ。黒々したヤツが。」

「はい?」

「髪フェチ、だってよ。俺の黒髪を見た瞬間に、恋に落ちたって言うんだよ。還暦過ぎてるのに、黒髪ふさふさって、夢みたいな人、て言われたんだぜ。この年まで独身通してきてよかったぜ。ああ、香ちゃわんんん。」

「要するに、恋人が出来たってことですね。」

「い、いや、まだそこまでは行ってない。確かに入れ込んじゃあいるんだがな、ほかに大して金の使い道がないから。だけど、なんつーか、俺って、すごいウブみたいなんだわ。経験不足っつうか。なんでこうなっちゃったんだろーな。そーか、みんなお前のせいだ。お前みたいなガキの相手して、勉強やら、ラグビーやら、企画書やら、残業やら、習い事やら、何やらかんやらで、女の子と付きあう暇がなかったもんだから。はあああーーーー、香ちゃわあああわわんーーー、君のためなら何だってするからねえーーー。」

「よかったじゃないですか。お仕置きペンのおかげですね。」

「お仕置きペン?」

「そうです。ハゲないって副作用のおかげでしょ。」

「そう言えば、そういうのがあったな。で、俺は今、人生バラ色だぞ。」

「そうですか、僕は、今、人生真っ暗です。剣山、返してください。」

「どうした?」

「見つかりました、ちょっと借りてたことが。」

「ばれたってことか?」

「はい。」

「そういう世渡り下手な所って、俺の子孫って気がするよ、ほんと。」

「あんまり、嬉しいことじゃないんですけど。」

「で、どうなった。逮捕されたのか、パパは。」

「レイバーキャンプ送りになって、強制労働させられてます。ママも一緒に。」

「連帯責任ってわけか?未来は過酷だな。」

「決められた期間働かなければならないんです。レンタイなんたら、って言うのかよく分かりませんが、家族がそれを手伝ってもいいっていう、法律があるんです。」

「じゃ、お前も、手伝っておるのかね。」

「いいえ。僕はこっちがあるから、家を離れられないんです。パパもママもお姉ちゃんも、ご先祖さんの方をやれって。家族のたった一つの希望なんだからって。」

「おれ、結構頑張ってるぞ。お前の未来の弟や妹のためにも。」

「弟です。」

「いや、そういうのはだな、あんまり決めつけるもんじゃない。バイオリズムちゅうもんがあってだな、例えばパパの方が頑張ったりすると、妹になっちゃうとか、そこは難しい話があってだな、」

「弟です!」

「わかった。弟で手を打とう。で、剣山を返さなきゃならん、と、こういうわけだな。」

「そうです・・・・」

『子孫君!!!!』

「なっ、何ですか、いきなり大声出して。」

「お前は、俺のこの家をどう思うかね。」

「大きいです、すごーーく。僕らの時代じゃ、副総統級です。」

「そうだろ。ゼネコンの社長宅だからな。お手伝いが2人に、執事が1人に、コックが1人、運転手が1人、この屋敷に住んでいる。しかも離れの方にだ。母屋には部屋が13あって、トイレも6つ、バスも6つある。」

「知ってますよ。引っ越したときに、家の中探検させてもらいましたモン。」

「なのに、だ。何で、お前達家族は、金持ちにならんのかね?おかしいではないか。もしかして、俺の次か、その次か、そのまた次か、どっかの代に、昔の俺みたいな怠け者がいるんじゃないのか?」

「うーーん、それは考えられないですね。僕、前に、時代を遡って、ご先祖さんまでやって来たって言ったじゃないですか。その間、ずっと、代々のご先祖の皆さんを観察してきたんです。皆さん貧乏だけど、必死で、本当に必死で、働いてました。ご先祖さんの子孫とは思えないくらいに。だから、ご先祖さんがお金持ちになったくらいで、あの人達が怠けるとはとても思えません。」

「ふーーーん、そうか。ということは、どうしてかな?まあいい、念のため、俺の子孫達を調査してくれ。」

「分かりました。あっ、その前に剣山、返して下さい。」

「そうだったな。なんだか、寂しくなるなあ。」

「どうしてですか?」

「長年連れ添った相棒だからな。それにこれでお仕置きシリーズともお別れなんだろ?」

「そんなことあるわけないじゃないですか。お仕置きしなかったら、のたうち回ることになるんですよ。はい、これ、次のヤツ。お仕置きリング。」

「おい、お前のパパ、お仕置きシリーズが買えなくて、ぬす、いや、ちょっと拝借したんじゃないのか。」

「お姉ちゃんです。」

「ん?」

「お姉ちゃんが、僕に・・・・、ご先祖さんと一緒にがんばるのよ、って渡してくれました・・・・」

「・・・・おい、どうした。なんで泣いているんだ、子孫君。」

「泣いてなんかいません!はい、とにかく指にはめて!」

「お、おう。はめっぱなしでいいんだな?ってことは、正真正銘、もうお前は来る必要がないってことだ。せいぜいパパを助けてやれよ。」

「そんな訳ないじゃないですか!僕が磨きに来なくちゃならないんです。24時間で真っ黒に曇っちゃうんです。それを、僕が願掛けしながら、磨かなきゃいけないんです。」

「おれが自分でやりゃあいいじゃないか。」

「いつもと一緒で、本人には外せないようになってるんです。その上、磨くのに3分もかかるんですよ。はああああ、早く、何とかなってくれないと、僕がお爺さんになってしまいます。」

「うん、悪いな。頑張るわ。で、どうなるんだ、はめると。」

「実は言いにくいんですけど……」

「いいぜ。覚悟してる。姉ちゃんからのプレゼントだからな。どんなのでも、文句は言わん。」

「おしっこ。」

「えっ?」

「おしっこが、止まらなくなるんです。没頭していないと。」

「垂れ流しってことか。」

「はい。」

「……いいぜ。構わん。俺、とにかく忙しいの好きなんだわ。それによ、没頭すりゃいいんだな?」

「はい。」

「何でも?」

「何でも。」

「恋でも?」

「恋?あ、はい、おそらく。」

「じゃあ、大丈夫だわ。これからは香ちゃんとのデートで、忙しくて忙しくて、ってことになるからよ。」

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