6


「ボーナス、新人中で最高。イエーイ、ピース。何か買ってやろうか。」

「ありがとうございます。じゃあ、シュークリームをお願いします。前から憧れてたんです。」

「どらやきでなくていいのか?」

「何ですかそれ?」

「うーん、丸いカステラみたいなヤツで、間に粒あんが入ってて、甘くて美味いおやつだ。皿に山盛にしてだな、パクパク食べる。」

「ごめんなさい、僕、アンコだめなんです。カスタードクリーム派なんで。」

「つまらんヤツだな。どこまで行っても、型に、はまらん。」

「型?なんですかそれ?」

「何でもいい。分かった、シュークリーム・バニラービーンズたっぷり入りを買って置いてやろう。その代わり、今日はペンだこなしだ。」

「だめです。毎日やらなきゃ、のたうち回ることになりますよ。」

「のたうち?」

「言いませんでしたっけ?」

「初耳だ。」

「そうでしたか。大変失礼しました。これって、続けてるうちに、中毒になるんです。」

「チュードク?」

「はい。ないと、苦しくてのたうち回っちゃうんです。」

「ってことは、何かい、麻薬みたいなモンかい?」

「そうですね。マヤクって学校では教えてくれないのでわからないのですが、パパがそんなこと言ってましたね、僕がここに来る役に決まったときに。休ませちゃならない、間があくと体が欲しがる、一種のマヤクだから、とか。お仕置きって、そう滅多にはしないじゃないですか。だから普通なら、どうってことないんですけど、毎日連続でやるとまずいみたいで。」

「まずいって、おいおいおいおいおい、勘弁してくれよーーーー。俺は麻薬中毒患者なのかよーーーーー」

「そういうことですかね。でも、お仕置きシリーズには、別の能力もあるんですよ。よく思い出してください。ご先祖さんって、暗記科目苦手だったでしょ。」

「よく知ってるな。」

「一応、ご先祖さんに会う前に、下調べしましたから。中学2年生まで、スカートめくりしてたとか。」

「そ、そんなことはどうでもいいだろ。」

「で、社会科の成績、いつも2か1。特に歴史は毎回1でしたよね。で、大学受験の時、どうでしたか?」

「そりゃあ、日本史・世界史は、俺の得点源……。」

「でしょ。お仕置きピンセットをずっと使ってるとですね、自然と記憶力がアップするんです。体質が変わるっていうか。」

「麻薬中毒患者になる代わりに、記憶力がアップするってか?」

「そうです。そうしてその能力は、あとになっても消えないんです。」

「そう言えば、俺、会った相手の名前とか全部一発で覚えるんだよな。歩く名刺フォルダって、社内じゃ有名なんだぜ。」

「でしょ、でしょ。」

「じゃあ、ラケットは。」

「太りません。」

「太らない?」

「はい、余分な脂肪を燃焼させ、燃焼できない分は、ウンチとして出される、って聞きました。」

「ウンチとして?脂肪を?だから便器の中で、ぷかぷか浮くんだな、俺のウンチ。」

「お仕置きペンは、ハゲません。」

「ハゲない!なんだそりゃ。あんまり嬉しくないぞ、その取引。」

「そんなことないですよ。ご先祖さん、植毛する費用を稼ごうとして、詐欺で捕まるんですから。」

「うーん、確かにハゲはいやだ。だけどな、たかがハゲ程度で詐欺までするかな、俺?」

「その点は、僕にも理解できません。『入れ込んじまった』って、ご先祖さんは言ってましたけど。どういうことかな?」

「入れ込んじまった?それ未来の俺が言ったのか?」

「ええ、でも、まあ、いいじゃないですか。ハゲなくなるんだから。」

「OK 分かった。了解。でも、もうペンはやめてくれ。もっと、御利益のある副作用がいい。例えば女に持てるとか。そう、フェロモン増強能力がある、とか。」

「・・・・持てる、ってたしか、前にも言ってましたけど、それって、そんなに大切なことなんですか。」

「そりゃあ、大切に決まってるだろ。人生で一番って、言ってもいいくらいにな。まあ、小学生にゃあ分からんだろうが。」

「分からないのなら言わないでください。はい、終わりました。今夜も頑張って下さいね。あっ、それからシュークリームもよろしく。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る