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「頼む。少しだけでいいから、話聞かせてくれ。そうしたら、素直につままれるから。」

「別に、素直じゃなくても、つまめるんですけどね。まあ、いいでしょう。何を聞きたいんですか。」

「あのさ、お前何のために来てんの?」

「あーーー、そうか、それ話してなかったですね。」

「やっぱ、小学生だな、お前。」

「そうですよ。違うなんて言ってませんけど。」

「では、理由を述べよ。」

「・・・・貧乏なんですよ。我が大岡家は。ずーーーと前から。だからパパのパパの時にも、貧乏でした。そのまたパパの時も。それから、パパのパパのパパのパパの代にも貧乏だったらしい、とパパは聞いたって言ってました。だから、いつからこうなっちゃったんだろうって、調べたんです。」

「どうやって?」

「250年ローンを組みました?」

「なに?」

「だから、パパがローンを組んで、僕も、僕の子供も、その先も、ずうっと250年かけてお金を払うんです。」

「何のお金?」

「タイムマシン、です。」

「へーー、〈どこどこ扉〉も〈スポンジプロペラ〉も出来てないくせに、世紀の不可能機械のタイムマシンは発明されてるってわけか。もっとも、そうじゃなきゃ、お前はここに来られるはずないからなあ。でも、本当に発明されるのか?」

「2016年に、光より速い物質が発見されたんですよ。それって、去年の事ですよね。知らないんですか?」

「ごめん。何しろ受験生なモンで。」

「何が受験生ですか!勉強してないくせに。」

「まだ、高2だったからな。そろそろ始めようかとは思ってたんだが。俺は大器晩成型なんでね。」

「嘘つき!高3になっても勉強してないじゃないですか!」

「う、う。」

「分かったんです。あなたから先の未来がダメなんです。あなたは、大学受験に失敗して、やけを起こして、オートバイを乗り回して、それも酔っぱらってスピード違反して、人をはねて刑務所に入れられて、いいことなしで落ちぶれ果てるんです。」

「落ちぶれ果てるって。へえ、そうなんだあ。」

「そうなんだあ、って、やけに落ち着いてますね。」

「うん、実を言うとな、そんな人生なんじゃないかっていう、予感のようなものは、前からあった。俺って、結構鋭い方だから。」

「鋭い方って、それ、自慢になるんですか?こうやって、ふかふかの絨毯、最高級木材の机に、最高級の椅子、そしてエアコンの効いた自分だけの部屋で勉強できるなんて。僕の生活に比べたら、夢の又夢の又夢の生活なんですよ。パパとママに感謝して、死にものぐるいで勉強するのが受験生ってもんでしょ。」

「お前、机とか、目利きできるのか!驚いた。」

「驚くの、そこじゃないでしょ。僕の話聞いてるんですか!」

「あ、ああ、ちゃんと聞いてる。……で、なんで、お前が来るんだよ。例えば耳のとれたパンダ型ロボットとか、送り込んでくれりゃあよかったのに。」

「時々、わけの分からないこと言いますね。耳くらい修理すればいいでしょ。ロボットなんだから。」

「そらまあ、そーだな。気がつかなかった。」

「・・・重すぎるんです。ロボットなんて、ゼッタイ無理。大人も。僕の体重が限界なんです、安物のタイムマシンだから。パパはもちろん、ママも、姉ちゃんでもだめでした。」

「お前、姉さんいるのか。」

「いちゃ、変ですか?」

「いや、そんなことはないけど、貧乏っつうから、子供はかつかつ一人かと……」

「大人二人に子供一人だったら、人口減っちゃうじゃないですか。国家の基本ですよ。」

「そうか。国家の基本ねえ。こういうデリケートな問題は、国家が介入しちゃいけないんじゃないかなあ。」

「そんなこと知りません。」

「で、姉さん幾つだ。」

「……」

「いてててっ。痛って言ってるだろ。」

「じゃ、頑張って没頭してください。」

「おい、おーーい。」


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