第367話 テロリスト ~殲滅戦~

 冬也がロシア特殊部隊を半壊させた。

 ただ目的は、単に人質を救出するだけではない。武装した外国の兵士が、不法入国し銃火器を使用している。その証拠を押さえるのは、かなり重要なミッションである。

 その為ペスカは、美咲にドローンの作成を指示した。


 そして美咲は、ペスカの期待に応えた。

 林に頼み、ドローンの設計図から内部構造を調べて貰う。それを参考に、美咲は内部まで忠実に再現した。

 美咲に万物を創造する能力が発現したのは、天性と呼んでも過言では無かろう。

 

 単なる模型を作るのとは違う。基盤の構造が少しでも違えば、正確には機能しない。配線一つ間違えても同様であろう。

 ドローンは精密機械なのだ。リモート操作で飛んで、撮影を行える機械なのだ。素人が簡単に作成する事は出来ない。

 

 美咲がドローンを再現出来たのは、卓越した記憶力と美術的センスであろう。再現する為には脳内で描く事が必要になる。構造を知っているのと、忠実に思い描けるのは、使用する脳が全く違う。

 美咲だから、完全な複製を作り上げる事が出来たのだ。


 そして、美咲の本領はここからである。

 美咲は通常のドローンに、複数の機能を付け足した。リモート操作の距離を、数十キロにまで拡大した。更に映し出した映像は、直ちにパソコンへと取り込まれる。

 何よりも一番優れているのは、隠密性の高さである。

 静音に近いドローンは存在する。モーター音を小さくする事は、技術的に可能なのだ。しかし、全くの無音は有り得ない。更に光学迷彩まで搭載すれば、完全な偵察型のドローンだろう。


 これをそのまま二国へ売り込むだけで、莫大な富を得られる事は間違いあるまい。

 それだけの性能を、ただのドローンに持たせたのだ。美咲がどれだけ本気で有るかがわかるだろう。

 

 美咲の手によって作られた、高機能のドローンは六台。港区と厚木の指定場所に、三台ずつを飛ばした。

 ドローンを操作するのは美咲、映像の編集をするのは空である。

 既に冬也との戦闘は、ドローンによって録画され、リアルタイムで林のパソコンに映像が送られている。


 冬也を遠距離から狙撃した兵士、兵士達が一斉にガスマスクを装着したシーン、グレネードを使用したシーン、ライフルを一斉に射撃したシーン、ナイフを手に潜んでいる兵士、これらの映像は既に録画済みである。

 別段、冬也の活躍を録画する必要は無い。外国の部隊が、日本で銃火器を使用している所が録画出来れば良いのだから。

 

 人質がいる場所を聞き出した冬也は、ハンドサインでドローンに場所を伝える。人質は倉庫の一角に収容されている。恐らく倉庫の持ち主は、三島の息がかかっているのだろう。

 倉庫街に人影がないのも、三島の手配に違いない。


 ドローンが先行し、捕えられている映像を録画する。人質は後ろ手にロープで縛られ、猿ぐつわを嵌められ、一か所に固められている。そして二名の兵士が、人質に向かいライフルを向けている。

 そして、三名の兵士が周囲の監視をおこなっている。その内の一人は、無線機を手に仲間と連絡を取っている様に見えた。

 

 ドローンは無線機を手にした兵士に近づき、会話の内容を聞き出す。幾らロシア語で話そうが、林に翻訳をさせればいいだけだ。

 その内容は、冬也の持つスマートフォン宛に伝えられた。


「冬也さん。潜んでいる兵士は、残り十名。狙撃兵が三名です。倉庫の中には五名の兵士がいます。隊長が倒されて混乱している様子でしたが、残った兵士は任務を優先した模様です。現在、残りの兵士が終結しています。人質を盾にして冬也さんの動きを封じて、背後から一気に襲う作戦の様です」

「ありがとう空ちゃん。助かるぜ」

「冬也さん。万が一は無いと思いますけど、油断しないで下さい」

「あぁ、わかった」


 ドローンにより、証拠映像の録画だけでなく、相手の作戦が筒抜けになる。これ以上のサポートはないだろう。このドローンの価値は、果たして如何ほどになるのか。戦闘機一台よりも、価値を見出す国は存在するだろう。

 局地戦において、これだけの活躍する兵器は何処にもあるまい。


 点在していた兵士が集結するのは、冬也にとって朗報であった。面倒なのは、逃走される事である。数名の兵士がバラバラに逃走すれば、流石に捕えるのは困難を極める。残戦力を集めて狙われる方が、返ってやり易い。


 冬也は集合する時間を与える様に、ゆっくりと歩く。気配を探れば、兵士達が足音を消して急ぐ様子がわかる。だが、油断はしない。

 自分をおびき出す為の罠である。人質に手をかける事はあるまい。しかし相手はプロなのだ。少しでも手段を間違えれば、奴らは容易に命を奪うだろう。

 それを不当行為の証拠とする訳にはいかない。


 冬也の集中力が高まっていく。ロイスマリアで最強と謳われた実力が、発揮され様としている。例え神気を極小にまで封じられても、地球上にはマナが薄くても、やれる事は幾らでも有るのだ。

 残存戦力が集結する頃を見計らって、冬也は再び呪文を唱えた。

 

「ここを我が支配地とする。そして我の言葉は絶対である。我が名は東郷冬也。異世界ロイスマリアで、最強の神と呼ばれた者。例えこの世界の神とて、我を妨げる事は許さない。我を妨げる者は、万死に値すると心得よ」


 冬也は周辺五キロ圏内を、一時的に自分の支配下に置いた。これにより、大地、空気、水などの自然そのものが、冬也の思い通りになる。


「さて、最初の命令だ。大気よ! 鋭い刃となって、武器を切り裂け!」 

  

 自分に合ったバッドを使用する、プロ野球選手ではないのだ。同じ部隊の兵士が、好き勝手に武器を使用する事は早々あるまい。

 ここまでの間で冬也は、倒した相手の武器をしっかりと確認したのだ。イメージを伝える事は出来る。


 突然、倉庫内に突風が吹き荒れる。その直後、ライフルの銃身が切り裂かれる。兵士達は、何が起きたのか見当もつかずに、唖然としている。

 そんな兵士達を余所に、冬也は命令を続けた。


「次の命令だ。奴らに呼吸をさせるな。これは脅しだ、軽くでいい」


 突然、兵士達は息苦しさを覚える。一切、呼吸が出来ないのだ。

 苦しさにもがき、既に使い物にならなくなったライフルを投げ捨てる。そして掠れた声で喚きながら、必死に呼吸をしようと胸を押さえる。

 彼らが解放されたのは、約数十秒後である。それまでの間、彼らの頭には死が過ったであろう。


 ライフルが使い物にならなくても、作戦を中止する理由にはならない。しかし、得体の知れない超常現象が重なれば、恐怖に染まるはずだ。兵士達は、完全にパニックに陥っていた。

 それは、指揮をする者が不在になったのも、影響しているだろう。


 相手が混乱しているなら、後は意識を奪うだけ。脅迫用の映像が必要なら、力を見せつけるのも手だ。


 兵士からすれば、見えない敵と戦っているのと同じである。

 素早く動く冬也の姿を捉えられずに、強烈なダメージだけを受ける。集合した残りの兵士達は、五分とかからずに意識を奪われる。

 屋外の物音に気がつき、飛び出した兵士達は、一人ずつ冬也に殴られ、血を吹き出しながら倒れていった。


 冬也はゆっくりと歩きながら、倒れた兵士からナイフを奪うと、人質の一人に近づいていく。

 ロープをナイフで切ると、猿ぐつわを外す様に指示する。その後、人質にナイフを渡した。

 ナイフを持った者は、仲間達を拘束するロープを切っていった。次々に解放されていく人質は、自らの手で猿ぐつわを外す。

 その光景を見ながら冬也は、彼らに言い放った。


「あんた等は、これから警察に電話しろ。理由を全部話して、保護を求めろ。流石の警察連中も、こんな奴らが倒れてりゃ、嫌だとは言わねぇだろ。念の為、ここからは動かない方が良いだろうな。ここから五百メートル位の所に、コンビニが有る。連絡係の奴が一人そこに駆けこんで、警察へ連絡をする様に頼めばいい」


 そしてドローンは、倒れる兵士を一人一人撮影すると、念の為に周囲を観察し撤退する。冬也も同様に、周囲を警戒する様にしながら現場を離れた。

 

 その後、人質となっていた一人が、冬也の言葉通りにコンビニへ向かう。そして店員へ、警察に連絡する様に依頼する。十五分程して、現場にパトカーが集まる。

 ただ、警察官は驚愕する。武装した複数のロシア人が倒れていれば、当然であろう。路面を知れべれば、多数の銃痕が見つかる。 

 日中にも関わらず、平和な日本でこんな騒ぎが起きたとは考えられない。だが紛れもない事実なのだ。駆け付けた警察官は、無線で応援を呼ぶ。直ぐに現場検証と捜査が始まった。

 

 人質となった特霊局の職員達は、身柄を保護される事になる。

 二国の大統領が三島を始め特霊局の面々を、テロリストとして宣言した。人質となっていた者達も、テロリストの一員であるかは、調べなくてはならないのだ。

 テロリストの一員で無かったとしても、拉致され拘束された事実には変わりない。保護するに充分な理由であろう。

 

 その頃、冬也は自宅へ向かっていた。連絡をすれば、身を案じて力を貸そうとする友人は、冬也にもいる。


「迷惑かけて、わりぃな。近くまででいいからよ」

「馬鹿言え、ちゃんと送ってやる。それにしても、お前はよぉ。学校に来なくなったと思ったら、知らない間に退学になってるし。暫く連絡が無いと思ったら、新宿で乱闘してやがるし。おまけにテロリストなんて。何やってんだよ?」

「あれは、間違いだ。俺がテロを起こすと思うか?」

「思わないけどよ。お前ならどっかの大統領でも、平気でぶっ飛ばしそうな気がするよ」

 

 冬也を乗せた友人の車は、東郷邸へと向かう。港区の騒動が片付いた頃、遼太郎は厚木の指定現場へ到着していた。

 指定されたのは、米軍の厚木基地。敵の本拠地に、遼太郎は招かれたのである。

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