第361話 テロリスト ~世界平和の為に~

「内閣総辞職は、予想外だったな。勿論、君の息がかかった者は、中にはいないのだろう?」

「ええ。残念ながら」

「だが、このまま手をこまねいている訳にもいかんだろう? 我々ロシアは、既に準備が出来ている」

「こっちもだ。組織との仲介役を一人、CIAが確保した。今は、FBIが拘束している」

「そちらの部隊編成は、どうなっている?」

「我が国でも最高峰の連中を送るつもりだ」

「ならば、後は三島を確保すれば、組織を引っ張り出せるな」

「申し訳ない、お二方。こちら側の準備は時間がかかりそうだ」

「気にするな深山。そっちには、組織の幹部がいる。それに、あの東郷が実行部隊として手を貸しているんだ」

「そうだな。東郷一人を相手にするのに、どれだけの犠牲が必要になるか計り知れない。その上、妙な連中まで東郷に力を貸している。君の言う通りに、奴らをテロリストとして宣言する。君の仕事は、それからでも遅くはあるまい」

「閣下。今回は、随分と協力的ですね。私としては随分と助かりますが」

「深山。君との交渉は、既に済んでいる。それを覆す程、愚かではない。それにこれは、未来の為の話し合いだ。私とて、第三次世界大戦は起こしたくないんだよ」

「こちらも同感だ。このまま組織の思い通りに事が運べば、間違いなく第三次世界大戦が起きる。それを止める事が出来るのは、我が国と米国、そして深山。君だけだ」

「頼もしいですね。入国の手配に関しては、ご心配なく。三島にも、手出しはさせません」

「あぁ、わかった。後は部隊を合流させて、詳細の打ち合わせだな」

「我が国の部隊は、そちらの傘下に入ろう。その方が、スムーズであろう」

「君も少し変わったか? 利益を優先するべき所だぞ!」

「さっき君が言っただろう? 今は、その時ではない。我が国も深山との交渉は済んでいる」

「両閣下。今回は、かなり強引になるでしょう。しかし米国側は、予定通りの宣言をお願いします。ロシアは、それに同調して下さい。それに合わせて、私はプロパガンダを行います。きっと日本に激震が走るでしょう。三島を押さえるには、それしかない。場合によっては、自衛隊を動かしましょう。これは、世界を守る為の革命です。必ず、我らの手で成功させましょう!」

「ああ、任せておけ!」

「我が国の底力を見せつけてやる!」

 

 ☆ ☆ ☆


 新しい拠点に移った深山は、直ぐに米国とロシアの大統領と、秘密の会談を行った。

 モニター越しに会談を行うのは、世界でも類を見ないだろう。事前にイゴールが用意したシステムと回線を利用した、オンライン会議である。セキュリティに関しては、言うまでも無い。

 

 三島の行動により、予定を変更せざるを得ない。しかし、このまま相手に主導権を握られれば、事態は悪化の一途を辿るだろう。

 直ちに態勢を整えなければならない。その為の会談であった。


 米露の両大統領は、日本の動きに注視していた。重要な戦略拠点となるであろう日本、その現状を把握するのは当然であろう。その為、会談はスムーズに運んだ。

 歴史上、長らく利害を対立しあう関係であった二つの大国が、一つの目的の下に手を結ぶ。無論それは、深山が秘密裏に進めていた、交渉の成果でもあろう。


 ただ深山の目的は、この二国の助力を得なければ成し得ない。何故なら、敵は強大であるからだ。

 深山にとって、真の敵とは何か。それは、古くから歴史の裏に存在し、操ってきた者達である。

 構成員は謎である。拠点がどこにあるかも謎である。しかし歴然とした事実であるのは、彼らが世界を支配している事である。


 例え、異能力を集めたとして、太刀打ちできるはずの無い相手。どれだけ国力を上げようとも、世界を壊す兵器を手に入れても、その支配構造は覆らない。

 もし、この世界に支配者がいるとすれば、彼らの他には存在し得ない。全ては、彼らの思い通りに事が運ぶ。それが、この世界の絶対なのだ。


 かつて二度起きた世界を巻き込む戦争が、支配者を満足させる為に行われた物だとすれば、どう思うだろうか。気まぐれに標的となったのは、国力を上げつつあった日本だとすれば、どう思うだろうか。


 更には、欧州で絶え間なく続いた戦争が、彼らの利益を充足させるものだとすれば。宗教戦争が、彼らの支配を確立するものだとすれば。欧州諸国に技術を与えた結果、アフリカやアジア諸国が植民地となったとすれば。


 時に戦争屋として、金融家として、歴史の裏で暗躍し支配構造を確立してきた。彼らのせいで、戦争が絶える事はない。

 紛争が至る所で起きる。人種差別により起きる問題は、決して無くならない。経済の格差による軋轢は、これからも拡大していくだろう。

 資本主義の最高峰に位置しつつも、社会主義を助長させる。二十世紀に起きた大国の対立構造は、彼らの目論見通りである。

 

 大国の対立構造で、二十世紀は様々なものが進化した。特に科学技術の進歩は顕著であろう。しかし、それは支配者により齎せたものだとすれば、どう思うであろうか。


 もう、神としか言いようもあるまい。


 一部の人間にそんな事が可能であるのか。それは愚門であろう。

 どんな組織にでも、下部組織はあるものだ。そして下部組織は、世界中に存在する。

 マフィアを取り仕切る闇という側面を持つ下部組織があれば、国家組織の一部、善良な企業、金融機関と表向きは善良な組織も存在している。

 下部組織に従事する人間が、全て事情を把握している訳ではない。しかし幹部達は彼らの命を受けて、国家機関等とコンタクトを取っている。

 

 そして、日本にある下部組織は、異能力者を集めている。そして、一部の異能力者は、真実に気がつかず働かされている。

 ピラミッド型の支配構造の為、組織の末端にまで彼らの意志は届かない。だからこそ、付け入る隙があった。当たり前とも言える、国際社会を形成する事も出来た。


 しかし、全ての異能力者が彼らの手に渡れば、どんな世界が訪れるだろう。

 どんな秘密も筒抜けだったら。裏切り者は、直ぐに命を奪われるとしたら。世界中の人々が洗脳されたとしたら。


 これまで国や一部の資本家を通して、世界を支配して来たのが、直接世界中の人々を統率する事が出来る様になるのだ。

 自由は無くなるだろう。笑う事は出来なくなるだろう。人々は馬車馬の様に働き、時に殺し合うのだ。彼ら支配者の為だけに。

 

 そんな事が許されていいのだろうか。


 だから深山は立ち上がった。

 深山は語った。これが革命であると。しかし、言うなれば聖戦であろう。

 強欲な者達から、世界を取り戻すために。我が物顔で傍若無人に世界を牛耳る者達の支配から脱却し、真の平和を築くために。


 国益を重視するのは、首脳として当然の行為である。しかし、二つの大国が深山に手を貸したのは、その思想に共感したからに他ならない。

 深山の振り上げた手は、もう下ろせない。人々が知らない所で、革命は始まったのだ。


 ☆ ☆ ☆


「あのね。助っ人が欲しいなって思ってるんだけど。駄目ですか?」

「助っ人ね~。冬也君の眷属は、みんな忙しいのよね」

「いや、あの子達じゃなくてもいいんですけど」

「モーリス君達も、かなり忙しくしてるわよ」

「そんなに沢山じゃなくても良いんですよ。暫くの間、そっちを留守にしても問題ない子。いないですか?」

「仕方がないわね、探してみるわ。それで、決着は付きそうなの?」

「思った以上に、キツイです。余計な事をして、世界に影響を与えるのは怖いし」

「冬也君は? そっちの神様と喧嘩してないでしょうね?」

「お兄ちゃんは、自分から喧嘩を売りませんよ。最近は、アルキエルも大人しいし」

「なら良いわ。でも、ペスカちゃんから助っ人が欲しいなんて、珍しいわね」

「なんか、嫌な予感がするんですよ。だから、そこそこ戦える子を送って下さい」

「わかったわ。ペスカちゃんの事だから、差し迫った訳でもないんでしょ?」

「そうですけど、出来るだけ早くして下さいね。忘れるのだけは、無しですからね」

「もう! 信用が無いのかしら!」

「だってフィアーナ様ですから」

「どういう事よ! 私だって、ちゃんと仕事をしてるでしょ!」

「わかってますよ。だから、今回もお願いします」

「ハイハイ。仕方ないわね」 

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