神の戦争と巻き込まれる世界

第53話 神の世界

 ペスカと冬也が二度に渡って送られた世界の名は、ロイマスリアと呼ばれている。


 ロイスマリアは、地球と同程度の大きさを持つ惑星である。そして、一年の長さを地球と同じくする。違いが有るとすれば、二つの衛星を持つ事でろう。そして、魔法の存在とマナと言われる魔法の源が満ちている。更に意思と言語を持つ種族が、人間だけではない事であろう。

 人間以外には、エルフを始めとした亜人、ゴブリンやトロール等の魔獣と呼ばれる獣が存在する。


 また、ロイマスリアには四つの大陸が有る。

 人間が暮らすラフィスフィア大陸。

 エルフやドワーフ等の亜人が暮らすアンドロケイン大陸。

 ドラゴン頂点とした、数多の魔獣が暮らすドラグスメリア大陸。

 何も無い荒野が広がる、タールカール大陸。


 タールカール大陸を除く三つの大陸各地それぞれに、様々な神が存在しその大陸に暮らす者達を見守っている。知恵や芸術の神、戦いの神、愛と美や性の神、海の神、狩猟の神、豊穣の神等。中でも大地に肥沃をもたらす豊穣の神は、ロイマスリアで特に大きな信仰を集めていた。

 そして、神にはそれぞれ司る領域が有る。知恵の神は知恵を、戦の神は戦いを司る。だが時にそれは、互いの領分を侵す事が発生する。


 戦争。


 戦争により台地が荒廃する事は、豊穣神の領域を侵す。戦争により死者が大量発生する事は、生と死を司る神の領域を侵す。


 故に神々は天地開闢の折、大地を四つに別けた。そして、人間、亜人、魔獣を各大陸に分散させた。神が管理し易い世界を作る為に。

 しかし、種族間の抗争だけで無く、同種族の抗争も無くなる事は無かった。何故なら、欲望を与える混沌の神々が存在したから。尽きる事の無い欲望は、貪欲となり妬む。そして怒り、奪う。富を集め傲慢となり、肉欲に溺れ怠惰となる。


 それは、神々の初期構想を破壊した。ロイマスリアは、全ての生きる者達の楽園では無くなり、争いの絶えない世界に変わっていった。その結果、ロイマスリアに混沌をもたらす神々と、平穏を旨とする神々の間で戦争が起きた。

 激しい戦争の末、大陸の一つタールカールは破壊され、何も生み出す事の無い荒野になった。


 神々は等しく、そこに暮らす者達の信仰によって、存在を成り立たせている。大陸の一つを破壊尽くした神々は、戦争を止めて規律を作った。

 それをロイマスリア三法と言い、これを犯した神は、協議によって罰せられる。


 一つ、互いの領域を侵さない。

 二つ、ロイマスリアに暮らす者達に、過度の干渉をしない。

 三つ、神同士の争いを禁ずる。


 そして今、神々の協議が幾万年振りに開催された。各大陸の神々が一堂に集合する協議会。それは、神の住む天空の地で行われる。

 そして協議会のテーマは、邪神ロメリアと女神メイロードの処遇である。ペスカ達にボロボロにやられた邪神ロメリアは、女神メイロード手の中に納まって強制参加させられていた。


 集まった神々を前に、女神フィアーナが発言する。


「混沌の神ロメリアは、ラフィスフィア大陸で人間達に過度の干渉を行い、戦乱を引き起こしました。これは、規律に反する物です。よって神格の剥奪を要求します」


 女神フィアーナの発言に、大きな拍手が鳴り響いた。

 神の力は、信仰の度合いにより変わる。人間の暮らすラフィスフィア大陸、亜人の暮らすアンドロケイン大陸では、大地に肥沃や豊穣を齎す大地母神が大きな力を持つ。

 よって、神の世界の中でも大きな力を持つ大地母神、女神フィアーナに賛同する神は多い。大きな賛同を受けて、女神フィアーナは発言を続けた。


「ロメリアは、事もあろうか異界の地にも、多大な影響を与えました。更にそれを幇助し、異界の地を破壊した嫉妬の神メイロードも同罪。同様に神格の剥奪を要求します」


 女神フィアーナの発言に、再び大きな拍手が鳴り響く。しかし全ての神が、女神フィアーナに賛同をした訳ではない。一部の神々は、眉をひそめて黙している。そんな中、一柱の女神が発言許可を求めて手を挙げた。名はセリュシオネ、死と生を司る女神である。

 

「ロメリアの件で、メイロードが動く事は明白だったはず。その為、アルキエルが見張りにつく筈だった。彼は何をしていたのだ?」

「手違いだ、悪かったな。まあ起きちまった事だ。今更、どうこう言っても仕方ねぇだろ」

「そう言う問題では無いよ。君がちゃんと見張ってれば、異界の地が被害に合う事も無かったのでは?」

 

 面倒くさそうに発言する戦の神アルキエルに対し、死と生の女神セリュシオネは糾弾を続けた。周囲の神々が女神セリュシオネに賛同を示す。しかしそこに、ある男神から横やりが入った。

 

「ロイマスリア三法には、異界の地に関しての取り決めは無い。メイロードとアルキエルに、何の問題が有る? そもそもロメリアも同様だ。ロメリアは、自分の信徒達に神託を下しただけだ。それは、他の神もしている事だろう? それのどこが問題だ! 戦争を起こしたのは人間。自らの手に負えない化け物を作り出したのも人間。ロメリアには一切の罪が無い!」

「グレイラス、君は彼らを庇うのかい? 私は、君の言葉が詭弁としか思えない。確かに結果は、人間が起こした事象だろう。しかし、きっかけを作ったのは、君達ではないのかな? 責任が皆無だとは、思えないけどね」

「それがどうした、セリュシオネ。愚かな人間が、神託を誤認しただけではないのか? それを我らに責任が有ると言うのか?」

「あぁ、そう言っている。問題を起こすのは、いつも混沌勢の君達だからね」

「馬鹿な事を。問題は、脆弱な人間に有る! 違うかセリュシオネ! 貴様ら原初の者達は、我らを混沌勢と呼び問題視する! それは、大きな間違いだ! いいか、我らの司るのは欲望だ! 欲望は、生命活動の根幹を成す!」

「その君達が、人間の行動を助長させているのではないのかい? この世界を、まだ終わりにする訳にはいかないんだ。この星は、寿命を迎えるにはまだ早い。そして神々も、新たな星を作り出すには、力が足りない。まぁ、君達に言っても、理解は出来ないだろうけどね?」

「セリュシオネ。貴様ら原初の者達こそ、今まで当然の様にしてきた事を、忘れているのか? タールカールの惨状を忘れてはいまい! 愚かな人間共を、静粛して来たのは貴様らだ! それを今更どの口で語る!」

「タールカールの惨劇は、大地母神を含む多くの神を犠牲にした。だから、繰り返してはならないのだよ。生物の輪廻は、私が行う。だが、ものには順序が有る。死者だけ増やされても、魂魄の行き場が無い。それでは、停滞するんだよ。わからないか? 生命の停滞は、我々神の存在意義に関わる。だから、行動は慎重にしなければならない。その為の三法だ。それに準ずる事が出来ないなら、処罰を受けて然るべきだ!」


 混沌の神グレイラスと女神セリュシオネは、それぞれの主張をぶつけ、激しく火花を散らす。決して互いに引く事はない。それは、互いの司る使命にも近い、存在意義に関わるからであろう。

 欲望を司るなら、生物に欲望を与えて当然である。少なくとも、欲の無い生物など、生命活動を行う事は不可能だろう。だが、過多になれば諍いになる、そして星の寿命を削っていく。それは、地球でも変わりはあるまい。


 その為に、コントロールが必要である。そう主張するのは、死と生の女神セリュシオネ。対して混沌の神グレイラスは、己の使命に忠実である事を重んじる。そして二柱の主張は、協議会参加者の指示を二つに分けた。

 混沌の神グレイラスが語った原初の者達。これは、ロイスマリア創造時に存在していた神々の事を差す。その神々は、女神セリュシオネに賛同する。対して、ロイスマリア創造後に生まれた神々の中には、混沌の神グレイラスの主張を指示する者も存在した。


 ただし、大地母神を擁する原初の神々に、真っ向から反論する者は、さほど多くはない。原初の神々に、賛同せざるを得ない神も、中には存在するかも知れない。ただ本協議会において、混沌の神グレイラスの意見は、少数の賛同しか得ていない。圧倒的に不利な状況に、追い込まれているのは確かであった。

 そして、その対立に火を注ぐ女神が存在した。

 

「愛しの君を罰する事は許さない。そもそも、人間如きに肩入れしたフィアーナへの罰は無いのかしら?」

「メイロード。君はいけしゃあしゃあと、良く言えたものだね。フィアーナは、ロメリアの行動を諫めようとしただけで、三法を犯していない」

「それが、そもそもの間違いだ。我等は使命に基づいた行動を取ったのみ、それを人間に加担したフィアーナの罪は重い!」

「グレイラスの言う通りよ! フィアーナこそ罪に問われるべきであって、私達は被害者だわ!」


 女神メイロードと男神グレイラスは、女神フィアーナを糾弾し始め、議場は騒めき立つ。女神セリュシオネと女神メイロードは互いに睨み合い、一触即発の雰囲気を醸し出していた。

 騒めく議場の中、女神フィアーナが口を開く。


「静かになさい。対立した時は、古の方法で採決を取ります。私の要求に異議を唱える者は、立ち上がりなさい」


 女神フィアーナの言葉で、議場は静まり返る。男神グレイラスに拍手を送っていた神も、少なからず存在していた。しかし、実際に立ち上がったのは、女神メイロードと男神グレイラスのみだった。

 女神フィアーナは、周囲を見渡した後、大きな声で宣言をした。


「採決の結果、混沌の神ロメリアと嫉妬の神メイロード、そして同じく混沌の神グレイラスは、神格を剥奪します!」

「納得いく訳ないでしょ、フィアーナ! アンタ殺すわよ!」


 女神メイロードの射殺さんとする視線は、女神フィアーナだけに向けられたものではない。多少なりとも、賛同する姿勢を見せながら、いざとなった時に裏切る一部の神々にも向けられていた。


「そうだ。罰せられるのは、お前だフィアーナ! 我等は、貴様とラフィスフィア大陸を滅ぼし尽くす。それが我らの義務であり使命だ! それだけは、例え大地母神と言えども、覆させん!」

「ハハッ、面白れぇ事になりやがった! 久しぶりに神の戦争か? なら俺も参加してやるぜぇ!」

 

 男神グレイラスは、女神メイロードに賛同し立ち上がる。更に、戦いの神アルキエルが追い打ちをかけた。


「待ちなさい!」


 女神フィアーナの言葉も空しく、女神メイロード、男神グレイラス、男神アルキエルは、天空の地から姿を消した。姿を消した三柱の神の行為に、女神フィアーナは頭を抱えた。

 溜息をつく女神フィアーナに女神セリュシオネが話しかける。

 

「まさか、貴女が取り逃がすとは、フィアーナ」

「仕方ないでしょ。奴らのせいで、かなり神気を使い果たしてるんだもの」

「どうするのです? 奴らはラフィスフィア大陸に仕掛けて来ますよ」

「困ったわね。力を貸してくれる?」

「仕方ないですね。今回は特別に力を貸しましょう」


 そして女神フィアーナは、議場に響き渡る声で叫んだ。


「混沌の神ロメリア、嫉妬の神メイロード、混沌の神グレイラス、戦の神アルキエルの背信が確定しました。これより、四柱の神を捕縛し神格を剥奪します。皆、力を貸して下さい」


 女神フィアーナの宣言で、議場は歓声と拍手が鳴り響く。ラフィスフィア大陸を巻き込んだ、神々の戦いが始まろうとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る