第15話 初喧嘩
『...』
2年生になって6月に入ったある日の学校の休み時間。今から楽しもうと、ね?思ってたらもう楽しめない空気になってる。
「あの...澪」
「...」
返事が無い、ただのしかばねのようだ。いや、起きてるんだよ。なんなら今スマホで猫の動画見てるもん。猫ちゃん可愛いけど澪の方が可愛い。
「ま、まだ怒ってるのか?」
「うん...」
こんなことになったのは昨日の出来事が発端だ。
昨日の夜。俺の家にて。
「ちょっといいですかね」
『へーい』
「冷蔵庫にあったプリン食べた人手上げて」
...。
「何の話だ」
「私は知らないよ?」
「私もです」
「わたしもーーー」
澪以外のいつメンは知らないのか。じゃあ犯人は...あの猫野郎か。
「ただいまー」
下に降りたら玄関から猫野郎が帰ってきた。
「お帰り澪。聞きたいんだけど冷蔵庫にあったプリン食べた?」
「いや?」
「ほんとに?」
「し、知らんよ」
「光達も知らないって言ってるけど?」
「知らんやんそんなん」
「プリンの色は?」
「白...あっ」
犯人確保。というわけで。
「コイツが犯人でした」
『えええっ』
容疑者を部屋に打ち込んだ。
「なんでこんなことしたんだ?」
「間違えて食べてん...」
「間違えた?なにとですか?」
善子がそう言うと澪がぷくーっとほっぺを膨らました。
「ちゃうやんか!!ウチが買ったプリンや思て食べてもうてん!!ほしたら食べたあとに「あ、待ってウチ自分で買ったプリン昨日食べた...ってことはこのプリンだれの!?」ってなってん!!」
...。
『つ、つまり...』
「ウチは悪ない!!!」
はい、えー解説しますと...実は澪、女の子の日だ。澪の女の子の日はイライラしたりするんですがそれと同時にわがままになる。結構しんどいっちゃしんどい。でも仕方ない、人間そ~言うのもあるし澪からもそう言うのがあるからごめんなぁって言われてるから別にいい。この後は澪が「ウチは悪ない!!」って言い続けて結果「もう知らん!!」といって終電で自分の家に帰ってしまった。付き合ってから初めての喧嘩がこれってなんかなぁ...。
それで今じゃこの有様。めちゃくちゃ無視。挨拶もしてくれない。
「まあ正直気にする必要もないと思うけどなぁ...」
「別に遼悪い訳でもないしさ」
「澪ちょっとだけわがままやから今回それが酷なったんやろな」
「数日経ったらなんとかなりそうですよね」
どうなのかねぇ...。まぁ、時間が解決してくれるのもありそうだよなぁ。
「てかもうちょいしたら球技大会だっけ?」
「そーですよー!!」
「ちょっと今日の夜はトレーニングでもしておくか...」
「わたしは寝るわ」
「なーに言ってるんだアタシ達全員で特訓だろ??な??」
「は、はい、や、やややります」
忘れてた...。3日後には年に2回ある学校の球技大会だ。もちろん俺も出る。バドミントンに。しかも俺と澪に関しては普通にバドミントンするのではない。なんと俺vs澪の特別枠の試合に出るのだ。全国経験者同士の対決になるってことだ。ふう...俺もトレーニングに参加するか。隣の澪は寝てる。絶対勝ってやる。
...そして、次の次の次の日。
「球技大会、開催します!!」
体育館で球技大会が開かれた。皆んな楽しそうな顔をしているが澪はムスッとしている。俺と澪はバドミントンのシングルスに出る。なんと全部の試合が終わってから開かれる特別枠の試合だ。だから余計に緊張する。俺達の番が来るまで一人で練習してる。澪も少し離れたところで練習してる。
「えーバドミントン、シングルス個人、2組、高千穂遼さん、2組、三国ヶ丘澪さん。Aコートでお願いします」
指定されたコートに行くと既に澪が居た。俺と同じく髪もセットしてる。...なんか、いつもの空気と違う。しかも俺と澪だけ試合の時に着るユニフォームを着ている。澪は黒の生地に青の筆で新快速と書かれたユニフォームで俺は赤の生地に白色の中学のバドミントン部員の手型がいっぱいついているユニフォーム。もうお分かりだろう、お互い本気だ。正直中学の大会以上にメラメラしてる。それに澪のラケットは濃い紫のフレームに銀のグリップに白のガットのラケットだ。この色はあの高級感漂う"COMFORT SALOON"(cv.愛)の名称である京阪新3000系をイメージしたと言う鉄オタの精神の塊なのだ。
コートの場所を決めてから澪とのラリー。流石...一切無駄のない動き。とはいえ俺もコンディションは最高だ。楽しみになってきた。とりあえず一通り打ち終わった。審判が選手紹介に入った。段々観客が増えてきた。
「ラブオールプレイ!!」
審判の掛け声とともに握手する俺と澪。普通目を合わすんだけど一切合わしてくれずでコートに戻る澪。とうとう試合が始まった。先行は俺だ。周りが「頑張れー!!」とか声援が飛び交う中兵士のようにラケットを横に構える澪。ポンッとショートサーブを打った。澪が素早く高く返して俺はジャンプカットでゆるく返した。澪は動くのが遅れて返せずに取りこぼした。
『おおお!!!』
周りからは歓声が出る。澪の顔は全く変わってない。そりゃそうだ...一点目なんだから。
そして俺のサーブ。ショートサーブで押し出して澪がネットで返して俺が高く上げた。澪は後ろに下がって左手を上げながら高くジャンプして大きく身体を反らした。
『パァアアアン!!!!!』
エグい音と速さと角度のスマッシュが俺のコートに突き刺さった。
『おおおおおお!!!』
さらに歓声が湧く。そう、これが澪の「なにわの新快速」と呼ばれる理由。スマッシュが男子顔負け、いや、その上を超えてる速度だ。そりゃ全国行ける訳ですわ。ちなみに球速機の記録は344km/h、恐ろしい...。
その後は1ゲーム目はとにかく攻めまくって21-16で俺が勝ったが2ゲーム目は澪に弱点を徹底的に抑えられて13-21で澪に負けた。
お互い汗が滴る中短い時間の休憩を終えて迎える第3ゲーム。恐らくこうなるだろうと予想していた3ゲーム目が始まった。ラケットを構える俺。そしてショート...と見せかけてのロングを打って来やがった。澪はこのフェイントがめちゃくちゃ上手いのだ。なら俺も...という事で背を澪の方に向けてバックハンドを空振り〜...。
『あっ...』
と見せかけての下からのカットを決めた。
『おぉ!!』
そう、俺は伊勢のマジシャンと呼ばれていた。そのマジシャンというのは多彩なフェイントができるからだ。周りからの歓声がだんだん大きくなる。何食わぬ顔でラケットを横に構える澪。ぽんっとショートサーブを打った俺。澪が高く上げた。俺は後ろに下がってジャンピングスマッシュをコーナーに打った。澪は身体を倒してスライディングしながらレシーブしてきて俺は高く返すと澪はバックハンドカットで返して俺はドライブで返した。すると澪がドライブを空振りした。え?って思ったら背中の方に素早くラケットを回してネットショットを打ち込んで来やがった。今のは決められたら誰も返せない。
そして13-16。リードされてる。
『澪ー!!!がんばれ!』
『遼!!まだ行けるぞ!!』
歓声が大きくなってくる。俺は今少し焦ってる。澪が俺はサーブを構えて澪は兵士のように構える。ぽんっとショートサーブを打った。澪はネットで返して俺は高く上げた。あ、やべ。中途半端な高さで上げてしまった。澪は高くジャンプしてスマッシュを打って俺はなんとか返した。しかしまたスマッシュを打ってきて返して打って返してが4回繰り返されて最後の球をスライディングしながら高く返した。すると澪は落ち着きながらゆっくりシャトルの落下地点に下がった。そして踏ん張って左手を上げながら高くジャンプした。
『パァアアアアアン!!!!!』
うわっ!?えっぐいスマッシュが俺の顔の横を通過した。全く見えなかった。しかし驚くのはそれだけじゃなかった。
「折れた!?」
周りがざわついてる。なんと澪のラケットの細い部分が折れた。さっきの一振りで折れたのだ。澪も割とびっくりしてる。ちなみにさっきのスマッシュの初速は459km/h。こわい。
そしてラケットを変えて澪のサーブ。ちょっとまずいな...。澪は今ゾーンに入ってる。こうなったら俺も最後の手を使うしかない。俺の方が強いんだぞって見せつけないと。ぽんっとショートサーブを打ってきて俺は高く返した。澪はまたジャンピングスマッシュを打ってきたがそれをスライディングでレシーブして急いで立ち上がったと同時に高く返してきやがった。やばいと思って急いでシャトル目掛けて走って股の下にシャトルを落としてラケットを振り下ろして返した。すると澪も急いでシャトル目掛けて走ってなんとか返して来たがめちゃくちゃいい角度で飛んできたシャトルをバックハンドスマッシュで澪のコートにぶっ刺した。よし、いいぞ。
そして次のゲームもフェイントを決めたりとどんどん点数を重ねて行って俺が19-17でリードした。
そして......22-21。俺が1点リードしてる。これで俺が1点取れば勝ち。大勢の人が見守る中澪がロングサーブを打った。俺は急いで後ろに下がってカットで返すと澪はネットで返して俺はめちゃくちゃ高くあげた。すると澪がゆっくりと位置を合わせて大きく身体を反らしながらジャンプしてラケットを振り下ろした。俺はスライディングしながらエグい音と角度で打たれてきたスマッシュをなんとか返した。澪も急いでスライディングしながらヘアピンで返して俺はもう一回ヘアピンで返すと澪はめちゃくちゃ高く返してきた。よし、行ける。シャトルの落ちてくる位置に立って左手を高く上げながら背中をそらしてジャンプした。絶対に決めるう!!澪!!さらばだ!!勢いよくラケットを振り下ろした。
『バチィイイイン!!!!!!!』
物凄い音が鳴った。澪は一切動けず、シャトルは澪のコートに突き刺さった。
『うおおおおおお!!!!!』
よっしゃあああ!!!!勝った。俺は疲れてコートに寝転んだ。まじで疲れた。周りはお祭り騒ぎ。握手しようと起き上がるとあれ、澪がいない。おいおい握手はしようぜ?
「澪は?」
「先に教室戻っていったぞ?」
「そっか...」
まあ気持ちはわかる。今はそっとしておくか。
そして学校の掃除を終えていつメンとは少し遅れて家に帰った。部屋に入ると澪が制服姿のまま寝てる。久々に澪が俺の家にいる。とりあえず1階で冷えてるお茶を飲みに行こうとしたらなんかメモ用紙が貼られたビニール袋がある。よく見たらそのメモ用紙に「遼へ。」って可愛い文字が書かれてて中には例のプリンが2個入ってる。...おお、そう来たか。後で2人で食べよっと。その方がいい気がする。部屋に戻ると澪が起きてた。
「プリンありがと」
「えっ、お、おん」
びっくりしてる。さっきあんな高くジャンプしてエグいスマッシュ打ってたとは思えないくらい元の澪に戻ってる。
「てかお風呂入った?」
「いや、まだ...」
「一緒に入る?」
「...うん♡」
仲直りできた。この後夜も濃い時間が過ごせた。楽しかった。今回で分かったのが喧嘩してもなんとかなるってことと澪はバドミントンめちゃくちゃ強いってことかな。
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