色のない世界(掌編)
†
色のない世界がありました。
どこを見ても、いくら歩いても
代わり映えのない空間、
それはあまりに空虚で寂しく
またきれいすぎました。
そこに閉じ込められていた小さな命は
眩しすぎる世界に苦しみを覚え、
視界を閉ざしてしまいました。
しかし、なおも突き刺さる光に
その命はとうとう狂ってしまいました。
眩しい、眩しい、と
泣き叫ぶそれを哀れに思った神は
視界を閉ざした時だけ
世界を暗くすることにしました。
眩しさから解放されたそれは
すっかり安堵したようでした。
この時初めて世界に
《白》と《黒》が生まれたのです。
†
しかし、それはまた狂ってしまいました。
世界は眩しい、
だけど、暗いのは寂しい、
と言うのです。
困った神は頭を捻りました。
今世界には《白》と《黒》しかありません。
眩しいか
暗いか
それしかなかったのです。
その時、神はハッとしました。
この二つを区別するモノ
それが、《光》であると。
《光》の強弱を調整すると
濃淡が生まれました。
《光》が重なると
眩しさが和らぎました。
《光》の照らす位置を変えると、
空間に《影》が生まれました。
そうしているうちに
いつしか、
その小さな命は
視界を閉ざすことをやめたのでした。
世界は《色》に満たされました。
小さな命は
極彩色の世界に溶け込んだそれは
少しずつ《色》に染まり
それが世界の全てと思い込んでしまったのです。
《色》がない世界にいたから
《色》のある世界に
幸せを感じられるというのに……。
†
そんなある日、
《光》を操ることに疲れた神は
とうとうたおれてしまいました。
世界から《色》が消え、
目を開けば眩しく
目を閉ざせば暗い
そんな世界に戻ってしまいました。
小さな命はまた狂ってしまいます。
しかし、その感情は哀しみではなく
怒りでした。
眩しい、暗い、寂しい、
あらゆる嘆きが生んだ様々な《色》
楽しかった世も慣れてしまえば、
それが在ることを普通に感じ
有り難みも何も感じなくなってしまうのです。
その証拠に、それはこのように叫び、
怒り狂っておりました。
《色》を返せ!!!!
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