色のない世界(掌編)


色のない世界がありました。


どこを見ても、いくら歩いても

代わり映えのない空間、

それはあまりに空虚で寂しく

またきれいすぎました。


そこに閉じ込められていた小さな命は

眩しすぎる世界に苦しみを覚え、

視界を閉ざしてしまいました。


しかし、なおも突き刺さる光に

その命はとうとう狂ってしまいました。


眩しい、眩しい、と

泣き叫ぶそれを哀れに思った神は

視界を閉ざした時だけ

世界を暗くすることにしました。


眩しさから解放されたそれは

すっかり安堵したようでした。


この時初めて世界に

《白》と《黒》が生まれたのです。




しかし、それはまた狂ってしまいました。


世界は眩しい、

だけど、暗いのは寂しい、

と言うのです。


困った神は頭を捻りました。

今世界には《白》と《黒》しかありません。


眩しいか

暗いか

それしかなかったのです。


その時、神はハッとしました。

この二つを区別するモノ

それが、《光》であると。


《光》の強弱を調整すると

濃淡が生まれました。


《光》が重なると

眩しさが和らぎました。


《光》の照らす位置を変えると、

空間に《影》が生まれました。


そうしているうちに

いつしか、

その小さな命は

視界を閉ざすことをやめたのでした。


世界は《色》に満たされました。


小さな命は

最早のない世界には戻れなくなっていました。


極彩色の世界に溶け込んだそれは

少しずつ《色》に染まり

それが世界の全てと思い込んでしまったのです。


《色》がない世界にいたから

《色》のある世界に

幸せを感じられるというのに……。





そんなある日、

《光》を操ることに疲れた神は

とうとうたおれてしまいました。


世界から《色》が消え、

目を開けば眩しく

目を閉ざせば暗い

そんな世界に戻ってしまいました。


小さな命はまた狂ってしまいます。

しかし、その感情は哀しみではなく

怒りでした。


眩しい、暗い、寂しい、

あらゆる嘆きが生んだ様々な《色》


楽しかった世も慣れてしまえば、

それが在ることを普通に感じ

有り難みも何も感じなくなってしまうのです。


その証拠に、それはこのように叫び、

怒り狂っておりました。


《色》を返せ!!!!




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