第5話 他には何もいらない


「大野先輩」との一件以来、私は学んだ。

私に近づいてくる人のほとんどは優花と知り合いになることが目的だということに。

男子だけじゃない、女子だって多い。

みんな本当は優花と仲良くなりたいんだ。

でも高嶺の花の優花には簡単には近づけないから、まずは話しやすい私に近づいて優花を紹介してもらいたい。

思い返せば私の周りにはそんな友達ばかりだった。

少し仲良くなったと思ったら


「優花ちゃんには彼氏はいるの?」

「優花ちゃんってどの辺に住んでるの?」

「優花ちゃんの好きな歌手知ってる?」


話の中心は全て優花になる。

きっとみんなには私みたいな地味な子が何故優花の親友なのか不思議に思えるのだろう。


大野先輩とのことがあってから、私は簡単には舞い上がらなくなった、

近づいてくる人には男女関係なく心を開かないようにした。

利用されている気がして自分の立場に嫌気がさしたこともあったが、結局はみんな優しくしてくれるし学校での扱いも悪くなかった。

だから都合の悪いことは深く考えないようにして、浅く軽く友達との交流を広げた。


私にどれだけ媚を売っても優花との距離がさほど変わらないと気づいた人の中には、がっかりして離れて行く人もいた。

結局はどれもうわべだけの仲だけど、私はあまり気にならなかった。


私には優花がいたから。

それにどんなに優花に近づこうとする人が押し寄せても、優花は私以外の人とはそこまで仲良くならなかった。

それがどこか嬉しくて、誇らしくて……。


こんなに優しくて可愛くて、自慢の親友がいるならば他には何もいらないと本気で思えていた毎日だった。


二人の隙間に誰一人として分入ることなく、私達は中学校を卒業した。

優花は私よりずっと頭が良かったが、私に合わせてレベルを下げて受験してくれた。


私達は高校生になった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る