第44話

「それって、本気で言ってる?それとも、冗談?」

「本気で言っている」

今、俺は、八兎に俺の推薦人になってくれと言ったところである。

「なんで、いきなり、手のひらを返したように、そんなことを言ってくるわけ?」

八兎の声に明らかに、棘があった。

俺は、知っている。八兎という女の子が、常に上へ上へとのしあがって行こうとしていることを。

だから、中途半端なことを言われれば怒るのだってことぐらいは。

「ごめん、そうだよな。いきなり手のひらを返してきたら、俺だって怒れると思う。それに、生徒会に興味がないって言っていた奴が、生徒会選挙に出たいから自分の推薦人をやってくれと言われたら、なんの冗談だと思う。でも、俺の話を聞いてくれないかな?」

八兎が聞いてくれないと言うのなら、仕方がない。無理やり強制を強いるのは、よくないと思う。もし、八兎が、話を聞かないと言うならば、他の誰かにお願いするしかなくなる。

「わかった。話だけは、聞いてあげる。でも、それを私が、どう思っていいんだよね?」

「勿論。それは、八兎が思うことならなんでも」

「そう。じゃあ、話してみて」

「分かった」

そして、私は、俺が生徒会選挙に出る理由を話し始めるのだった。

**

「へぇー、佑樹の妹と、華撫が出るんだ。で、佑樹は、華撫を生徒会長にして、妹が生徒会に入ることをどうにかして止めたいと。そんな感じだよね?」

「そうだ」

「なら、佑樹が出る必要はないじゃないかな?ほら、私も華撫に勝ちたいわけだからさ」

そう言われることは、予想していた。

だって、さっき俺が八兎に言ったことは、特に俺と八兎が変わる理由なんてなかったのだから。

「ああ、そうだと思う………でも、なんか真琴ちゃんに負ける気がして嫌なんだよな」

自分から出てきたその言葉に俺は、驚くのだった。

…………はは、生徒会興味ないって言ってるのにさ、真琴ちゃんに負けたくないって。矛盾してるよな。

「そう。真琴ちゃん、つまりは、佑樹の妹に負けたくないと。…………じゃあ、もし、これは仮の話だけどさ、私が佑樹の推薦人になったら、貴方は、どんな公約を立てるの?」

「…………生徒会の廃止……」

「はぁぁぁ!!」

八兎が叫んだ。

「佑樹、あなたは、なにを言っているの?生徒会の廃止?それって、あなたの情に流されただけじゃないの?」

「情なんかじゃないさ。俺は、唯単純に生徒会という存在は、学校というところに存在するべきではないと思ったから。そう言っただけだ」

これは、その場しのぎの嘘なんかじゃなくて、俺が本心から思っていることだった。

「そう。………参考までに、何故生徒会が必要ないか聞かせてくれる?」

「ああ。生徒会は、目安箱だとか、設置するけれど、でもあれってさ、唯設置しているだけだろ。俺も、生徒会の副会長としてさ、やってみてなおさら、実感したんだけどさ。目安箱に書いてくれた要望を、見るだけで、実際になにかその要望に近づけようなんて全くそんなそぶりが見えなかった。それに、目安箱の要望が通る条件として全生徒の過半数など言ったものがあるだろ。それって、始めから、無理ゲーで、確実にそんなことは、起こらないことなんだと思うんだ───

それから、俺は、八兎に話した。

───ってわけさ」

「佑樹が、生徒会をどう思っているかは、分かったし。佑樹の言い分も確かにと思うところもあった。だから、私にじゃんけんに勝ったら、やってあげるよ。佑樹の推薦人」

八兎は、仕方がないなーと言いただげな顔してそう言った。

………はは、じゃんけんで決めるのか。そりゃ面白いは。

「じゃあ、いくよ。じゃんけん………ぽ!!」

そして、俺が出したのは、グーで八兎が出したのは、チョキだった。

俺が勝ったのだ。そして、俺が生徒会選挙に出ると決まった瞬間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る