ブリリアント-ダンシング

 ヒーローよ、裏庭に大集合せよ。

 全校放送でパワーワードをぶっ放した比奈ひなお嬢様は、満足げに頷かれた。

「よし、これで大丈夫」

 なにがなんでどうして大丈夫?

 隣で彩乃さんもあわあわしている。

「さぁ、わたしたちも早く裏庭へ行くわよ!」

 比奈がまたわたしと彩乃あやのさんの腕を掴む。とはいえ、本日すでに三度目だ。そうくることは読めていた。

 とっさに隣の放送委員、まったく見知らぬその男子の腕を身代わりに差し出す。まんまと比奈は放送委員を掴んだ。そのまま彩乃さんと男子を引きずって走り出す。

 誰だか知らないけど、ごめん。しばらく耐えて……。

「さてと。放送室占拠こんなことすればたぶん……」

「コラーっ、大海崎おおみさき!」

 20HR、つまり比奈と彩乃さんの担任が放送室に怒鳴り込んできた。放送を聞いて駆けつけたのだろう。急いで声をかける。

「先生っ」

「え、あれ、大海崎は!?」

「説明するのでちょっと聞いてください。わたしは21HRの 風巻かざまき 椿つばき です」

「お、おう、風巻か。一体どういうことだ? 大海崎はどこへ行った?」

「ちゃんと順を追ってお話します。先生のクラスの 茅場ちば 彩乃あやの さんが予報の異能ストーン持ちなことはご存じですよね?」

「茅場なら、確かに天気予報ができるが。それが?」

 さすが担任。受け持ち生徒の能力を把握している。

「その茅場さんが予報したんです、『恐怖の大魔王が降ってくる』って。それで比奈はヒーローを集めて大魔王を倒しに行きました」

 我ながらよくこんな説明を真顔でしているものだ。聞いている先生は目を白黒させた。

「な、なんだ、その恐怖の大魔王? なにを言ってる? というか、なんだか知らないが、勝手に放送を使っちゃいかん!」

「ごもっともです。それについては本当に申し訳ないです。ですが、叱るのは後にしてやって、恐怖の大魔王の対策をしていただけないでしょうか?」

 先生の顔がちょっと引きつる。

「……大魔王って、それ本気で言ってるのか?」

「残念ながら本気です。本当にんです」

「しかしなぁ、風巻」

 なかなか信じてもらえない。仕方ないか。

「もちろん、信じるも信じないも先生の自由ですが。でも、わたしは知った事実を先生にお伝えしました。もしこれで万が一なにか起きて、誰かが怪我でもしたら、どうでしょうね? 教師の中で唯一事前に情報を得ていながら、対応していなかったとなると、まずいんじゃないでしょうか?」

 責任問題、という言葉が浮かんだのだろう。先生の顔から血の気が引く。

「なので、お手数ですが、他の先生方にもお伝えいただいて、対応を協議していただけないでしょうか?」

 その責任を他の先生に押しつけて決断を委ねてしまえ、とそそのかす。先生はあっさりと提案を呑み込んだ。

「よし分かった。俺は教頭と学年主任に報告する」

 慌てて職員室へ戻っていった。とりあえずはこれでいいだろう。あとは教頭たちが一笑に付さず、さらなる責任転嫁のために警察か行政にでも通報してくれれば僥倖ぎょうこうだ。

 大魔王相手に教師や警察が役に立つのか知らないけど。

 そんなことより、暴走中の比奈お嬢様を止めるため急いで追いかけなければ。比奈は馬鹿正直に表玄関から回って裏庭へ向かっていることだろう。

 迷わず廊下の窓を開けて跨ぐ。どうせ二階だ。ひさし雨樋あまどいを使えば簡単に降りられる。

 思い描いたとおり着地し、最短距離で裏庭を目指す。うまくすれば先回りできるはずだ。

 たどり着いた裏庭には、やはりまだ比奈たちは来ていなかったが。

「――!?」

 黒山の人だかりができちゃっていたのである。



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