ウェザー-フォーキャスト
目をキラッキラ輝かせながら、
「恐怖の大魔王が降ってくるんだって!」
すみません、意味が分かりません。
恐怖の大魔王って一体なに? なにかの冗談か?
しかし問い返すまもなく、比奈がぐいぐい引っ張り上げてくる。仕方がないから段差で転ばないよう一緒に駆け上がるしかない。
そして比奈は、屋上へつながる鉄扉をばーんと派手に開けた。途端に目を刺すような陽光が差し込む。とっさに外や空を確認してしまったけれど、とりあえず恐怖の大魔王らしきものは視界になく、人気のない屋上と青空がまぶしく広がっている。
そりゃそうだ。季節は初夏。爽やかというよりすでに暑い。教室やラウンジなら空調が効いているのだから、わざわざ熱気を浴びに屋上へ来るような奇特な人もない。
比奈は迷うことなく屋上の北側へ回る。そこに一人の女子生徒がぽつりとお弁当を広げていた。
「ごっめーん、彩乃ちゃん。お待たせ!」
「あ、比奈さん」
どうやら比奈はこの女子のところへ連れてきたかったらしい。つややかな黒髪が印象的な、かつ大人しそうな少女だ。しかし、なにより目を引くのは、その額に埋まった琥珀色の宝石だった。彼女も“
「紹介するねっ。この子はクラスメートの
なぜ紹介されているのか分からないけれども、彩乃さんもわたしもお互いにどうもと頭を下げる。
「……で、つまりどういうこと? さっき言ってた、……恐怖のなんちゃらっていうのが、関係してるってこと?」
彩乃さんがびくりと肩をすくめる。比奈はうきうきと目を輝かせる。だから比奈の反応はおかしいだろう。恐怖のなんちゃらがなんだかは知らないが。
「そう! そうなのよ! あのね、この彩乃ちゃんは“予報“の
例えば、大海崎比奈。彼女ら大海崎の血筋のものの多くは、真っ赤な鉱石を身に宿す。比奈ならば左手の甲がルビーのような石である。そしてその石に刻まれた言霊は「浄化」。真っ赤な炎のような力ですべてを清める。
その力を以てして、大海崎は名家としての地位を築いた。
とはいえ、そんな風に能力を仕事として成功させている
ほとんどの能力が、その実たいして使い勝手のいいものではない。言うなれば、ちょっと得意なことがある、という程度。
そこで気になるのは、この彩乃さんの“予報”という
「あ、あ、あ。違うんです。予報っていっても、わたしができるのは天気予報で」
そうそう、こんな感じ。異能ったって、ままならないのである。
「しかも自分のいるあたりじゃないと、精度もあんまり……」
しょんぼりと彩乃さんが言う。いやでも別に期待とかしてなかったし、そんなに申し訳なさそうにされるとこっちがいたたまれない。
「ねぇ、椿! でも彩乃ちゃんの予報ってすごいの! 今日明日だったら天気とかバッチリ当てられるの。ほんと今まで外れたことがないんだから! で、今日のこのあとの天気を予報してもらったら!」
比奈に促され、彩乃さんの顔色が真っ青になる。やっとなんだか状況が見えてきた。これは、つまり。
彩乃さんは、おずおずと口を開いた。
「……今日は、晴れますが、午後には一時……恐怖の大魔王が、降るでしょう……」
……うん。大魔王って、天気くくりなの?
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