Adventure in school.

たかぱし かげる

ランチタイム-ブレイカー

 なんの変哲もない月曜の午前の授業が終わった昼休み。クラスの友達と机を合わせ、お弁当を広げているときだった。

椿つばきーっ」

 友人の 大海崎おおみさき 比奈ひな が、わたしの名前を叫びながら飛び込んでくる。

 彼女のクラスは教室棟の反対側で、たいそう遠い。滅多にこっちへ来ることなどなかったから、急の来訪、しかも騒がしいそれにちょっと驚く。

 目を丸くして見ていたら、さらに名前を連呼しながら比奈はずかずか近づいてきた。

 ランチを共にしようとしていた友達たちも驚いて比奈を見ている。それもそうだろう、比奈は学年の有名人だ。大海崎のお嬢様で美少女でしかも異能ストーン持ち。とかく目立つ。

「ちょっと椿、なんで返事しないのよっ」

 比奈が机の隣に仁王立ち。頬が上気し、目をらんらんと輝かせ、くるくる巻いた金髪がふわふわ揺れている。

「うん、ごめん。最近学校で話すことなかったから、ちょっと驚いてた」

「なにに驚くのよー!」

 比奈はわたしの机にバンッと手をついた。

 わたくし風巻かざまき 椿つばき は非常に目立たない地味な女子なのです、お嬢。

 友達たちどころかクラスメートみんなが「どうして風巻が大海崎様と親しいんだ!?」という疑問の眼差しを投げかけてくる。

「……わたしの家、大海崎家の使用人だから。住み込みの」

 ざっくばらんに間違っちゃいないという程度の説明をすると、見事に皆が納得した。まぁ、地味な小娘がこのお嬢様の横にいたらどう見たって召使いだよな、納得するよな。

 とはいえ、わたし自身は比奈の召使いとかではない。同じ学校に通っているのだって偶々たまたまだし、去年も今年もクラスが離れていたから学校ではさほど接点のない同級生。家に帰ると、一緒に育った幼なじみ。

「あー、で? どうしたの、比奈? 辞書でも忘れた?」

「ちっがーう! 辞書なんか隣のクラスで借りるわよ! じゃなくて大変なんだってば!」

 お嬢は大変興奮していらっしゃるらしい。大きな声を張り上げる。残念ながら、大海崎比奈お嬢様にお上品さはなかった。かわいいからいいけど。

 そして比奈は、わたしの腕をむんずと掴み、ぐいぐい引っ張り始める。

「とーにーかーく! ここじゃ話せないの! 椿、来ーてー!」

 お弁当を食べるところだったんだけれども。それも急いで食べて、五時限目の歴史の小テストに備えたいところなんだけれども。

 そんなことは、このお嬢様には通じまい。

 お弁当箱のフタだけ閉めて、しょうがなく席を立つ。そして比奈に引っ張られるまま廊下を走り出す。

 連れられて行った人気ひとけのない階段は屋上へ向かうもので、比奈はどんどん上へあがっていく。

「ちょっと、一体なんなの? 屋上になにかあるの?」

 なおも引っ張りながら、比奈は振り返って満面の笑みを見せた。

「大変なの、椿! あのね、恐怖の大魔王が降ってくるんだって!」

 ……お嬢。それは、満面の笑みで言うことか?


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