水森飛鳥と落ちし絶望、そして射し込む一筋の光Ⅷ(可能性が確信に変わるとき)
「ねぇ、
こちらにも『我慢の限界』というものがあるので、それが到達ギリギリになる一歩手前で(笑顔で)話し掛けてみたのだが――
「……あ、ああ、そうだな」
何故、みんなして顔を引きつらせているんだろうか。
☆★☆
「……」
「……」
心当たりが有るのか無いのか、視線があちこちに泳いでいる幼馴染を前にしているわけだが、桜峰さんたちは桜峰さんたちでこちらが気になるのか、少し離れた場所からこちらをちらちら見てきている。
というか、生徒会役員全員で様子見に来るとか、どういう状況だよ。
桜峰さん、私が見てるのに気付いたことはともかく、『がんばれ!』じゃない。
「……はぁ」
私が溜め息を吐けば、一瞬びくりとなりながらも、夏樹は夏樹で目を合わせるどころか、こちらに目を向けようとすらしない。
そもそも、互いの逃げ場を無くすために、食堂に移動した訳なんだけど、話したいことが話したいことなため、聞こえる音とか声は音響結界(私命名)でぼやかしていたりする。
「それで、話したいことだけど」
別にこのまま無言でも良いけど、時間が勿体ないので、本題に入る。
「この前、
「……そうか」
……この反応、風弥のことは覚えてる?
「それで、夏樹にも会いたいって言ってたから、伝えてる訳なんだけど」
「……悪い」
正確なことを言えば、風弥はそんなこと口にしていなかったけど、それでもそんなことは思っているだろうから。
「……それだけか?」
「うん?」
「いや、他にも何か言ってくるかと思ってたから……」
どうやら、勘づいてはいたらしい。
「言ってほしいの?」
言いたいこと、全て。
「それは……」
「さっきさ、夏樹は謝ってきてたけど、何に対しての謝罪なのかな?」
それは、さっき謝られたときに思ったこと。
「風弥の伝言を私に言わせたことについての謝罪だったら、それは間違いだから」
あの場に夏樹がいなかったから、私がそうなんだろうなと思って伝えたわけだし。
まあ、風弥なら、これぐらいなら許してくれそうというのもあるんだけど。
「それと、いい加減にしないと、
本当、小夜に手を出させたくはないけど、そうなりそうだから怖いところなわけで。
「……そうだな。さすがに殴られるのは避けたいしな」
あの子、平手打ちじゃなくて、グーで容赦なく殴るからなぁ……
「だったら、気を付けなよ」
私は何も言わないけど、風弥から話が行っていたら、それはそれで仕方ないと思っている。
「……」
「……」
「……」
「……」
そのまま、互いに止まっていた昼食を進める。
今回は弁当を作る時間など無かったので、学食である。
出費が気になるところではあるが、午後の授業に支障を
そして、食べ終わり、食器を返して戻ってくれば、話し終わったと判断したんだろう桜峰さんと+αが、そこにいた。
「あ、
私に気づいて、戻ってきたと言わんばかりの彼女がつつつ、と側に寄ってくる。
「話したいことは話せた?」
「一応は」
話したいことの本命は話せていないけど、「そっか」と桜峰さんは良かったねとも言いたそうな表情で返してくる。
――この世界は今、桜峰さんを中心に回っている。
だったら、だったら、もしかしたら――……
「……」
「……?」
私が数秒ばかりじっと見ていたからなのだろう。彼女は不思議そうな顔をする。
正直、桜峰さんの中に『あの人』との記憶がどれだけあるのか、残っているのかは不明だけど、それでも彼女が居合わせてくれているのなら。
「ああ、そうだ。言うの忘れてた」
夏樹に向かって、今思い出したかのように『あの件』を口にする。
「今度、
たとえ、元の世界で雪冬さんがどんなに不安定な立場であろうと、それがどういう意味であっても、夏樹の中に少しでもその記憶があるのなら、何らかの反応を示してくれるはずだ。
――お願いだから、反応を見せて。
私のことは、どれだけ抜け落ちても構わないから。
だから、雪冬さんのことは覚えておいてほしい。
だって、そうしないと――……
「……雪冬? 誰のことだ?」
……おい、マジか。
いや、予想はしていた。していたけども。
「――ああ、そう」
一体、自分が今どんな顔をしているのか、分からない。
涙を流してる感覚が無いから、泣いてはいないはずだ。
でも、桜峰さんたちが驚いていたり、ぎょっとしていたりするのを見ると、多分、普段の私ならしないような表情をしているのだろう。
「咲希、ごめん。先に行く」
「う、うん……」
そのまま、移動を再開させる。
ああ……ああ、ああ、ああ、ああ、ああ!!
今すぐ、今すぐにでも、どこかに行って叫びたい。
でも、真面目な部分の私が、誰もいないであろう空き教室へと足を進める。
「……っ、」
あれは、違う。
意図的に自分から忘れたんじゃない。
だとすれば、どうしてあんな発言をしたのかなんて、原因は一つしかない。
『――次は、
たとえ、雪冬さんがこうなることを、こうなっていたことを予想できていたとしても、こんな結果を伝えるのなんて、残酷ではないか。
『私と飛鳥、今のあいつに見分けられるのかな?』
夏樹は少なくとも、
「そうだね。でも、もし忘れてたら?」
『ぶん殴る』
「ははっ、明花らしいねぇ」
明花は時々手が出るタイプではあるけど、そこに正当さが無い限りは出したりはしない。
『だって、
「……」
『だから、次は私の番。あんたには私がいるけど、雪冬さんには夏樹が居た方が良いだろうから』
雪冬さんにもパートナーとなる人は居たんだろうけど、その人が今、何をしているのかなんて分からない。
だから、私たちが知る『雪冬さんの知り合い』は夏樹しかいないわけで。
「ごめん、任せる」
正直、今日中には立ち直れないだろうから。
「――うん、任されました」
さて、状況の把握と情報を集めますかね。
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