水森飛鳥と落ちし絶望、そして射し込む一筋の光Ⅶ(すれ違いと隠しているもの)


「……」


 せっかく気持ちも切り替えて、覚悟も決めたと言うのに、夏樹なつきと話せないまま、二日が経過。

 桜峰さくらみねさんと話してるのは見てるし、誰かに頼まれたていで話し掛けようとしても逃げられる。


 ――マズい。これは、マズい。


「……喧嘩、じゃないよね」


 さすがの桜峰さんでも、困り顔である。

 少し離れた場所では、斎木さいき君たちがこちらを気にしながら夏樹と話してるっぽいが、表情から察するに、あまりよろしくはないらしい。


「……うん、喧嘩はしてない」


 単に話せてないだけだし。

 まあ、そのせいで困ってるわけだけど。

 教室のカレンダーに目を向ければ、クリスマスまで時間が無い。


「まあ、そのうち話せるだろうから、いいんだけど」

飛鳥あすか……」


 「でも、話したいことあるんでしょ?」と、桜峰さんが視線で訴えてくる。


「別に焦ってしなきゃいけない話でもないから、今しなきゃいけないってわけでもないし」


 残り時間的に見れば、まだ焦らなくていいんだろうけど、クリスマスを狙うのであれば、残された時間は無いのも事実で。

 授業のチャイムが鳴ったため、桜峰さんと離れて、自分の席に着く。

 さて、どうしよう――そう考える中で、灰色の世界が、少しだけ濃くなった気がした。


   ☆★☆   


「……」

「……」

「……」

「……」


 無言になること、数分。


「……あのさ、咲希さきに何か言われた?」

「別に、何も言われてないよ?」


 いつ以来なのか、鳴宮なるみや君が桜峰さんがいないにも関わらず、話しかけてきた。

 女神によって桜峰さんに惹かれた後の彼が、私の方に来るなんて、今まで無かったし、これからも無いとは思っていたんだけど……


「あ、信じてないでしょ」

「ここ最近の様子から『信じろ』って方が、無理だからね」


 彼が本人の意志にしろ、桜峰さんの指示にしろ、ここに居ることは事実だけど、ここ最近が最近なだけに、どうにも裏に何かあるんじゃないかって思えてしまう。

 というか、生徒会室の方はいいのか。


「……仕事はしなくていいの?」

「問題ないかな。やることだけはやってるし」

「君がそう言うのなら、別にいいけど」


 後で彼が怒られようが怒られまいが、どちらでも構わない。

 だって、私はちゃんと確認したから。


「……」

「……」

「……」

「……」


 再度、無言の時間が訪れる。

 さて、今までの彼相手なら、適当な話題を振れたけど、今の彼相手にどんな話題を振るべきなのか、分からない。


「……そういえば、君は咲希と何らかの進展はあったのかな?」


 ふと、今の状況がどうなっているのか気になったので、聞いてみる。


「何で?」

「いや、単なる興味だよ。いつもと変わらないのか、ギスギスしてるのか……咲希が悲しむのは、嫌だから」


 これ、嘘だって、気づくかな。

 でも、最後の――桜峰さんが悲しむのは嫌、というのは本音だ。


「んー、いつもと変わらないときもあれば、ギスギスしてるときもあるね」


 そう返す彼の脳裏には、桜峰さんと生徒会役員たちとの日々が浮かんでいることだろう。


「……桜峰さんとの進展は?」

「うん?」

「咲希との進展は、何かあった?」


 そう尋ねれば、数回まばたきをされる。


「気になる?」

「別に」


 進展していようがいまいが、どちらでも構わない。

 だって、ただの確認だから。


「まあ、同学年っていうメリットを活かして頑張りなよ」

「……水森さんさぁ」


 彼が何か言おうとしたところで、チャイムが鳴る。


「それじゃあ、私は教室に向かうから。君も教室なり、生徒会室なり、向かうと良いよ」


 そう言って、その場を先に去る。


「――少しだけでも頑張った、よね。頑張れたよね」

『頑張った、頑張った』


 早足になりながら、呟くように問いかければ、明花あきかにそう返されたような気がする。


「大丈夫かと、思ったんだけどなぁ……」


 本当、嫌なことまで思い出すことになるとは。

 このままでは、肉体的な傷も、精神的な傷も、開きかねない。


「っ、限界が来る前に、どうにかしないと……」


 そのためにも、今やらないといけないのは――……


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