水森飛鳥と落ちし絶望、そして射し込む一筋の光Ⅵ(そう簡単にチャンスはやってこない)


 桜峰さくらみねさんと出掛け、休日を挟んで、月曜日の今日。

 二学期としての授業日数も減っていく中、教室に飾ってあるカレンダーに目を向ける。

 そこには誰が書いたのか、『終業式』だの『クリスマス』だのと書かれている。


 ――クリスマス。


 桜峰さんに勧め――というかある意味、押し付けとも言う――に折れて、ランダム用だけではなく、特定の人用のプレゼントも買ってしまったのである。

 懐が痛いか痛くないかを聞かれると、痛いところではあるが、桜峰さんもランダムと特定の人用を買っていたので、彼女を責めることは出来ない。


「……」


 私には、役目がある。

 桜峰さんの逆ハーを完成させないという目的以外の、私が――私たち・・・が、やらなければいけないこと。


「……っ、」


 本当なら、やりたくない。

 分かっている――予想できる答えなだけに、きっと平常心で居られなくなるだろうから、傷付きたくないから、『それ』を口にしたくはない。

 だとしても――


「『やらなきゃなんないんだから、嫌になる』」


 そんな私たちの呟きは、誰にも聞かれることもなく、教室内の喧騒に消えていくのだった。


   ☆★☆   


 ただ、ただ、時間は進んでいく。

 時間なんて、有って無いようなものなのに。


 静かな教室の中で、かちりと動く時計の針の音が響く。


「……」


 あの人に、一番良い贈り物をすると言った。

 楽しみにしているように言った。言ってしまった。


「……」


 残りの科目を確認し、次が移動教室であることも確認すれば、話せる好機チャンスは移動するタイミングぐらいしかないのかもしれない。

 そして、チャイムが鳴れば、手早く次の科目の教科書を用意していく。


飛鳥あすか


 そして、廊下に出て、少し歩いていれば、桜峰さんが声を掛けてくる。


「どうしたの?」

「どうしたの? じゃなくって、私も一緒に行こうかと思って」


 それは、別に良いんだけども。


「あれ、そんなところで何してるの?」


 何で同学年組まで集まるかな。


「二人も移動?」

「そう」


 桜峰さんが確認してるけど、何か嫌な予感がする。


「それじゃ、途中まで一緒に行こうか」


 二人の次の教科と場所を確認したらしい桜峰さんがそんな提案をしたため、四人で移動することとなった。



 そして、桜峰さんと鳴宮なるみや君が前を行き、その後ろを私と鷹藤たかとう君が歩いていく。

 何かいろんな話をする二人を見ていたら、「あれ、私いらなくない?」って思うわけで。

 だったら、多少遠回りになってもいいからこっそり抜け出そうかと考えていれば、隣から「水森みずもり」と声を掛けられる。


「一人だけ逃げようと思うなよ」


 どうやら、思っていたことは同じだったらしい。


「明らかに、私が邪魔な気がするんだけど?」

「悪いが、俺もここから離れたい。だがもう『途中まで』来たからな」

「ああ……」


 二人も気づいているのか、立ち止まって話している。

 となれば、と視線を隣に向ければ、小さく頷かれる。


「盛り上がってるところ悪いけど、私先に行ってるから」

「えっ」


 桜峰さんがどういう目的でこの二人の同行を認めたのかは分からないけど――目的なんて無いのかもしれないけど――、私たちが最後まで付き合う義理は無いわけで。


「俺も先に行く」

「えっ」


 あっちも予想外だったらしい。


「そういうわけだから、話しててもいいけど、遅刻しないようにね」


 そう言って、その場を離れる。

 勘違いしたければ、させておけば良い。

 だって、私にその気・・・は無いのだから。



 その後も結局、夏樹なつきと話すどころか、タイミングが合わずに声を掛けることすら出来ず、その日を終えることとなった。

 タイムリミットであろう終業式までに、雪冬ゆきとさんについて聞かなきゃなんないと言うのに。


「……まあ、逃げてるのもあるから、全部タイミングのせいには出来ないんだけど」


 けれど、たとえ開き直って聞いてみたところで、こちらが欲しい答えを言ってくれるとは思えない。


『聞きたくない答えが返ってくるのを前提で聞いた方が、まだマシかもね』

「そうだね」


 雪冬さんに直接聞かせるわけでもないんだし、多分、大丈夫なはずだ。


 ――まあ、どれだけ強く思い込んだって、本音では聞きたくないと思っているのも事実だけど。


 でも、それでも――


「時間も無いんだから、やってやる」


 追い込まれた人間は、何をし出すか分からない。

 そして、それを見た女神の反応も気になるし、怖いけど、桜峰さんとの関係を壊させるわけじゃない――下手をしたら、進めることになる――んだから、きっと、きっと……


「大丈夫、だよね」


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