水森飛鳥と落ちし絶望、そして射し込む一筋の光Ⅴ(気付いたことと、追加されたこと)
それは、彼女に向けられる視線の主が、男性だけではなく、女性も居ることだ。
この世界が『乙女ゲーム
この子とは半年以上一緒に居たのに、今になって気付くとは……まあ、つまり何が言いたいのかというと。
――逃げたい。
一緒にいる私も注目されているのである。
もし、これで男どもが一緒だったのなら、視線は分散されたんだろうけど、残念なことにこの場には私と桜峰さんの二人しかいない。
――超、逃げたい……!
そもそもバンドの時だって、彼らが一緒であり、視線が分散されたから良かっただけで、今みたいに(桜峰さんに次いでとはいえ)視線が集まるのは、本意ではない。
当の本人はというと、視線に気付きながらも無視しているのか、そもそも気付いていないのか。まあ多分、後者なんだろうけど。
「ねぇ、さ――」
とにもかくにも、正面を歩く彼女に声を掛けようと思ったら、察したかのように、くるりと目がこちらに向けられる。
「どうかした?」
「え……?」
「何か、じっと見られてるような気がしたから」
不思議そうな目を向けられる。
何でこの子は、こういうのは感じるのに、他の人からの視線は無視なんだろう?
「あー……いや、別に悪いことを考えていた訳じゃないから」
「……そうなの?」
「そうなの」
あやふやに返してはみたが、たとえ本当のことを言っても、「気にしすぎ」の一言で片付けられそうだし、多分これで正解なんだろう。
「そ、それでさ、プレゼント選びの参考として、少し調べてみたんだけど……」
話題を逸らすために、携帯を取り出しつつそう口にすれば、気になったらしい桜峰さんが隣に寄ってくる。
クリスマスプレゼントにたくさんの候補があるのは間違いないけど、調べた中で多かったのは、アクセサリー系。
「ペアにしたり、その人が好きだったり、身に着けてくれそうなものが良いみたいだね」
「う~ん……」
「あと、渡したい人の好みにも合わせてってあるけど、これはまあ、当たり前か」
けれど、今回のプレゼント選びは、シャッフル前提での選ぶから、誰から誰へ渡るのか何て、分かるわけない。
「そうだね。みんな好きなものとか、結構バラバラだし」
どうしよう、と桜峰さんが息を吐く。
そんな彼女の様子を見ながら、思ったのは。
――私は役割としては『サポートキャラ』なんだろうけど、この子は私の手助けなんか無くても、一人で何とか出来る。出来てしまうんだろう。
桜峰さんが好きなものや欲しいものといった情報を、攻略対象者たちに流してはいるけど、それも今では必要ないはずだ。
桜峰さんが彼らの好みを把握しているように、彼らも私から情報を手に入れる必要が無いぐらいに、彼女の好みぐらいは把握しているだろうから。
「いっそのこと、誰に当たってもいい用と、特定の人用で買っておく……とか?」
「うーん……」
桜峰さんが悩ましげに唸る。
「飛鳥って、まだ予算あったっけ?」
「……無くはないけど」
嫌な予感しかしないんだが。
「じゃあ飛鳥もさ、特定の人用で買ったらどうかな? だって、さっきのは『誰に当たってもいい用』でしょ?」
「言うと思ったよ……」
後夜祭の反撃かと思えるほどに、私があの時とった方法に似ている。
「というか、私から欲しい人なんていないでしょ」
だって、あのメンバーが喜ぶのは、桜峰さんから貰ったものだから。
「そんなことないよ。
いや、その二人は、貴女が好きだから、貴女から貰った方が喜ぶと思うんだけど……
「と・に・か・く、飛鳥も買うこと。御子柴君の好みは分かってるだろうし、郁斗君の好みは、私が分かる範囲で教えてあげるから」
「えぇ……」
……というか、買うの、決定なんですか。
そんな戸惑ったままの私の手を引っ張ってのプレゼント選びが、桜峰さんによって追加されたのでした。
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