水森飛鳥と落ちし絶望、そして射し込む一筋の光Ⅳ(『ピース』を嵌めるために)


 桜峰さくらみねさんは――簡単に言ってしまえば、この世界の主人公ヒロインだ。

 それが分かっていたのなら、もう少し工夫すれば良かったし、させれば良かったとも思うわけで。


「……」


 まあ、何が言いたいのかと言うと。


「……終わりが近いからって、効果強めすぎやしませんかね。女神様」


 つまり、そういうことである。


   ☆★☆


「あああ飛鳥あすかぁぁぁぁ~~」


 修学旅行のときもそうだが、何故この子はナンパされるんだろうか。

 泣いてはいないけど、一人で不安だったのか、私に気づくとしがみついてきた。


「すみません。私たち行かなければならない場所があるので、失礼しますね」

「えー?」

「じゃあ、俺たちも一緒に行っていいかな?」


 やんわり言ってもコレである。


「あ、何だったら、荷物持ちとかでもするよ?」


 ……しつこい。

 しかも、いつもは居るはずの男どもも居ない。

 いっそのこと、風弥かざやたちでもいいから、遭遇してくれないかな――思わず、そう思ってしまう。

 でも、そんな偶然には頼れないし、いつまでもここで時間を無駄にするわけにはいかない。


「――『結構です。お引き取りください』」

「あ、はい……」

「すみませんでした……」


 面倒だから“能力ちから”を使ったけど……桜峰さん以外の知り合いには見られてないはず。


「飛鳥、今……」

「それじゃあ、行こうか」


 男たちの態度の変わりようを疑問に思っただろうに、不思議そうな顔をして声を掛けてくる桜峰さんにもそう言って、その場を離れる。


「え、でも……」

「ほらほら、欲しいものが無くなっちゃうから早く行くよ」


 本当は、どう作用するか分からないから、どんな状況であっても、使いたくなかった。

 精神を操る・・・・・なんて真似は、したくなかった。


 とりあえず、プレゼントの目星を付けるために、桜峰さんを連れて雑貨屋に入ってみる。

 さて、何かいいものがあるかな。


「……何かあった?」

「無難に文房具とかでもいいかと思ったけど、でも、こういうのってデザインとか色が悩みどころだしなぁ」


 ふむ。


「どうせなら、ワンシーズンじゃなくて、一年いちねん通して使えるやつの方がいいのかな?」

「んー、それは気持ち次第じゃない? 一シーズンだけしか使えなくても、渡したい人に対する気持ちがあるなら、それでいいと思うけど」


 そう返せば、桜峰さんが唸る。


「飛鳥はやっぱり、御子柴みこしば君たちに渡すの?」

「そうなるんじゃないかな?」

「何かあやふやだね」


 予定しているプレゼント交換会が、誰に何が行くのか分からないシャッフル方式なら、自然に誰かの手元へと行くはずだ。

 けれどもし、目的の人物に手渡すような場合だったら――……


「……まあ、当日の渡し方次第かな」

「そっか」


 当日、どんな渡し方になるのかなんて、私には分からない。

 だからこそ、誰に渡っても問題が無さそうなものを選ばないといけない。




 ――いけなかったのだが。


「んー、これってのが無いなぁ」

「方向性は?」

「駄目。方向性を決めても、やっぱり、これってのが無いよぉ……」


 あれから、いくつかの店を見て回ったが、桜峰さんががっくりした様子で愚痴る。


「時期が時期だから、あるかと思ったんだけどなぁ」 


 まあ、かくいう言私も見つかっていないのだから、彼女を責めることは出来ないが。


「……」

「……」

「……」

「……」


 しばしの沈黙。


「……後でもう一回、見に行こうか」

「そうだね」


 こんな状態でいいものが見つかるとは思えないけど、何もしないよりはマシなはずだ。


「よし、それじゃ行こうか」

「うん」


 休憩は出来たので、まだ見に行っていない店を見に行く。


「むー……」


 桜峰さんが真剣な顔でにらめっこしているのを視界の端に捉えつつ、私も私で何か無いのかと周囲を見渡せば、一つのコーナーに視線が止まった。


「……ジグソーパズルも有り、か」


 そんなに大きな物でなければ、部屋に飾ることは出来るんではないのだろうか。

 そもそも、生き物や建物、キャラクターものなど、特に季節縛りも無いわけで。


「何かあった?」

「あー、これも有りかなって思ってさ」

「ジグソーパズルかぁ」


 なるほどなぁと感心するかのように頷く桜峰さんの横で、今ある絵柄を見てみる。

 キャラクター系は当然多いが、さすがに誰かに贈るとなると、建物や生き物系の方がいいのかもしれない。

 その上、大きなものだと持ち帰るのに不便なので、小さい方で。


「その様子だと、決まったみたいだね」

「ごめん、先に決めて」


 そう謝れば、言葉を発するこことなく、首を横に振られる。


「いいよ、別に。それに、飛鳥のことだから、まだ付き合ってくれるんでしょ?」

「うん、元からそのつもりだしね」


 そう返せば、桜峰さんが嬉しそうな笑顔を浮かべる。


 彼女がどんなものを選び、誰の手へと渡るのか。

 それはまだ分からないけど、きっとここが『ルート』を決定する最後の場面だろうから。


 そんなことを思いつつ、始まりと終わりを告げる『春』の、桜が舞う庭園の絵柄のパズルを手に、私はレジへと向かうのだった。

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