水森飛鳥と各ルートⅡ(東間未夜ルートⅠ・その目的は)


「……」


 時計に目を向け、時間を何度も確認する。


 というのも、今朝方いきなり副会長から「もし暇なら、少し付き合いなさい」と呼び出しを食らったからである。

 先日の会長との件――誘拐事件を忘れたのかと問えば、「貴女がぼんやりしない限りは大丈夫でしょう。貴女はどこか抜けてるようなタイプでも無いですし」と言われてしまった。一応、信頼はされているとは思うのだが、副会長は一体、私の何を知っているのだろうか?

 まあ、そんなわけで、先輩である副会長を待たせるわけにもいかないと思い、手早く着替え、待ち合わせ場所に行ってみれば、どうやらこちらが先に着いてしまったらしい。


「……からかわれた、なんてことは無いか」


 いくら何でも、あの副会長が連絡無しにドタキャンするとは思えない。つか、ドタキャンするつもりなら、最初から誘ってこないはずだ。

 それにしても――遅い。


「どっかの見知らぬ女にでも捕まったか?」


 一瞬、さすがにそれは無いかとも思ったが、この世界は乙女ゲーム風・・・・・・の世界であり、副会長は攻略対象者の一人。逆ナンとかが起こっていても、不思議ではない。


「……ま、捕まっているようなら、様子見て助ければいいか」


 その時のお姉様方のタイプにもるが。

 ――とまあ、そんなデジャヴを感じつつも、引き続き待ってみる。


「すみません、遅れました」


 どうやら、捕まらなかった……訳ではないらしい。急いでこの場に来たのが丸分かりだ。


「いえ、お気になさらず。副会長こそ、大変だったようで」

「分かりますか?」

「何となくですが」


 何があったのかまで言わなくてもいいのだろうが……


「とりあえず、話を聞かせてください」


 どこか嬉しそうな顔をしてみれば、副会長には驚かれたけど、暗に「後ろの奴らを追っ払うためだから、演技しろや」と伝えてみる。

 それがちゃんと伝わったのかは分からないけど、副会長が顔を引きつらせながら、頷いていた。どうやら、鬱陶しいとは思っているらしい。


「で、何故、私は呼び出されたんでしょうか? もし、デートがしたいなら、咲希さきを誘えば良かったではないですか。ああ、下見ですか。それなら、いくらでも付き合いますよ」

「……貴女が苛々いらいらしているのも、僕と咲希をくっつけたがっているのも分かりました。ですが、彼女たちに聞こえるように話していて大丈夫ですか?」


 副会長に呆れたような目を向ける。


「まさか私の異能、忘れたわけではないですよね?」

「いえ、覚えてますよ。音関係の異能でしたよね」

「ええ、そうです。現在、彼女たちの耳には、今私たちが話しているのとは別の会話が聞こえているはずです」

「別の会話?」


 副会長が不思議そうな顔をする。


「例えば、『これからどこに行く』だとか、『昼食はどうする?』だとか。何気ない会話です」

「なるほど」


 そして、その程度のことなら、造作もない。


「ただ、態度や表情まではどうにもできませんから、それらがおかしくないように、会話は自動修正されているんでしょうがね」

「それでもし、彼女たちが諦めなかったら?」

「自分にはちゃんとした彼女が居て、私とは彼女とのデートのための下見に来たと言えば良いじゃないですか。私のことは彼女の友人だから、とでも言い訳して」


 副会長が顔を顰める。


「貴方は、それで良いんですか? 僕としては、後夜祭の時のお礼をするつもりで誘ったんですが」

「そうだったんですか。別に必要もなかったんですが……まあ、どうしてもと言うのなら、私へのお礼は、咲希と引っ付いてくれるだけで十分じゅうぶんなんですがね」

「……何故、そこまでして僕たちをくっつけようとするのですか。貴女には、何のメリットも無いはずでしょう?」


 ふむ、そう来たか。

 だが、私にはメリットはある。神様の願いを叶え、この世界を解放させることが出来るというメリットが。


「さあ、何ででしょうね。けど、あのメンバーの中で、咲希と一緒にいるのを最初に見たのは、副会長が初めてでしたから。協力するのなら、副会長にしておこうと思っただけです」

「そんな理由で、僕に協力するんですか?」

「いけませんか?」

「そういうわけではありませんが……」


 私という協力者が面と向かって協力すると言ったのに、何を渋る必要があるんだ。


「いえ、今日はもう考えるのは止めておきます。貴女の言う通り、デートの下見として付き合ってもらいますよ」

「そうでないと困ります」


 さあて、どこから向かいますかね。


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