水森飛鳥と各ルートⅠ(獅子堂要ルートⅡ・“空間振動”)
婚約者であり、悪役令嬢である
最終的に未季とは婚約破棄し、自身の想いに気付いた咲希とともにハッピーエンドを迎える。
正史では、『悪役令嬢・雛宮未季』は不在なため、その辺の齟齬に関しては不明。
☆★☆
話の続きをしようとは言ったが、正直に言って、
「私は何者なのか、でしたよね?」
「……ああ」
本気でこんな所で話すつもりかと言いたげな会長に、笑みを浮かべる。
『電話でも言った通り、聞きたいことがある』
待ち合わせることなく歩きながらの、そんな開口から始まった会長――獅子堂要の眼には、一切の嘘や冗談は許さないと言いたげな意志が宿っていた。
『お前は何者なんだ?』
そんなことを何回問われたとしても、『
隠していることがあったとしても、それ以外に何がある。
だから、私はそう答える。
「私は私。
「……その返答だけで、俺が求めている答え全てだと言うのか?」
「求めていた答えが足りなかったり、違ったりするのなら仕方ありませんが、身体的特徴とかだけはご勘弁願いたいです」
スリーサイズとか、冗談じゃない。
「それなら、質問を変えて、単刀直入に聞こう。お前と
「夏樹は幼馴染ですが、他の二人については知りませんよ。というか先輩は婚約者が居るのに、咲希に手を出してるんですか?」
「話を逸らすな。あと、誤魔化そうとしたって無駄だからな」
無駄と来たか。
だが、私の方もあの二人の性格と同郷者であること以外は知らないのも、また事実。
「どうやったら、他校生である会長の婚約者さんたちと、私たちが知り合えるというんですか?」
「俺は一言も『雛宮が他校生』だとは言ってないんだが?」
「文化祭の時、中庭で派手に喧嘩していたじゃないですか。それに、我が校に彼女たちが居た場合、先輩の婚約者である以上は注目され、何らかの噂があるに決まってます。それが無いということは、他校生である可能性の方が高いということです」
「……なるほどな」
納得してもらえたようで何よりだ。
「――金の残像」
「……何ですか?」
「今、反応したな?」
「……」
舌打ちも何も返さない。
確かにすぐに反応はしたけど、「何か言いました?」と言いたげな雰囲気で返したはずなのに、会長の視線は先程と何一つ変わらない。
「いや、『反応したな』って、先輩が何か言ったかと思ったから、聞き返しただけなんですけど」
「なら、『神』と『女神』」
「はい?」
「そして、『乙女ゲーム』。――なぁ、水森。
その問いで理解した。
この世界の秘密という点は避けて、私たちについて、何かしらの情報を会長に吹き込みやがったな、クソ女神。
(まあ、当たり前だが)自分たちに不利になる情報は提示せず、私からこちら側の情報を引き出すつもりか。
「どうもこうも、そもそも先輩から、『乙女ゲーム』なんていう単語が出てくること事態が予想外なんですが……」
それにしても、私たちを拘束していたのが手錠じゃなくて、縄で良かった。
おかげで、あっさりと縄を
「お前……」
「とりあえず、助けも近くまで来ているみたいですし、ここから脱出しましょうか」
異能で(音のみだけど)確認してみたら、
私自身の足と会長を縛っていた縄全てを解けば、自由になれたというのに、会長は不服そうな顔をしている。
「さて、先輩は戦えたりしますか?」
「護身術なら、それなりに使えるが……無茶言うなよ。他人を傷つけるような技とかは持ってないんだからな」
うわぁ、使えない。
「チッ。じゃあ、私が頑張るしかないか」
「……お前、今舌打ちしたな?」
「何のことでしょう? あ、ご自身の耳は塞いでおいてください」
実は私たちが居るのは、どこかの建物の部屋のようなところ(牢屋や倉庫とかではない)なのだが、外に気配が無いことから、遠慮なく扉を蹴り飛ばす。だって、定番みたいに鍵が掛かってたし。
会長が疑いながらも耳を塞いだのを確認しつつ、私はリボンごと纏めて首元を緩め、息を吸う。
戦闘用異能ではないけれど、“
「――ッツ!!」
私の声にならない声を、聞かせたい相手に向かって響かせる。
メリットは二つ。一つは術者に何の影響も無いこと。二つ目は、相手を確実に気絶させられること。
特に、
「けほっ……」
「お前……」
「私のことは良いですから、早くここを出ますよ」
私のことを怪しんでいる会長の前で、もっと怪しまれるような行動は取りたくないけど、仕方がない。命優先、だ。
「馬鹿か。血を吐いた奴に無理をさせられるか」
「……」
優しいなぁ。だから、生徒会長に選ばれたのか。
――まあ、そんなことは、今はどうでも良い。
さっさと部屋を出て、出口を探さないと。携帯とか取り戻したいけど、私も先輩も戦えないし。
「……見事に倒れてるな」
部屋を出て、廊下を進む度に、“空間振動”の影響で倒れただろう誘拐犯たちが倒れている。
下手に離れないように手を繋いでいるわけだが、先輩も犯人たちに見つかるのを恐れてか、私に不用意に話しかけてこない。
ただ、分かったこともあって、私たちが居たのは二階だったらしく、脱出の難易度が上がったことだけは理解した――が、少し気になったので、先を行く先輩の手を軽く引く。
「どうした?」
『せんぱい、かいだん』
「は?」
“空間振動”のデメリットで声出せないから、口パクで伝えるしかないのだが……伝えてみた結果、不思議そうにされてしまった故に、分かりやすく近くの窓から、すぐ下を見させる。
「……ああ、今いる場所が二階だから、降りるための階段を探せってことか」
無言で頷けば、じっと見られる。
「声、出ないのか」
『出ない』というより『出せない』方なのだが、困ったような顔をして頷けば、溜め息を吐かれた。
まあ、説明しなかった私も悪いけど、ここまで声が出なくなるのは予想外だったのだ。
「まあ、良い。行くぞ」
そんな調子で先輩に手を引かれつつ、建物内を移動したのは良いが、突き当たりの窓が見えてきた所で、新たな問題が発生した。
「変な音がしたから、様子を見に来てみれば……」
「“武器持ち”か」
うん? 剣を持っているのを見れば分かるんだけど……“武器持ち”?
「……」
あの剣を奪えれば、状況的に何とかなりそうな気もするけど、実状は『あっちに武器あり、こっちは丸腰』だもんなぁ。
しかも、“空間振動”のデメリットで、まだ声は出せないから、異能も使えないし……うん。私、足手まといだな。
「お前が何考えてるのかは分からんが、今は逃げることに意識向けてろ」
そう言いつつ、先輩は視線をこちらに向けずに、手だけは強く握ってくる。
……これは、先輩なりに大丈夫だって、言ってくれているのかな?
「こうして見つかっておきながら、まだ逃げられる気でいるとは……」
ありゃ、抜刀ならぬ抜剣されちゃった。
「大人しく戻った方が身の為だぞ」
それを聞いて、先輩と視線を交わす。
さぁて、この状況どうしようか。
ああ、そうだな――ねぇ、神様と女神様。私たちが死んだりしたら、お二人の目的は達成できないんだから、ちゃんと護ってくださいよ?
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