水森飛鳥と短いようで長い修学旅行Ⅳ(二日目の始まり)


「――で、すっごく疲れた私たちを呼び寄せて、何のつもりですか? 神崎かんざきセンパイ」


 予想外の呼び出しに、若干イライラしながら尋ねる。


「あ、うん。今更だけど、向こうとこっちを昼夜逆転しようかと」

おせぇよ」


 うわ、寝れずに機嫌悪いから、今の夏樹なつき、かなり怖いんですが。


「ごめんなさいごめんなさい。でも、伝えておかないと、君たちがたないと思って」

「ええ、ええ。それについては感謝しますが、話が終わったのなら、もう戻って良いですか?」

「あ、うん。ちなみに、今から戻ると元の世界は夜だから」


 つまり、桜峰さくらみねさんたちの世界が朝方というわけか。


「それでは、戻りますね。ほら、戻るよ」


 夏樹を促して、眠っている身体に意識を戻した。


   ☆★☆   


 修学旅行、二日目。

 予定は、(昼夜逆転したとはいえ、)どちらも班行動。


「寝れたか?」

「まあね。そっちは?」

「こっちも何とかな」


 きっと、中日二日これからが私たちにとって、一番長い日になるはずだ。


「それじゃ、お互いに頑張りましょうか」

「ああ。二つの修学旅行を乗り越えよう。そして、思う存分、休みたい」

「それについては、激しく同意」


 そう話し、待っている桜峰さんたちの方へと歩いていく。


「もうっ! 二人して、何を話してたの?」

「秘密ー」

御子柴みこしばぁ、本当に何話してたんだぁっ! 白状しろぉっ!」

「ちょっ、本当に何も無いって。これから行く場所が、どんな場所なのかを話していただけだし」


 私が桜峰さんに問い詰められ、夏樹が斎木さいき君に問い詰められてる。


「はいはい。時間が無いから、移動するよー」


 手を打って、注目を集めた真由美まゆみさんが、そう告げる。


「ほらほら、行くよー」

「斎木も行くぞー」

「ちょっ……」

「押すなって……!」


 私が桜峰さんの、夏樹が斎木君の背中を押しながら、かなでちゃんと真由美さんと一緒に歩き始める。

 さて、頑張らなければ。学園祭の時みたいに、油断して隠しキャラと遭遇なんてしたくない。

 まあ――桜峰さんが一緒な時点で、不可避のような気もするが。


 その後のことは、特に山無しオチ無しで、無事に見学も完了させていく。


「……」


 楽しそうな桜峰さんを盗み撮りして、適当に写真を選んで、『咲希、楽しそうでしょ?』と留守番組――先輩・後輩の生徒会メンバー――にメールしてやる。時間的に休み時間だから大丈夫なはずだ。

 で、来た返事は――


『これは嫌味ですか? 嫌味ですよね?(断定)』

『飛鳥センパイって、鬼だよねー。こっちが会えないの分かってて、こういうこと平気でやってくるんだもん』


 副会長と後輩庶務からである。

 そして、会長からの返信は無い。


「ん? メールか?」

「うん。ちょっとした嫌がらせ」


 携帯を使ってたからか、尋ねてきた夏樹にそう返せば、どうやら通じたらしい。


「嫌がらせって……」

「お土産買ってくから、大丈夫じゃないかな」


 お土産を持っていったら、「ふざけてるんですか」、「馬鹿にしてるでしょ」と返ってきそうな気がするけど、そこは無視しよう。うん。


「土産って言えば、雛宮ひなみや先輩たちの分も当然、買うんだろ?」

「一応ね。心配させてるだろうし、状況報告も兼ねてね」

「そうか」


 修学旅行に行くことは伝えてあるから、良い土産話が出来ると良いんだけど。


「明日は、あいつらと一緒か」

「そうだね。あー、胃が痛くなりそう」


 桜峰さんと一緒だから、何か起きそうで怖い。


「だったら、向こうで伸び伸びとするんだな。少なくとも、こっちよりはストレス軽減できるだろ」

「そうだね。まあ一人よりは、夏樹が一緒ってだけで、かなりストレス軽減できてるから――正直、助かってる」


 そう告げれば、夏樹が目を見開く。


「あ、すか……」

「うん?」

「デレたのか?」

「……ぶん殴るぞ」


 殴らないけど。

 つか、何という質問だよ。


「デレるデレない以前に、ツンデレとかですら無いよ。私は」

「いや、お前の場合はクーデレとかだろ」

「口が悪いのは認めるが、それは認めんよ」


 そのたぐいはクールとかじゃ無いだろうに。


「……」

「……」

「……止めよう。せっかくの修学旅行なのに、仲間と喧嘩したままで居たくない」

「そうだな。俺たちの場合、一度喧嘩したら、もう修学旅行中に仲直りなんか出来ないもんな」


 一度喧嘩すると、一週間は話さないからなぁ。

 小夜さやたちに(時には半ギレで)「いい加減に仲直りしろ」って言われるぐらい長引いたときもあったし。


「……まあ、あいつらが構う理由も分かったがな」

「……」


 最後の呟きは聞こえない振りをしておく。独り言だろうし。


 やや離れた場所から、桜峰さんたちが騒いでるのを見ながら、その様子を撮影する。

 もし、この件が片付いたら、この世界で過ごした記憶や記録がどうなるのかは分からないけど、出来れば残っていて欲しい。

 だって、一番怖いのは――きっと、『忘却』なのだから。

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