水森飛鳥と一時的な後夜祭Ⅱ(そして、幕は上がる)
「え!?」
いきなり自分に振られてびっくりしたのだろう
「
「それだと、会長に話を通さないといけなくなりますよね?」
今度は生徒会役員たちが唸る番だった。
「けどさー。
「そうですね……では、咲希。貴女も立ってください」
「ちょっと待ってくださいよ! 私、人前で歌うなんて……」
何かのフラグが立った気がするけど、それについても何も言わない。
「では、この話は無かったということで」
「桜峰」
「咲希」
「咲希先輩」
私が無しで、と言えば、役員たちの矛先が桜峰さんに向けられる。
ん? 別に狙った訳じゃ、ありませんよ?
「うぅ……分かった! 分かりました! 私も立ちます!」
「げっ……」
何度か逡巡した後、何か決意したかのように、桜峰さんが参加表明する。
うん、さっき言った手前、私も参加決定です。
「ギリギリですが、これで、キーボード担当も補充できました」
にこにこと嬉しそうに笑みを浮かべる副会長には悪いが、やること追加です。
「確認するけど、楽譜はあるんだよね?」
「当たり前だ。楽譜無しで弾けるわけがないだろ」
「原曲も?」
「一応はある」
ふむ。それなら、何とかなるだろう。
「原曲聞いて、楽譜見て、音合わせ……本当にぎりぎり間に合うかどうか」
本番までの算段を考える。
「飛鳥先輩がぐだぐだと引き延ばすからいけないと思うんですが?」
黙れ、後輩庶務。
「では、さっさと移動しましょう」
副会長の言葉で、とりあえず移動を始める。
「飛鳥。本当に良いのか?」
「こうなったら、仕方ないよ。演奏は妥協、ソロでは歌わない。それだけは絶対に約束させる」
夏樹の言葉にそう返すが、未だに納得できなさそうに返される。
まあ、夏樹は何があったのか、知っているしね。
「それに、
夏樹にしか聞こえないようにそう呟けば、眉間に皺を作っていた。
「だったら、最初から断っとけよ。お人好し」
ぽんぽん、と頭を撫でられる。
自覚はないけど、もしかして、私も不安そうな顔をしていたのだろうか。
目を前に向ければ、桜峰さんと副会長、鷺坂君が話しながら歩いている。
「まあ、頑張るよ。音響系異能の本領発揮だ」
「ああ、頑張れ」
そして、そう話し終わって、少ししてから目的地に到着した。
☆★☆
「……」
さて、会長に話を通し、現在演奏予定の曲の原曲をフルで聞いている。
テンポとか歌詞とか確認したり、リズムを取ったりしているから、何も知らない人から見れば、聞いている音楽に乗っているようにも見えるかもしれない。
「はい。聞き終わりました。次は音合わせですね」
「一回聞いただけだよね? 大丈夫?」
イヤホンを外して、次に音合わせをすると言えば、不思議そうに鳴宮君が聞いてくる。
「音響系異能持ちを嘗めないで」
私は(聞こえは悪いが)盗聴にしか使っていないが、やっぱり、こういうこと――演奏する時とかには強いんだと思う。
とりあえず、それぞれの担当楽器を手にして、一度音合わせをしてみる。
「何か凄い……」
桜峰さんが呟くように言う。
「後は、咲希のパートを決めるだけですかね」
「あと、やっぱり飛鳥先輩のソロパートも入れるべきだと思うんだけど」
副会長の言葉に、後輩庶務が余計なことを言う。
「歌うのは嫌だって言ったと思うんだけど」
「誰も『歌』なんて言ってないじゃないですか。それに、俺が言ったのは、『演奏』の方ですよ?」
どうなんだか。
「それで、どこからどこまで桜峰のパートにします?」
鷹藤君が話題を逸らす。
「なら、
何故かこっちに目が向けられる。
「それで良いんじゃないですか?」
パートがあるなら、私が歌った方が早いことについては気づかない振りだ。
「飛鳥の歌、聞いてみたかったんだけどなぁ」
残念そうに言う桜峰さんには悪いが、断固として歌わないよ?
「まあ、晃のパートを咲希が歌って、確認してみましょう。それで通して、ソロ演奏をお願いします」
「分かりました」
副会長に言われ、了承する。
演奏は妥協、ですからね。
「それで、本番ミスしたら、貴女に頼ることになるとは思いますが」
「多分、大丈夫ですよ。私と咲希以外が失敗しなければ良いんです」
何せ、私と桜峰さん以外は練習しているはずなのだから。
「うわぁ、それ。ある意味プレッシャーだなぁ」
「だよね」
鳴宮君に鷺坂君が同意する。
そのまま、桜峰さん込みで通し、本番を迎えることとなった。
「まあ、もしミスしても演奏は続けてくださいよ。音には音を被せますから」
先にそう言っておく。
「それは心強いですね」
「まあ、一番良いのは、ミスしないことですけど」
ちなみに、衣装は制服である。
役員たちの衣装はあったみたいだけど、私たちの衣装は無いわけだから、統一感を出すために、全員、制服となったのだ。
劇の衣装? 桜峰さんはともかく、裏方だった私にあるとでも?
「生徒会の皆さん、スタンバイお願いします」
学園祭実行委員(文化祭担当)が声を掛けてくる。
「ああ」
会長が代表して返事をするのを見つつ、私は異能を発動する。
「飛鳥」
「ん?」
「一応、アンテナは張り巡らせておけよ」
「分かってる」
最後の最後までこれである。
舞台上なら、みんなが注目するから、それなりに情報は集められるだろう。
「うぅ、緊張してきた……」
幕が下りたままの
「
「少しね」
こういう場に立つこと自体、少ないから、緊張はしている。まあ、一人よりはマシだと思うけど。
そして、舞台上から幕の向こうに居るであろう
「けどまあ。せっかくだし、楽しむよ」
驚いたような鳴宮君を視界の端に捉えつつ、生徒たちを見る。
もう後戻りは出来ないし、邪魔もさせない。
文句なら、後でいくらでも引き受ける。
――だから、せっかくの『イベント』を台無しにするなよ? 女神様。
そう思いつつ、私たちの幕は上がった。
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