水森飛鳥と波乱の学園祭Ⅴ(捜索、その後)
「さて、と」
ぱたん、と携帯を閉じる。
とりあえず、手はあった方が良いかと、あの面々に見つけ次第、連絡するように伝えておいた。
ちなみに、『あの子はうちのクラスの出し物である劇に出なくてはいけないので、三十分以内で見つけてください』とも言っておいた。
「全く、どこ行ったんだか……」
異能も使ってるのに、聞き慣れたはずの
「……」
少し集中して、精度を上げるべきか。
「
「
「桜峰、見つからないのか」
「見つかったら、一緒に居るし、ここにはもう居ないよ」
思わずそう言った私は悪くないと思う。
桜峰さんを捜し始めてすでに十分が過ぎており、あと十五分で見つけるというは、正直厳しい。
「俺も引き続き捜してみる」
「うん、せっかくの学園祭なのに、ごめん」
「気にするな」
鷹藤君が去ったのを確認した後、私も桜峰さんの捜索を再開させる。
「早く見つかってくれないかなぁ」
学園祭の失敗と反省会に加え、先輩たちを待たせて、せっかくの話を聞けるチャンスを無駄にはしたくない。
かつん、と屋上に出る。
結局、いつもの場所の方が落ち着くのだ。
「よし!」
軽く深呼吸して、意識を飛ばす。
「『
☆★☆
「あんたさぁ、一体どういうつもりなの?」
「私たちに見せつけて、何が楽しいわけ?」
「えっ、と……」
私は動揺していた。
自分は何か、目の前にいる彼女たち――見た目はギャルっぽい子たち――の機嫌を損ねるようなことをしただろうか、と。
「ほらさ。そういう所なんだよ。何を言われてるのか分からないって、顔しちゃってさぁ」
「あんた、自分がみんなから何て言われているのか、知らないでしょ」
確かに、何て言われているのかは知らない。
もしかしたら、私のことを思って、生徒会メンバーが私の耳に届かないようにしているのかもしれない。
けど、自分が何て呼ばれているのか、知る必要がある。
「一体、何て言われてるの……?」
私の問いに、目の前にいる彼女たちはニヤリと笑みを浮かべた。
「――
目を開いて、そう呟く。
時間を確認すれば、あと八分。
「少し掛かりすぎたか」
すぐさま屋上を出て、目的地に向かうために、昇降口で靴を履き替える。
――タイムリミットまで、あと六分。
けど、タイミングの悪さがここで出た。
(何でこのタイミングで、
隠しキャラが来ているという確認は出来たが、本っ当タイミングが悪すぎる。
「久しぶりだな。中学以来か?」
「っ、ああ、そうだな……」
話してる内容とか気になるが、今は桜峰さんだ。
目的地に向かうために、鷺坂君の横を通り抜けていく。
「……え?」
その際、驚いたような表情の鷺坂君の顔が見えたような気もしたけど、全て無視で。
そして、近道し続けた結果、残り時間はあと四分。
とりあえず、物陰に隠れて息を整えつつ、出て行くタイミングを見計らう。
時間は無いけど、タイミングを見誤ったら、ミイラ取りがミイラになりかねない。それだけは、何としても阻止しないと。
「……」
それよりも、今更自分がどう呼ばれてるのか、知ったぐらいで落ち込まないでほしい。
――いや、今更ではないか。
やれやれと思いながら、出て行く。
「やーっと見つけた」
「あ、飛鳥!?」
何事も無いかのような口調で出て行けば、ぎょっとした表情がこちらを向く。
「時間無いから、早く行くよ」
「え? け、けど――」
「時間確認しろよ、お姫様。今みんながあんたの登場シーンが遅れるように、必死になって引き延ばしてくれてるんだ。それも限界が近いんだから、早く行くよ」
戸惑いながらも周りを見る桜峰さんにちょっと苛々しながら、彼女の手を引きつつそう言えば、周りの少女たちが我に返ったらしい。
「か、勝手に連れて行かれても困るんだけど!?」
「はい? 先にこの子、連れて行っておきながら、困るとかふざけんな。こっちはこの子一人の不在で大勢に迷惑が掛かるんだよ」
「そ、そんなこと――」
「文句があって、邪魔するのなら、掛かっておいでよ。どうせ不利になるのは、君たちの方だけど」
悔しそうな表情をする彼女たちを無視して、桜峰さんを連れて、この場から離脱する。
「ちょっ、飛鳥っ」
桜峰さんの呼び掛けに、溜め息を吐いて足を止める。
「あのさぁ。ああいうのに、ほいほい付いていかないの。これからは、味方が近くにいない時点で糾弾されると思っておきなさい」
「糾弾って、何で……」
「それも分かんない?」
そう問えば、桜峰さんは顔を逸らす。
「友人で居るのは構わないけど、周囲からどう見られているのか、少しは自覚しなさい」
「飛鳥はこのこと……」
「遅かれ早かれ、こういうことが起きることを予感はしていた」
桜峰さんが俯く。
予感というか、これから何が起きるのか知ってるだけだけど。
「それより、少し急ぐよ。さっきも言ったけど、咲希が遅れたせいで、みんながんばってくれてるんだから」
「う、うん」
そのまま慌ただしく、みんなが待つ体育館へ向かっていく。
「ごめん、予定より遅れた!」
「大丈夫。延ばし始めたところだから、何とかセーフよ。まあもう少し遅かったら、正直ギリギリでアウトだっただろうけどね」
桜峰さんをさっさと役の衣装へ着替えさせに行かせ、委員長は委員長で、舞台袖から舞台上の面々にスケッチブックで桜峰さんの到着を知らせていた。
「奏ちゃん、ごめん。時間オーバーして」
「いいよ。何かあったのは分かったから」
今はこの辺り、と台本を開きながら、舞台側と見合わせながらも奏ちゃんが教えてくれる。
「ご苦労さん」
ぽんと頭に手を置いてきた
「本当だよ。見つけたら見つけたで、絡まれてるんだもん」
「けど、そこに突っ込んでいって、助けたんだろ? お前は」
「舞台最優先だからね」
そう言えば、二人がやれやれと言いたそうな表情をしながら、顔を見合わせ、肩を竦める。
「変わらないよなぁ。そういうところ」
懐かしむような表情で、夏樹がそう言う。
「そう?」
首を傾げながらも、舞台の進行状態と台本を比べ、音楽を流していく。
「そうだよ」
肯定しつつ、そろそろ出番だから、と夏樹が去っていく。
「会話聞いてて思ったけど、本当、仲良いよね。二人とも」
「まあ、幼馴染だからね」
奏ちゃんの言葉に苦笑する。
こちらに来てから、何回『幼馴染』って言っただろうか。
「お互いに迷惑掛けたり掛けられたりしていたから、いやでも苦手なこととか、分かっちゃうんだよね」
「そっかぁ。じゃあ、二人がそれぞれの相手に求めるハードルも上がるかもね」
「うん?」
「だって、
奏ちゃんの言いたいことは分かる。
お互いがお互いを分かっているということは、恋人となった人よりも、その人のことを理解しているということになる。
そうすると、どうなるのか。そんな予想から来る可能性は、今も未来もある。
うん、だけどね。
「何でこんな話になったんだっけ」
奏ちゃんには悪いけど、しらばっくれてみる。
「それは……っ、」
どうやら、奏ちゃんも気づいてくれたらしい。
「少し話しすぎたね」
私が戻ってきてから、ずっと音声遮断していたから、話し声だけは外に洩れてないだろう。
この劇が終われば、先輩たちから話が聞けれるんだし、それまで、この微妙な空気は我慢したいところだけど。
「ごめん、奏ちゃん。空気悪くして」
「ううん。私こそ、ごめん。首突っ込むような話をして」
とりあえず、お互いに謝罪し合えば、思わず噴き出す。
――舞台は終盤。劇終了まで、あと残り十分。
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