水森飛鳥と波乱の学園祭Ⅰ(文化祭当日)
「飛鳥、一緒に回ろう!」
「……」
学校祭――文化祭当日。
声を掛けようとしてきたらしい体勢のままの夏樹を前に、割り込むようにして桜峰さんが声を掛けてきた。
「あー……でも、生徒会のみんなと回るんだよね?」
得ている知識が正しければ、デートするかのように、一人ずつ入れ替わりで回っていたはずだ。
「うん。でも、大丈夫。みんな優しいから」
それは貴女に対してであり、彼らから私に向けられている視線がどういうものなのかを判断してから言ってほしい。
夏樹に目を向ければ、友人たちから励まされていた。
「……じゃあ、会長と副会長の時以外なら、一緒に回ってもいいよ」
あの二人は三年生で(出来るかどうかは分からないが)卒業も近い。だったら、気を使って、二人っきりにでもさせるべきなのだろう。
それに、桜峰さんと一緒に回るのが嫌だと断れば、あの面々に何を言われるのか分からない。
だから、会長と副会長を除くメンバー以外ならいいと妥協したのだが、桜峰さんが納得できなさそうな表情でこっちを見ていた。
「もし、それが無理なら、一緒には回れない」
どうするの、と彼女に尋ねる。
「……分かった」
桜峰さんのことだから、みんなで回りたかったのだろう。
でも、『七夕祭』の時みたいに、変に注目されたくはないし、私にも用はあるから、ずっと一緒に回るのは無理だ。
「それで、最初は誰となの?」
「
トップバッターは鷹藤君か。
「そっか。じゃあ、行こうか」
ちゃっちゃと行って、早く解放されよう。
☆★☆
「いらっしゃい」
「……」
笑顔で出迎えてきたのは、副会長である
副会長がいるこのクラスの出し物は和風の喫茶店というコンセプトなのか、イメージに合うように、彼は深緑色の和服っぽい衣装と
ちなみに、メニューは、飲み物が抹茶を筆頭としたお茶系(抹茶ラテも含む)で、デザートは和菓子系が多めとなっている。
喫茶店をやると言っていた鳴宮君のクラスの出し物とは、方向性が逆なのだろう。
(にしても……)
さすがというべきか、生徒会役員の一人がいるクラスなだけあって、驚くべき集客率である。
「うぅ、抹茶系って、やっぱり少し苦い……」
「おや、咲希には少し苦かったですか」
注文した抹茶(苦味控えめ)に対し、感想を告げる桜峰さんに、副会長がそう言いつつ、「苦味は抑えた方なんですけどね」と呟いていた。
ちなみに、私と鷹藤君は余裕で飲んでました。抹茶系の味のものは好きだし。
「二人は平気そうですね」
「私はもう少し苦くても平気ですがね」
「うへぇ……」
私の言葉に、桜峰さんが「マジか」と言いたげに、抹茶クッキーに手を付ける。
「うん、私はこっちの方がいいな」
「あ、こっちも美味しい」
抹茶味の羊羹などもいいが、抹茶味のビスケットで餡とクリームを挟んだ抹茶サンドも美味しい。
その後、そのまま食事を楽しんだ私たちは、
「それじゃあ、私たちはもう行きますね」
「はい。それでは、また後で」
副会長とそんな会話をして、教室を出る。
「次はどこに行く?」
「う~ん……」
「水森は、どこか行きたいところは無いのか?」
悩む桜峰さんに、鷹藤君が私にも行きたいところについて尋ねてくる。
「私は特に無いかな」
「そうか」
特に「ここに見に行きたい」という場所は無い。
「じゃあ、要先輩の所に行こう」
要先輩って……
「会長の所か」
「うん。確か縁日屋台を何個かやるって、言ってたし」
「縁日屋台って……」
大体想像は出来るけど、それを何個かって、何やってんだ。
「ま、とりあえず行ってみるか」
そんな鷹藤君の言葉で、私たちはとりあえず歩き出したわけだけど。
「……」
進行方向である会長のクラスの出し物がある場所へ進むに連れて、黄色い歓声が聞こえてきた。
「一体、何なんだろう?」
首を傾げつつ、桜峰さんたちと歩いていく。
とりあえず、異能を使って、この騒ぎの理由を探ってみる。
「……」
正直、歓声で掻き消えて、他の音や声が聞こえないのだが、私たちはいやでもこの騒ぎの理由を知ることになった。
その理由というのが――……
「あ、咲希先輩!」
生徒会役員である鳴宮君と後輩庶務、鷺坂君が居たからだ。
彼が声を掛けてきたことで、周囲の人たちは睨みを利かせたりしてきたけど、そもそも桜峰さんは気にしないし、鷹藤君は慣れているのかスルーしている。
私は私で珍しい組み合わせだと思って見ていれば、こっちの視線に気づいたらしい鳴宮君が苦笑いしていた。
「にしても、一緒に回るとか、二人とも仲良いんですねー」
私と桜峰さんを見ながら、鷺坂君がそう言ってくる。
おい、やめろ。今から今後のイベントの巻き添えを食らうのも、そのフラグを立てられるのもごめんだ。
「そう見える?」
とりあえず、怒気を少しばかり感じさせながら、にっこりと笑みを浮かべて尋ねてみる。
(これでもこっちは妥協してるんだよ)
そんな私の笑みの意味を察したのか、鳴宮君が必死に目を逸らしていた。
「見えますよ?」
笑みを浮かべて返答してくる後輩庶務。
うん、これはわざとだな。
「……そう」
けど、そう見えているのなら、そのままでいい。
「ねぇ、ところで二人は何してたの?」
空気を変えるためなのか、桜峰さんが二人に尋ねる。
「ん? ああ……射的だよ」
うげ、何かデジャヴを感じる。
「私たちもやらない?」
桜峰さんが私と鷹藤君に尋ねてくる……っと。
「俺は構わないが……」
「あ、私はパス」
小刻みに揺れながら、着信を知らせる携帯を確認して、そう返す。
「あと、少し抜けるから」
「ええっ、まだそんなに時間経ってないよ?」
「それはそうだけど、少し抜けるだけだから。ね?」
「うぅ~」
不服そうに唸る桜峰さんを何とか宥め、あの場から離脱する。
そして、そっと息を吐けば、連絡してきた人物の待つ場所に向かって、私は歩き出した。
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