水森飛鳥は逃げ出したいⅥ(七夕祭本番)
さて、『七夕祭』である。
年に一回とはいえ、学校イベントとしては文化祭や体育祭よりもやらないであろうマイナーな『七夕祭』である。
「……くそっ、また本格的なのが腹立つ」
がりがりとフランクフルトの串を噛む。
七夕を挟んだ一週間前後までは、『七夕祭』として、屋台や露店が出ている。
はっきり言って、授業や単位修得に支障が出ないか心配だが、ここの生徒や教師は優秀なのか、上手いことやりくりしているらしい。
(授業をやりくりするのもどうかと思うけど……)
とはいえ、義務教育でもないため、心配する必要もないのだが。
「その割には、しっかりと楽しんでいるように見えるのは、私の気のせいかな?」
苦笑するのは、隣にいる
そして――
「
「抜け駆けは駄目だよ、
「
生徒会役員の皆さんである。
なお、上から副会長、後輩庶務、会長である。
あと、副会長。あんた桜峰さんに避けられてたんじゃないのか。
「……」
「
「先にフランクの方を食べろ。落ちても知らんぞ」
そう告げる私の隣にいるのは、
そして今日は、桜峰さんよりも私といることの方が多かった。何故だ。
「うっさい。男共」
面々から離れようとしても、桜峰さんに見つかっては逃げ損ねるのを繰り返していた。
一度、鳴宮君たちが「水森さん、用事あるみたいだし」と離脱に協力しようとしてくれたのだが……
「なら、私も一緒に行っていい?」
みんなでやれば、きっと早く終わるよ!
そう笑顔で言う桜峰さんに、「嘘です。用事なんてありません。貴女がたと一緒にいたくないだけです」と、遠回しに言えるわけもなく、そのうえ
桜峰さんがやるなら、と何故か妙な連携を見せる生徒会役員に、私は溜め息を吐きたくなった。
「……いや、よくよく考えれば、後回しにしても問題ないし、こんな大勢でやることでもないから……」
「じゃあ、一緒に回れるね!」
嬉しそうにする桜峰さんに、「相手が実は急ぎの用だったらどうすんだ」とか「本当は一緒に回りたくない」とかやっぱり言えず。
羨望や嫉妬などを含んだ周囲の目が気になったけど、そこは開き直って気づかない振りをすることにした。私の精神的にも、その方が楽だし。
途中、傍観組も見かけたけど、同情の視線を向けられた上に、頑張れと言いたげに親指を立てられた。ははっ、立ち位置を代わってやろうか。
未だに残っているフランクフルトに口を付ける。
「……ゴミ、捨ててくる」
そっと同学年組に告げれば、いってらっしゃい、と見送られた。
「……おおっ」
まさかの脱出成功ではないか。
そして、そのまま桜峰さんたちから、できるだけ距離を取ることにした。
もちろんゴミ捨ては忘れずにした。だって、捨ててくるって言ったし、持って戻ったら何のために離れたのか、と怪しまれる。
とはいえ、あの中に戻るには勇気がいるし、少しばかり寂しいが、集合時間まではこのまま一人でいよう。
そのまま歩いていれば、大きな笹と色とりどりの短冊たちが見えてきた。
「あの神様は、どれだけの願いを叶えてくれるのかね」
笹からぶら下がる色とりどりの短冊を見て、そう思う。
私をこの世界に連れてきた神様。
『このループを終わらせてくれ』
ああもう……無駄に知識があるだけに、この後起きることも大体予想がついてしまう。
「あ、あった」
かなり上の方になるが、私の短冊があった。
そして、桜峰さんの短冊も見つけた。
「桜峰さー……ん」
願いが『みんなとずっと仲良く』って……いや、分かってたけども!
ん? あれは鳴宮君の短冊か。
『あの子ともっと話せますように』
あれ? こんな願い事だったっけ?
桜峰さん関係なのは間違いないと思うけど、こんな書き方はしてなかったはずだ。
「ここに来て、まさかのズレ? でもなぁ……」
物語はすでに始まっている。
だが、このタイミングで、このズレ。
「もしかしなくても、
だったら、もう少し何らかの反応があるはずだ。
でも、私が知る範囲で知識とは違うところは、今のところ『願い事の書かれた短冊』ぐらいだ。
他の役員たちのも確認すれば、『もっと側にいられるように』とか『一緒にいる時間が増えますように』とか何か似たり寄ったりなことを書いてあった。
「……うわぁ、恋は盲目って、こういう事を言うのか」
使い方が微妙に違うとは思うが、今はどうでもいい。
(桜峰さんは誰ルートに入るのかな?)
私には一応、各ルートの知識もある(神様曰く、あっても結局は無意味になっていたらしいが)。
本命は副会長だろうが、個別か否か明確になるのは二学期に入ってからだ。
「……」
だが、不安もある。
このループを脱出したとして、ゲームなどでよくある『続編』なんてものに突入するのでは、という不安だ。
はっきり言って、私はそこまで付き合うつもりはない。
「勝負は夏休み、か」
どうせ元の世界へはまだ戻れないし、こちらに来て二年目の夏休みを満喫しようではないか。
「それじゃ、戻りますか」
まだ時間まではかなりあるが、鳴宮君たちが上手いこと言い訳してくれているだろうし、桜峰さんたちの元にそろそろ向かった方がいいだろう。
本当は戻りたくはないが、戻らないと行けない。やれやれと思い、溜め息を吐きながら、私はそのまま来た道を戻るのだった。
☆★☆
「うん……?」
戻る途中で、ふと違和感を感じたため、手を見れば、何か光っているように見える。
一瞬、日の光のせいかとも思ったが、それが違うというのが校舎の陰に入ってから分かった。
「まさか、ね……」
私の身体全体を包む光。
何かの兆候だろうか?
「……近いの、かな」
大体の予想は出来た。
でも、何故このタイミングなのかが分からない。
「っ、」
もう少し――せめて、一学期の終業式までは待ってほしい。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、身体全体を包んでいた光は、いつの間にか消えていた。
☆★☆
「あ、
こちらに向かって声を掛けてくる桜峰さん。
「……かなり楽しんでるみたいだね、咲希」
手には食べ物、腕には射的とかで取ったのであろう(誰がとは言わない)景品があり、彼女がこのイベントを堪能しているのがよく分かる。
「うん!」
にこにこと肯定する桜峰さん。
何か、身体が光って悩んでいた私をバカにされた気分だ。……いや、私にとっては深刻な問題なのだが。
「生徒会の人たちは、どうしたの?」
一緒にいるはずの生徒会メンバーの姿が見えず、尋ねれば、
「あそこにいるよ」
と返されたため、桜峰さんが言った方を見れば、役員三名が何か張り合うように景品の一つに狙いを定め、輪投げをしていた。
そして、同学年組は同学年組で、何故かこちらも張り合っていた。
「何か、景品が可哀想に見えてきた……」
目の前で怖い顔をしながら一斉に輪を投げられたら、逃げたくなるだろう。
というか、私は逃げたい。今の役員たち怖いから。
「あれ? 水森さん、戻ってきたの?」
「ゴミ捨てに行っただけだからね」
どうやら、同学年組で景品を取ったのは、鳴宮君だったらしい。
そして、「はい」と何か――というより、先程鷹藤君と取り合っていた景品を渡された。
「持ちきれないから、少しの間持っててくれない?」
「……」
うわぁ、視線がすっごい。
とりあえず、お嬢さん方、落ち着きましょうか。
あと、鳴宮君。手ぶらなのに持ちきれないとか、嘘もいいとこだ。
「持ちきれないからって……まさか、この後も取るとかじゃないよね?」
私へのプレゼントだと一瞬思ったが、そんな考えは即除外したし、変な勘違いもするつもりはない。
「さあ?」
わぁ、見事にはぐらかされた。
その後もいくつか見た後、あっという間に集合時間になり、帰りの
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